MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルワン9-4

2009-09-18 | オリジナル小説
「・・アギュ・・来たんかい?」
ガンダルファが青色と息で息を継ぐ。
「あ~、疲れたっ・・今日はもう超過オーバーだよっ・・」
「ガンタはわしらを担いでここまで来たからの。」
背中から降りたタトラが説明した。
「渡を奪われなくてよかった。」アギュは後ろを振り返った。
「この子供は普通でないぞ。」アギュがうなづく。「告白を聞きました。この子は特殊能力がありますね。この子の力がどこから来たものなのか・・・この子に入った魂の由来がぜひに知りたいものです・・・そういえば。」一旦、言葉を切る。
「デモンバルグがいました。」
「えっ?マジで?」
「ワタシが来る前にワタルを助けに船にいました。ワタシが来ると逃げてしまった・・・ワタシにワタルを託して。」
「渡を助けに?そうか、そうだもんな。でもそれって、どういう関係なんだろ?」
「・・・それは今だに不明です。」もっとも臨海した人類に近い生命。アギュはデモンバルグが去ってしまったことを残念に思った。
「もう一度、デモンバルグに会わなくてはなりません。」
奇妙な振動と音がして点滅する光が上昇するのが見えた。
「おい、逃亡するぞ。」
「ワタシが船を直してしまいましたからね。」
「なんだよ、それ!」
「今では貴重な珍しいフネだったものですから、つい。」
「アラン・ドト・メテカか。奴らは遊民のギャングだの。」
タトラは強い光を発して消えた船を目で追った。
「アギュ殿、奴らがお前さんを見たのなら生きて返すのはどうかと思うが。」
「こえぇこと平気で言うなあ。」ガンダルファがため息。「だから、宇宙人類って嫌さ。」タトラ鋭い視線を返す。「そんな甘い事を言っていたら、隊長が臨海体だってことがあっという間にリオン・ボイドに知れ渡るぞ。」
「大丈夫ですよ。」アギュはどこか間延びした声を出す。
「カレラの狙いはここの地球人類のニクタイみたいですね。4つ程、外に運び出すつもりのようです。生きた人間の方は神社に降ろしてもらいました。後でカプセルを回収しておきます。」
ガンタは御堂山の中腹にある大岩を振り仰いだ。
「まだ他にも人質がいたんだ。良かった・・・誰も連れて行かれなくて。」
「人体部品の売買かの。遊民は背骨を損傷する割合が高いそうじゃ。正規の人民でなければ移植手術も高くつくからの。」
それを聞いたユリが暗い顔を上げた。目に怒りがある。
「そんなことにここの人類の体が目を付けられたら大変じゃの。死体だろうが、断じて持ち出させてはならんぞ。」
「その為にワレワレがいます。」アギュを見るユリの目が輝く。
「だけど、もう死体を回収している暇はないんじゃない?」
焦るガンダルファはアギュの落ち着いた顔を不思議そうに見やる。
「早く母船に連絡して、船体ごとぶっ飛ばしてもらわないと間に合わないよ。」
「手はもう打ってあります。」
「ふむ。なるほどの。」
「ちぇっ!シドラかっ!」ガンダルファはしらける。
「聞いたか、ドラコ?ずるいったらないぞ。」
「まあまあ。」アギュは取りなすと、足下に眠る渡ともう離れまいとするかのように彼に寄り添うユリを見下ろした。
「ユリ。」優しい声に娘が素直に見上げる。
「あなたは声が出せるようになったのですね。」
アギュはかがみ込んで同じ目線になる。
「ユリ。」少女は挑戦するように父親を見返した。キッと口を結んで。
「そんな目をしなくても大丈夫。」アギュは失笑する。「今まで私はあなたの成長を抑えて来ました・・・」ガンダルファがハッと2人を見る。
「ユリ。あなたに聞きます。」タトラもその成り行きを黙って見守っていた。
「あなたは成長したいですか?」アギュの声は少しだけ寂しそうだったのは気のせいかもしれない。「渡と共に。」
その瞬間、強くうなずいたユリの目からほとばしるように涙がこぼれ落ちた。それでも少女は目を閉じることも反らす事もしなかった。まっすぐな強い眼差しは揺るぎもしない。「・・シライッ・・!」ユリの口が動いた。「・・シタイッ!ワァタァルゥ・・ワタルゥトォッ・・!」ついに少女は感極まってアギュの胸に飛び込んだ。
身を捩り激しく大声で泣きながら辿々しい嗚咽が漏れる。
アギュはその体を髪を感慨深気に撫で続けた。
「わかりました。」
その瞬間、ガンダルファとタトラ(そしておそらくドラコも)2人はふーっと深々と息を吐き出した。
「ヒョッホーッ!」ガンタは目に不覚に滲んだ涙を気づかれまいと声を上げる。
「そいじゃ、決まりだ!ユリちゃん!いい女になれよな!」
「ガンタ、手を出したら殺されるぞ。」
「まだその心配、早いでしょ。」ガンタにやける。「渡と争ったって勝ち目ないし。」
アギュは泣いている娘をもう一度強く抱き占めると静かに体を放す。
「竹本から、人が近づいています。私はここにいないことになってますから。」
「了解!後は任せろだ!」
ガンダルファは眠っている渡を肩に抱き上げた。タトラがユリの手を引く。まだ、しゃくりあげていたユリは照れくさそうに笑ってアギュに手を振った。
「では。」と言いかけてアギュが言葉に詰まる。
「あ、そうです。・・渡には・・私達のこと、バレてますが・・心配ないと思いますよ。」
トラが目を剥く。「いいのかの?記憶を消さないで。」
「その子は特殊です。」アギュは夜空を見上げる。「きっと大丈夫だと思いますよ。」
「じゃあ、香奈恵とガキンコ2人だけか。」
(仙人はどうするにょ?)
「あ、そうだ!仙人がいた!」
「仙人?」アギュが不思議そうに振り返る。「ここに仙人がいるのですか?」
「そう呼ばれてる、ホームレスじゃ。」
「アァ、ワァルイヒト、チガウゥッ!」ユリがサッと顔を上げる。
アギュの光る裾を掴んだ。
「うん。悪い奴じゃないとは思うな、僕も。」
「仙人はわしらを助けてくれたのだ。あいつらとの繋がりはまだ確かめてみなければなるまいがの。奴らの仲間ではないと言ったのは本当じゃないかとわしは感じた。」
(トラちゃんの直感はガンちゃんより正しいにょ!)
「おいっ!、引き合いに出すなよ!こっちは、関係ないだろ!」
「なるほど。」アギュはユリに微笑みかける。
「大丈夫ですよ、その人には悪いようにしませんから。」ユリはやっと裾を放した。
「じゃ、仙人は後々調べてからってことで保留かな。まあ、今回のことをあちこちで進んで話すような奴じゃないと思うしね。なんせ、人付き合いを嫌って山にこもってるんだし。」あ、と声をあげる。
「そうだ!ジンは?。ジンはどこ、行った?ジンとか言う奴だよ。あいつはやばいんじゃない?軽いし、金の為ならなんでも話しそうな奴だよ。」
「そう言えば・・・消えたの。」虎は周囲を見回す。「面妖な奴じゃったが。」
「ジン。」アギュはガンタの背中の渡に目を走らせ一時逡巡する。
「その人が、おそらく・・・さっきフネにいた、デモンバルグのようです。」
アギュと渡を除く全員が驚愕する。
「なんだって!あいつがっ?嘘だろ!」
「信じられぬ。神興一郎と名乗ったあの男は確かに、血肉を持っていたぞ。」
(ドラコにもわからなかったにょ!ジンは人間だと思ったにょ!)
動揺する2人と1匹の後ろから、ユリは口を固く結んであどけなく口を開けている渡の寝顔を見上げた。拳がキュッと結ばれる。
「そう言えば、あいつ・・・確かに渡にやたら絡んでいたな。」ガンタも血の引いた顔を引き締める。「それに・・・渡を円盤に連れて行ったのはあいつだった。」
「そうじゃ。アロン・ドト・メテカが渡に反応することを試すようじゃった。」トラは首を振る。「と、言う事はどういうことなんじゃ?。奴はここでいう悪魔とか、幽霊とか呼ばれてるものなんじゃろう?。渡はそこにどう絡んでくるんじゃろう?」
「カレは・・・この星の人類のかなりの歴史・・・おそらく、有史以前のことを知っているのではないかと思います。」アギュは呟いた。「もしかしたら、遥か古代にこの星にたどり着いたフネのことも知っている可能性があります。そして今それがどこにあるのかをワレワレに示すことが出来る可能性もある・・・カレは自分をこの星を統べる者と言っていました。人類を狩るホショクシャだと。」
ここでアギュは少し笑ってしまった。ガンダルファが不信な顔をする。
「カレはワタシを言ってました。宇宙の悪魔だと。」唇が歪む。「当たってなくもない。」「アギュ殿・・・」
アギュは自分という臨海体を出してしまった為に滅ぼされたも同然の故郷を思った。
自分の活躍をもってしても彼等の処遇は今だにたいして変わっていない。
「失礼な奴だ!」ガンダルファが猛然と怒り出す。「今度、会ったら・・!」
「まあ、それはいいではないですか。それよりも。」
確かめねばならならなかった。悪魔と呼ばれるエネルギー生命とこの果ての地球と名付けられた星に住む人類の関わりを。そしてそのことはやがて、オリオン人とカバナ人からなるオリオン連邦とこの星の人類・・・祖を同じくする人類同士の空白の歴史を明らかにあぶり出すに違いなかった。アギュの目が強い光を放つ。
「なんとしても、デモンバルグを捜しださねばなりません。」
「デモンバルグを探せば、自ずと船も見つかるかも知れぬということかの。」
「奴が、渡を狙ってるならさ。ほっといてもきっとまた、向こうからやってくるんじゃないかな。」ガンタが口を挟む。
「渡にピッタリ付いていれば、必ずコンタクトしてくるに決まってるよ。」
「アウウッ・・・!」ユリが叫んだ。拳を固めて何度も自分の胸を叩く。渡の前に立ちふさがるようだった。「アァタシィ、マモルッ!ワタルゥッ!」

その時、下の方で人声と草をかき分ける音がした。
「おーい!。そこに、誰か、いるのかー!?」
「親父さんだ、渡の。」ガンタが囁く。
「では、話は後日。」アギュは闇の中に後ずさる。「この場は任せます。」
「任しとけって。」
「ユリ、それじゃ。」光は闇にまぎれて行く。
「アギュゥ、ワタル、マモル!」
ユリの目はアギュの光を受けた青い涙を乱暴に拭った。「バィ・・!」
「おーいいっ!親父さんですかっ?」
ユリが手を振り、アギュが闇に消えるのを見計らってガンタは大声で叫んだ。
「こっち!渡くんも一緒です!」
「おおっ!ガンタくんか!」
おじいさんの声もする。「みんな無事かっ!」
薮をわける音が激しくなる。
「ところで、子供達の記憶だがの。」
隣に落ち着いて座り込んだ寅がふとガンタを見上げる。
「UFOの思い出ぐらい残してやってもいいと思うがな。」
「ロマン程度?」ガンタが振り返りニヤリと笑う。
「ロマン程度で。」寅も笑う。「この騒動で消しすぎると却って不自然じゃ。」
「了解。」




その頃、この次元にすごく近い次元であるダッシュ空間レベル4に消えた船の中では残された2人の遊民が興奮し、繰り返し復讐を誓っていた。
「そうだっ!あいつは、あれだっ!」ダ・リは目をギラギラさせ、身を振るわせる。
「お前も聞いた事ぐらいあるだろう?!。ボイドの奴らが騒いでいた、いつだったか軍隊が連邦に潜航したことがあったろう?連邦の最高機密を奪いに行ったとかいうやつさ!失敗したらしいがな、きっと、あれがそうだったんだ!なんて馬鹿な無茶なことをって、俺だってそん時はそんなの噂だと思っていたけどよ、本当にいたんだ!臨海進化だ!あれが、臨海進化体に決まってる!」
「臨海っていったら、人類が最高に進化した形なんだろ?カバナ・リオンだって人類なのに、なんでオリオン人にしか起きないんだよ?」
「知るか!」長男の興奮は高まるばかりだ。「そんなことは問題じゃねえ!問題は金になるってことだ!ボイドの人類には起こらないから、カバナ・リオンは涎が出るぐらいそれが欲しいってわけなんだよ!どんなことをしても手に入れたいんだっ!」
「連邦にあってボイドにないものか!取り戻したいんだもんな!」
ダ・アは床に転がるダ・ウを顧みた。「ちくしょう!お袋が怒り狂うぞ!」
そこから、彼にも興奮が移る。「ひょっとして、こんなことになっちまったけど、金があればダ・ウのクローンとかも作れるかもな?こんなぐちゃぐちゃになっちまったらそんじょそこらの部分的クローン蘇生じゃもう無理だもんな。もしお袋が許してくれるんなら、一から完全復活できるかも!ダ・ウの野郎、オムツを付けた赤ん坊から再出発させてやろうぜ。こいつは笑える!なんたってものすごい、金が手に入るんだろ!」そこまで言ってダ・アは首を傾げた。
「だけど、なんでこんなはずれた星に臨海体がいるんだ?こんな辺境地にいるのは何か理由があるのかもな?だいたい臨海進化体は中枢にいるはずじゃないのか?連邦の最高元帥になったんじゃなかったっけ?」
「でも、見ただろ?あんな人間がいるかっ?あれは人間じゃねえ!この星の奴らとも違う!ロボットでもサイボーグとも違う!全身が光り出したんだ!光って消えたんだ!青い光だ、噂とも合致するだろう?」
「そうだとすると・・・!その訳ってことだけでもすごい価値がある情報な訳だ!」
「どうする?戻ってそれを探り出してみるか?」
「冗談だろっ!」ダ・リは密かに身震いした。「気味わりい。まるで絶滅した怪談だぜ。」
「それを言ったらジンの奴だって・・・消えやがったぞ!消えたり現れたり・・・あいつはこの星の人間にしては妙な奴だったと思ったが。あいつが連邦のスパイだったのかもな。そう思えば、キーになる人間がいたことといい納得がいくぜ。まったく、行きがかりの駄賃に稼いで帰るだけのはずだったのに話が違うぜ。連邦が監視しているだけの話だったのに、この星はもうかなり勢力圏に置かれてるってことだな。まったく善行なんてするもんじゃないな。だから嫌だっていったんだ。」
「善行だなんて兄貴」ダ・アは吹き出す。「ものすごいふっかけただろうが。」
「お前だって最初は乗り気だったろうが!お偉いさんしか視察できない新発見の星だぜ。話の種によ、こんな警備の薄い手頃な星なら簡単に潜入できるってな。しかも、俺らと共合する遺伝子の人類の原始人どもがどっちゃりいると来たもんだ。」
「仕事を済ましたら、すぐ帰ればよかったんだ。欲を出したばかりに、ひどいことになったもんだ。」ダ・アは密かにリーダーである、長男を恨みがましく思う。

「とにかく!早く、ボイドに帰るんだ。お袋達に帰って相談だ!もし、臨海進化がここにいるって知ったら、カバナ・リオンはすぐにでもここに押し掛けて来たがるぜ。灰色だってかまわねぇんだ。どっちにしろ、確かめるのは奴らだ。これは一から十まで、奴らが聞きたい情報なんだってことだ!カバナシティに持ち込んだら、いったい幾らの金になると思う?!」唾が辺りに飛び散る。
「これでお袋にもいい背骨を入れてやれる!お袋だけじゃねえ!こんなせこい原始星人の奴らの背骨なんか目じゃねえかもしれねぇ、シティの一流の医者で拒絶反応なんか気にしなくてもいい培養背骨のすごい奴をみんなに入れてやれるんだぜ!ダ・ウだって生き返るしな!」
「兄貴!急ごう!船もなんだか元通りだし、思い切ってワープでもしようぜ!」
「そうだな!ボイドの際まで飛べば、ここにどんな部隊があったって後の祭りだぜ。追撃をかわせる。臨海体がいるんなら急がないとあぶないぞ!燃料が少ないが、残存燃料がリニューアルされたみたいに調子いいからな!」
「あいつが何かしたんだろうか?」弟が機械を操作しながら呟く。「おんぼろ船が新品みたいだ。この船は古いからな。買った時、古いシステムはもう腐る寸前だった。だから航行には新しいシステムしか使ってなかったんだ。なんとかメテカなら船の整備に金がかかんないからな。なのに古いシステムまで生き返ったようだぜ。これなら、ボイドまでワームホールが使えそうだ。あのしぶちんのおふくろが金をかけただけあったってもんだぜ。」
「だけどボイドまでは、ちょっと負荷が高過ぎやしないか、兄貴。」
「大丈夫だ。2人しか乗ってないし、残りは死体だ。生体が奪われちまったのが幸いしたな。」「ダ・ウが死んでてくれてほんと、良かったぜ。」
兄達はニヤニヤと弟の亡がらを見下ろす。弟が行きていたら怒り狂ったはずだ。
「もともと小さい船だから、たいしたメモリーにはならない。どうにかギリギリでぶっ壊れずに次元を乗り越えられるはずだ。まずは、ダッシュ空間をレベル4から、12までに細切れに潜る・・・でかい次元にでたらばアルファ空間からベータ、シータへとなるべく小さく飛んで行くんだ。」
新たなパワーがボードに注ぎ込まれる。
ボードが渦を巻き、変換が始まったことを示している。
「ダッシュ5へ移行!」
全身が波に洗われるように炊いだ。次元のシャワーを浴びているのだ。
何回かの移行を小さな円盤が繰り返すうちに磨りガラスの向こうに見えるような地上の風景が眩しくよじれるように変わり遠ざかり見えなくなる。外は様々は微粒子の嵐がいよいよ歪んだ水のように重く流れ始める。
「次は・・・いよいよアルファ空間に入るぞ。」
ありったけのパワーがボードを輝かせる。
船は更なる深い次元へとデータの変換を始める。
細胞が一度、分解され構築される感覚。さほど我慢する必要はなかった。
そして、全身の間隔が突き抜ける。
「やった・・!」長男は目を見張った。
飛び込んだ次元には強大な何かが待ち構えていた。彼らが飛び込んだのは開け放たれたワームドラゴンの口。瞬間、すべての物質をやけ尽くす炎が彼らを貫いた。


「やったな。」シドラはそのドラゴンの背でワームにねぎらいの言葉をかける。
「船はもったいなかったが、仕方がない。」
『奴らも本望だろう』自らのワームであるバラキの思考にシドラの体は激しく嬲られる。しかし、ドラゴンに選び抜かれたシドラもただ者ではない。
「微生物の考えがバラキにはわかるのか?」
『勿論』ワームの語彙は少ない。『我らと同じ次元に奴らも生きている。』
「それは・・!」シドラは驚く。
『狭い世界に飼い殺され、永遠に死ぬ事もできぬなどプライドの高い彼らにとっては耐えがたいことであったろう。』
語彙が少ないのにも関わらず、珍しい長い感慨だった。同じ次元生物である彼らに対してバラキも思うところがあるのだなとシドラ・シデンは少し面白く思う。
「カプートが生きていたら涎を流しそうな情報だな。アラン・ドト・メテカが長命なのはワームと同じように次元に関係してるなどとは。」ワームは思わせぶりに笑うがそれ以上は何も語らなかった。シドラもそれを無理強いするほど、知識欲があるわけでもない。
「まあいい。任務は完了だ。」シドラはついさっきまでいた地上の熱い夜を思い返す。
「あれもそんなに嫌いではない。帰るとするか。」
『ユリは無事だ・・・アギュはユリの封印を解いたぞ』
「そうか!」シドラはほっと息をする。「それを心配していたんだ。あやつはユウリに心酔していたからな。ユリまでおのれに縛り付けるのかとな。」
「そうとわかれば、もうひと頑張りだ。さっさと任務を果たしてユリの元に帰らねばならない。」
『シドラ』脳裏に響く、バラキの声は優しくさえなる。『ユリはユウリの代わりにはならんぞ』「わかってる。」シドラは顔をしかめる。「我を心配してくれるのか?我を案じてくれるのはこの宇宙ではおぬしだけだろうな。」にが笑うとシドラはワームの意識に自分を解き放つ。「心配するな。我はちゃんと分は弁えてる。我は代用品なぞ望まぬ。」バラキに寄り添い、彼女は微笑む。「我は一人ではない。」
ワームとシドラの意識は解け合って次元を地上へと走り始めた。
「今はもうおぬしがいてくれる。我はドラゴンボーイだ。それだけですべてなのだ。」

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