MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルワン9-3

2009-09-18 | オリジナル小説
渡は目を覚ました。
「何?どうしたの?」渡は自分が宙に浮いて、床に投げ出された搭乗員とか床に散らばるなんなのかまったく見た事もない煩雑な物体を眺め降ろしていた。
「・・・ユリちゃん?・・・僕、死んじゃったのかな?」先ほどまで意識しか感じられなかったことを思い出す。不思議と怖くなかった。
(又だ・・・又、死んじゃった・・・あれっ?又っていつだ?)
「ワタル。アナタは生きています。」はっきりと耳元で声がした。渡はユリの父の姿をそこに見た。自分は彼の腕の中にいた。渡は素直に感嘆した。なんて蒼い目だろう。渡はそれに捕われて言葉を失ってしまった。いつまでも見つめていたい。今までに感じていたユリの父親に対する恐怖は微塵も感じなかった。
(何かの・・・間違いじゃないのかな?。この人・・・もし、人だとしたらだけど・・・誰かのお父さんって感じじゃないよね。)
そんな彼の思いを見透かすように、蒼い目はクスッと笑ったようだ。
「・・・遅くなって、ごめんなさい。ユリが呼んでるのが聞こえたので・・・間に合って良かった。」静かで深い声だと渡は思った。
それから、急に時間が動き始めた。渡にはそんな風に感じられた。
「阿牛さん・・・」
「はい、ワタシはアギュです。」
アギュは空に浮いたまま、ボードを囲むように床の下回りに固定されているカプセルのようなものをしばらく見下ろした。
彼の眉がフッと寄るのを渡は見た。「これは・・・」彼が口の中に言葉を飲み込んだので渡には意味がわからなかった。わからなかったが、アギュが怒っているのはわかった。渡もそのカプセルをチラリと見た。カプセルは7つあった。鈍く面が曇っているものは、液体なのだろうか。ドロリと何かが充填されている。そうでないものは黒いだけで何も入ってないようだった。
なんとはなしに棺桶のようだと思った。そう思った瞬間、アギュの腕が動いた。
「・・・降ろしますよワタル。自分で立てますか?」
2人は斜めになった宇宙船の床に降り立った。傾いで点滅しているボードを見上げる。光の中に暗黒の渦がある、と渡は思った。
「おびえなくていいですよ。」ふとアギュがそう呼びかけたのは、自分になのかその暗黒のものに対してなのか渡にはわからなかった。
彼が伸ばした手は透けるように青白かった。ボードに手を乗せた時、渦の中で何かが弾けるのがはっきりと見えた。歓喜?渡はそれに無意識に問う。それは死にたがっていたと思ったのに。アギュはまるで愛撫するようにボードをつかの間、ゆっくりと円を描くように手で触れ続けた。それから口を開く。
「さあ、まず、水平にしましょう。」
彼がそう言うと床が持ち上がり、滑らかに水平になるのがわかった。
「それから、サーチ。回りを見せてください。」
答えるように船の壁の全面に景色が映し出された。天井には何もないように黒い空と星々が見えた。当たりは思ったより暗くなく、むき出しの礎石と折れた朽ち木の間に生木がもうもうと燻されて黒い煙が上がっている。
傾いた鳥居は見覚えがあった。御堂山の神社、汚れを奉る神社、巫女だった死んだ伯母・・・そんなことが頭をよぎる。
「神社に落ちたみたいですね。」ユリの父は考え込むように滑らかな額に皺を寄せる。
「ここには、マーキングがあるのでしょう。気がつかなかったけど。巧妙に隠されていたみたいですね。」「マーキングって?」震えたコネクターを思い出す。
蒼い瞳が再び、渡の目を覗き込む。「大昔にですね・・・この星の大昔です。この星に宇宙から来た旅人が着地点を残したのですよ。・・・再び、ここに来る時に迷わないように。」
「そう言えば・・」ユリと会話した最期に山の中腹に見えた白い光のことを渡は思い出した。そして、ユリ。ユリはどこにいるのか?「あ、ぼく・・・さっきまでユリちゃんと話をしてたんだ・・あ、あと変な虫とも・あのさ・・信じられないかもしれないけれど、頭の中で。」
「・・・知ってますよ。ユリは安全なところにいますから大丈夫ですよ。」
アギュはそう言いながら冷静に床に落ちたカプセルから躊躇いもなく3つを選び出す。そして、ボードに命じた。「これはここに降ろしてください。」3つのカプセルが魔法のように姿を消した。思わず、渡は尋ねる。
「後はいいの?」「ソッチは色々と面倒ですから。」
残った棺桶にアギュは眉を潜めた。「コレは消えてしまった方がいい。」
それよりも、渡にはアギュに聞きたい事が沢山あった。それを口にしようとした時。
「誰だお前は!」
手にまだ銃をもったまま、ふらついた痩せた男が立ち上がる。あの墜落の最中、咄嗟に安全シールドを発動させたのはさすが宇宙人類と言ったところだが、弟の頭蓋骨が卵のように潰されるのを目にした一瞬の遅れから口が切れて血が出ていた。「あの蒼い光はなんだ?どこに消えた?」
それは、ダ・リであったがそんな名前はアギュレギオンには興味のないことだろう。
「どこから入って来た!まさか、ワープして来たのか?」
「そうだ、おいっ、ジンはどこ行った?」もう一人ダ・アが床に投げ出されたダ・ウに這いよる。木っ端みじんになった一番下は散らばりへばりついた体液の真ん中でぴくりともしない。
ダ・アもそれを確認したに過ぎない。「ちくしょう!ジンの野郎!」
「ジン?」渡がすばやくアギュを見上げた。「ジンがいたの?ここに?」


「ワタル・・・アナタは彼を知っているんですか?」
「ううん!さっき初めて会ったんだ。でも今は、仲間だよ。」渡が手短に説明する。「僕たちを助けてくれたんだ。」
「ガキ!ジンはどこ逃げた?お前は誰だ?」銃口を突きつけた一番上が血を拭う。
「取りあえず」アギュは静かに渡を胸に引きつけた。渡は彼の服のヒダに押し付けられる。なんの匂いだろう?冷たい風を嗅ぐようだ。「ここを出ましょう。」
「おいっ!こいつはここの住人じゃないぜ!」「まさか、オリオン人かっ?」
ダ・リがアギュを指差す。急激に光りを発したアギュに銃口が火を吹く。アギュはソリュートを盾にしてそれを防いだ。
「生身のヒトを連れていても、2段階ほどなら潜れることは彼がさっき教えてくれましたから。」アギュはデモンバルグの軌跡の後を次元に嗅いだ。それをなぞるように追って行けばけして難しいことではない。すぐにこのやり方も自分のものにできるだろう。アギュの蒼い光は凶暴なまでに高まり、男達は黙視ができなくなる。
彼らはいたずらに引き金を引くばかりだ。
「なんだっ!こりゃ!」ついにダ・アの口から恐怖が迸る。
そして光が完全に消えた瞬間、アギュと渡の姿はこつ然と消えていた。


渡の意識はその時から途切れている。
これは夢なんだろうか。思いもかけない、大変なことがたくさんあったような気がする。なんだか、みんな夢だったような。
UFOなんてさ。しかも、僕がUFOを運転したなんて。でも、ユリちゃんとテレパシーで会話したのは本当だった、それはまちがいないと思うけど。
それから、阿牛さんが現れて・・あの悪人達が怒り狂ったんだ・・。
きっと、銃で撃たれたんだ。阿牛さんはどうしたんだろう?。あの人なら、撃たれても大丈夫な気がする。きっと、逃げたよね。
阿牛さんの目、蒼くて奇麗だったな。ユリちゃんの目の色とは全然、違うけど。阿牛さん・・アギュさんは、そんなに悪い人じゃなかった・・もう、怖くない。怖くないのに死んでしまったなんて、すごく残念だな。ユリちゃんにももう、会えないのかな。お礼を言いたかったのに。
なんだか、とても、気持ちが良い。頭の中に満点の星が広がる。どこまでもどこまでも、どこまでも続く星の群れ。
宇宙だぞ・・・これっ!渡は思う。すごい・・すごいよ!。なんてスピード!
僕は宇宙のど真ん中に浮かんでいるんだ・・!。
『そうか。』ふいに渡は確信する。『この人は・・阿牛さんは・・ここから来たんだ。』
この時この瞬間、渡はアギュが宇宙から来たことを理解した。理屈ではない。
ただ、このベルベットに煌めく星の幻が・・・アギュの意識が渡の中に流れ込んで来たのだった。それがアギュの意識だとも自覚しないで。
そして、その星々の中のひときわ強く輝く光に渡は気がつく。
暖かい懐かしいようなオレンジ色。
渡は泳ぐようにそれに近づいて行った。
『?!』渡は目を見張る。
光の中に丸くなって女の子が眠っていた。
『ユリちゃん?・・違う・・この人はもっと上だ。香奈ねえと同じくらいかな?』
オレンジ色に染まった柔らかい布のような衣服に包まれて、滑らかな頬に長いまつげが伏せられて微笑んでいる、幸せそうだ。気持ち良さそうに胸が上下している。渡もその寝顔に心がほころぶのを感じた。
『きれいな人・・知らない人だ・・でも・・どこかで見たことがある?・・・誰かに似ている?・・・いったい、この人は誰なんだろう?』



「渡?」体がそっと揺すられた。
阿牛さんが自分を抱いているのがわかった。今度は外みたいだ。風が顔に当たる。
渡は壮絶に眠かった。目が中々開かない。やっとのこと、開けてみると真っ暗な中に蒼い燐光が目の前に広がる。阿牛さんの光だ・・。
「・・・さん?」渡はもごもごと口を動かすのがやっとだった。
「・・さんは宇宙から来たんだね。」
「そうですよ・・。」静かな声が耳朶を撫でる。
「・・ぼく、わかったよ・・誰にも言わないから・・ね・・」
あともうひとつ。どうしても聞きたい気になったことがあった。
「阿牛さん・・キーって何?」
「キー・・・ですか?」彼は困惑するようだった。
「あの人達の誰かが・・・僕のことを・・・僕はキーなんじゃないかっていったんだ。それで・・・あそこに載せられてそしたら・・・頭の中になんか一杯入って来て・・・ユリちゃんはそれに取り込まれるなって・・・すごく怖かった。それって・・・何?なんなの?なんか悪いことなの?」
心配のあまり渡は長い言葉を言う為に残りの力を振りしぼった。
「僕・・僕ね・・あの・・機械が動かせるんだ・・・僕は・・」
僕はずっとそれで困っていた。僕はつらかったんだ。誰にも言えなくて。とても怖かった。秘密をかかえていたから。渡の目尻から自分でも気がつかないうちに涙が伝って流れていった。
アギュはしばらく黙っていた。考えてるようだった。渡は眠ってしまいそうな自分と戦っていた。この人なら・・・阿牛さんなら必ず答えてくれる気がした。
「それは・・・おそらく・・・」アギュは心配そうな渡に笑いかけた。「ワタシを見ましたね?ワタシがあのボードを・・・そうですね、あれはいわゆる操縦機です。あれを触って操作していたでしょう?。ああいうことができる人のことですよ。機械と意識を融合させることができる人間がまれにいます。不思議でもなんでもない。ワタシの世界では普通のことです。」
「そうなんだ・・・」渡は瞼がいまにもくっつきそうだった。「じゃあ、阿牛さんも僕と同じなんだ・・・キーなんだね。」彼はひどく安心する。
「ワタル!」甲高い不明瞭な声が響いた。よく音のでない笛のような空気の多い声。
「ユリ?」阿牛さんが驚いた声を出す。「アナタ、声が?」
「ワタルー!」声と柔らかい手が差し伸べられ、渡は体が阿牛さんから下に降ろされるのがわかった。「ユリちゃん・・」渡は冷たい頬を自分の顔に感じる。ああ、もうほんと今度こそ、安心していいんだ。僕は助かったんだね、ユリちゃん・・泣いてる?・・泣かないでよ、ほんと僕、大丈夫だからさ。
「・・ありがとう・・」渡は自分の手の中に差し入れられたユリの手をどうにか握り返すと、それで力尽きてしまったのを感じた。
それっきり真っ暗な闇にあらがうことなく落ちて行った。
限りなく満ち足りた、幸せな気分のまま。

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