MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルワン10-1

2009-09-22 | オリジナル小説
         10.渡とユリ そしてオリオン人達


8月の最期の週末、夏の夜を駆け巡ったUFO騒動は、こうして終結した。
同時にそれは、渡の小学校生活最初の夏休みの終でもあった。

渡はガンタに背負われて下山する途中で無事に祖父と父に保護された。
ユリと正虎も一緒にいたのは言うまでもなかった。
残りの小学生2人、あっちょとシンタニは香奈恵と共に権現山の仙人に連れられ麓まで降りて来た所を捜索隊に発見された。
勿論、ガンタには感謝の言葉と同じぐらいの軽卒を誹る言葉が注がれた。大人が付いていながら子供らの無鉄砲な冒険計画に加担したと見なされたのだから仕方がない。ガンタも自ら反省する所も多々あったのだろう。言い訳のつかない所は、ひたすら平身低頭平謝りに徹した。その姿は潔くもあった。

しかし、関係者の中のもう一人の大人である、権現山の仙人であるが・・・この無宿人はどさくさにまぎれて姿をくらましてしまった。それで一挙に血圧が上昇した警察関係者と大人達は勢いのままに危うく山狩りへと突入するところだった。
ガンタと子供らが口を揃えて事細かに顛末を説明しなければ、彼の身柄は間違いなく首謀者の1人として氏名不詳のまま、全国指名手配になっていただろう。
(後日やはりホームレスはほっておいてはいけないと、村の駐在さんが権現山の彼の住居を訪れたが、もうそこはすでに引き払ってしまった後であった。わずかな持ち物は持ち去られ、そこは人の住処の体すら成さぬ有様だったと言う。以来、彼の姿は神月からすっぱりと消えてしまった。)
月城村の消防団員と青年団は中腹で燻る煙を消しに向かった御堂山の神社跡地で意識を失った女性2人と子供一人の身柄を保護することとなる。(そこには焦げた鳥居と周辺の草むらが広範囲に無惨を晒しているだけで、いつのまにかUFOが墜落して地面に穿たれた穴は跡形もなくなっていた。)

駐在さんが山に逃げ込むのを目撃した、気質らしからぬ男達は車に残された指紋などから覚せい剤の前歴がある暴力団員であることが明らかになった。勿論、言わずと知れた全員が前科者であった。職務質問をかわして山に逃げ込んだ先で行き当たりばったりに地元の子供達を誘拐・・・と、いういきさつは警察も首を傾げるところである。
神保町にある男達の所属する某組事務所は翌日に強制捜査をされた。その時、拉致された女達を組員達が追っていったという話が浮上したのだが、その真偽がはっきりしない。拉致した相手側の組織があやふやで特定できなかった上に、それらしい痕跡がはっきりしなかったせいもある。
シャブ漬けにされていた女子供は命に別状なかったがほとんど薬で眠らされていた為に、解明の助けにはまったくならならなかった。
彼女達はこれから病院で長い更生生活を送る事になるだろう。
その某組組織が持っていたマンションやアパートからも、外国から連れて来られた不法滞在者の女性達が大勢保護された。戸籍のない子供達も何人か保護される・・一番大きい子供で8歳ほどだったが、当然学校にも行かず教育も受けていなかった。4~5歳から客を取らされていたという女の子もいた。彼女達の強制送還その他は取り調べや療養の後の話である。複数の日本人を父親とし国内で産まれた戸籍のない子供達の処遇には、政府は頭を悩ませることになるはずだ。
売春組織の顧客リストも押収され、有名人がいたとかいないとかで世間は大変な騒ぎになった。
神月では翌日から2週間にわたり山狩りが行われたが、暴力団員3人を発見することはできなかった。その組員の写真は、ガンタと香奈恵によって子供らを拘束した犯人であると認められた。この3人は指名手配されたまま、いまだに行方が掴めない。
こうなっては警察は情報の乏しい頭を絞るしかない。ホステス達を連れ出したのは実は暴力団員達当人ではないかと結論づけたのは事件が起こって1月後であった。
すべては、ホステスの足抜けを巡っての争いの果ての相打ちと仲間割れ。恋愛を匂わせるロマンチックな話が週刊誌で囁かれたが真偽のほどはなんともいえない。
平和な村にとっては他所から来たやくざ達が、勝手に女達を巡って争い合い、どこかに逃げ去ったわけであるからその表舞台にされただけでも迷惑な出来事である。
神社跡に火を付けたのも彼らであろうと憶測されていた。

そのことはまだいい。駐在や捜査員達が頭をひねったのは、子供達が拘束された場所からちょっと下った谷の底で頭を割って死んでいた1人の男の死体であった。最初はこの男がシャブ中にされたホステス達を拉致した犯人であるのかとも思われていたのだが、その説は組の捜査が進むに連れて次第に人気を失って行った。たった1人でヤクザの囲ってる女と子供の合計3人を攫う等できるわけがないだろうといのがその主たる理由である。死亡時間だけが事件経過と重なるこの死体がなんらかの協力者なのか、ただの巻き込まれた男なのか、単なる自殺死体であるのか。この男の身許はついに割れなかった。

渡は密かに心を痛めていた。谷底の沢で発見された身許不明の死体。それが神興一郎ではないかと思っていたからだ。むごたらしい死体は子供の検分にはふさわしくなかった。だから、それを確認したのはガンタ一人だった。ガンタはその男を一度も見たことはないと力強く否定する。実際、そうだったからだ。
ガンタが帰ってくるなり、離れで待ち伏せしていた渡はその真偽を問いただした。これにはガンタ自身もはっきりした納得のいく返事ができなかった。ガンタの見た死体はあきらかにジンの服装風体をしていたが、彼の記憶する神興一郎ではなかったからだ。ジンの正体をアギュから知らされていたとはいえ、この絡繰りはどうなっているのだろう。死体になってる男は誰なんだか。
しきりに首を傾げるガンタを他所に、渡はどこかでほっと胸を撫で下ろしていた。
神興一郎がどこかで確かに生きているとわかったからだった。
悪人とはいえ、自分を助けてくれたジンに渡は不思議な恩義を感じていた。その感情は不自然なものであるが、実際にそうなのだから仕方がなかった。彼のせいで円盤にさらわれるというひどい目にあったわけなのに。
渡はジンに対する怒りや怖れがない自分自身に困惑する。
それだけじゃない。謎めいたガンタの態度である。「ジンのことは、黙ってろよ。」「円盤に攫われたとか言いふらすんじゃないぞ。」としつこく渡に念を押し「その話は後でじっくりするから。」と慌ただしく言うなり、まるで渡を避けるように正虎を連れて、神月に行ってしまったのだ。
それっきり、離れにも帰って来ない。

ここまでもまだ良かった。
ユリが、突然口を聞き出したことは奇跡とされている。
その奇跡を目の当たりにした渡の母の綾子は泣き出すし、旅館竹本はおろか月城村の中までもが当時は興奮の渦となってしまった。
話せる事になった事自体は良い出来事ではあるが、悪人に誘拐されるといったマイナスの結果の出来事であるから、当人にはかなりのショックであるはずだと診療所の医者が騒ぎを鎮めるのに躍起になったぐらいだ。
とりあえず、ゆっくり静養するのがしごく当然のことと今はようやく沈静化している。渡も母親から、しばらく自分から学校に出て来るまではそっとしといてやるようにとがっちり釘を刺されてしまった。ほどなく新学期が始まった。
香奈恵とあちょ、シンタニは渡と共にそれぞれの学校の人気者になった。UFOが山を駆け巡った華麗な夜に、悪人に誘拐されるという更なる格上のスペクタルを体験したものたちなのだ。人気沸騰は当然だった。親達からたっぷり据えられたお灸を差し引いてみてもお釣りが来るぐらいだった。
その冒険談の中では唯一の大人のガンタの株が急上昇した。権現山の仙人に至っては謎の怪人として妖怪のような扱いとなる。
騒ぎを他所に沈静化を図る為か、ユリも正虎もあれから学校にも来ていない。
この辺からが渡にとっては雲行きが怪しくなってくる。

一緒に冒険したはずの香奈恵やあっちょ達がすべてのいきさつ(円盤が墜落したり、渡が円盤に連れ込まれたり)をまるきり覚えていないということに気がついたからだ。
みんなの頭の中からは円盤に乗っていた3人の宇宙人がすっぱり、抜け落ちていたのだ。あんなにイケメンで好みだったジンのことを香奈恵が、まったく覚えていないなどとは正気では考えない。渡は孤立無援となる。
渡の話は大ボラの類いと軽く見なされ、みんなに呆れられ幼なじみには心配され香奈恵は真剣に怒った。祖父は渡がショックのあまり幻覚をみたと思ったみたいだったし、両親は覚せい剤でも打たれたのかと心配しだした。
渡は慌てて苦渋を押し隠し、心にもない詫びを入れることにする。実は夢を見ていたのだとごまかすしかなかい。後は妄想の類いだと。
しかし、それだけで収まるわけはない。
夜中に鼻息荒く渡の部屋に奇襲をかけた香奈恵は容赦なかった。
「あんたがこんなに目立ちたがりだとは思わなかったわ!。それもしょうもない、すぐバレる作り話なんかして!恥ずかしいったらない、2度と外でいわないでよね!」只でさえ、心が寒い思いを抱えていた渡に香奈恵は留めを刺した。
「あんたなんてこのままじゃ、竹本の面汚しなんだからね!」
渡は一言も言い返せず、さらに深く傷ついた。
この日の渡は2転3転してなかなか寝付けない。

しかし、子供のことである。ほどなく渡は寝込んだと思える。
おかしな虫が再び、現れて囁いた。
(夢じゃないにょ)
「これは夢・・・だと思うけど・・」夢現で渡は答える。
(違うにょ、ドラコはガイドなのにょ)
「ガイドって?ドラコって君の名前?」
(名前なのにゃ。ドラコは先駆けにょ、先駆けは名誉な仕事だって言われてるにょ)
「???」(渡はまだこういうの体験ないにょ?ドラコに任せるにょ!ドラコに捕まってみるのにょ!)渡は目の前にヒラヒラ降りて来た鯉のぼりのシッポのようなものを見つめた。掴む?両手を上げたと思う・・・勢いよくシッポが跳ね上がる。
なんだか、シュポン!と抜けた気がした。「・・・!?」
(下を見るにょ!)ドラコと名乗る鯉のぼりが叫ぶ。見ると自分が布団に寝ていた。
「・・・!」パニックに襲われる前にドラコがスピードを増す。
(大丈夫にょ!渡の体は寝てるだけにょ!)
「寝てる?ほんとに寝てるの?」渡も叫び返す。「僕、大丈夫なの?死んだりしないの?!」(死ぬわけないにょ!ドラコにお任せにょ!)
「そうか、幽体離脱って・・・本当にあるんだ!」
呟く渡を他所に鯉のぼりはドンドン、スピード上げ回りは青から白へと変わっていった。あまりの目まぐるしさに渡は目がチカチカしてきた。ギュッと目を閉じる。

気がつくと、彼はいつの間にか白い部屋のような空間に立っていた。
鯉のぼりはどこにもいない。手には伸縮力がある布のようなヒレの感覚だけが残っている。
「よく、来てくれました。」ハッと顔を上げると、頭上にユリの父親である阿牛さんの姿があった。
阿牛さんは部屋の中央にある大きな球の中に浮かんでいた。キラキラと光が弾け飛ぶような空気の渦の中に彼はいる。球体の中に風が詰めてあるみたいだと渡は思った。涼しそうだなと。乾燥した冷たい風は渡が嗅いだ阿牛さんの服の匂いを思い出させた。
「阿牛さん・・・」この間、阿牛さんと自分は円盤の中にいた。彼の腕に抱かれていた。あれも夢なんだろうか。阿牛さんは自分は宇宙から来たと認めたのに。
「ワタシの名前はアギュです。」
「・・アギュさん・・これは夢?」
「夢じゃありませんよ。」阿牛さんが優しく言う。「これはアナタの夢のようでいて夢ではない。ニンゲンが眠った時に作り出す無意識の次元です。共有する無意識の領域なんですよ。難しいけど、わかりますか?」
「あの虫は?」
「ムシじゃありませんよ。ドラコはワームドラゴンですから、きっと怒りますよ。ワタシがアナタを案内させました。色々、納得いかない状況にいるでしょうから。」
「ここは・・・?」まだ、目が覚めてないようだ。
「ここは大気圏外に浮かぶワタシタチのフネの中です。」
なんとなくだけど、その解説で渡にはわかった。
白い部屋の回りには黒い窓が穿たれている。穿たれた窓がグルリと浮かんでいる。
そこから理科の教科書で見たことのある地球が青くクッキリと見えた。
船、円盤、宇宙船。渡は回りを見渡した。ぽっかり浮かんだ窓があるのに、床は地平線が見える程に広い空間だった。すべては鈍く光っている。それ以外は振動も音も匂いもしない。空気はひんやりして止まっていた。
「ここは次元に向かって開いているのです。不思議なヘヤでしょう?」
「これは夢じゃないの?」
「はい。今も。この間の出来事も。」
阿牛さんはふわりと見上げるほど大きな銀色の半透明の球体から降りて来た。
「ワタシは宇宙から来ました。このことは言いましたね?」
渡は興奮でカッと体が熱くなるのを感じた。眠気が押しやられる。
「・・・そうなんだ。やっぱり。」
「アナタはワタシがみんなとは違う風に見えていましたね。もうずっと前から。」
渡はうなづく。「それで苦しんでいることはわかっていました。」
内側から光を持つ細い手が渡の頬に触れる。渡が流してるのも気づかなかった涙を拭う為に。「随分、つらい思いをさせてしまいました。」
「それじゃあ、僕の記憶は正しいんだね?」
「はい。正しいけれどミンナに言ってはいけません。」
「なんでみんなは・・・?」
「・・・他のヒトの記憶は眠ってもらいました。」
阿牛さんはジッと渡の目を見つめた。青い、蒼い眼差し。胸が痛くなる程の。
「どうしますか?ワタル、アナタの記憶も眠らせた方がいいですか?」
渡は驚く。言葉が出て来ない。「ぼくは・・・」しかし結論は早かった。
「僕は・・・嫌だ・・・」声を絞り出した。
睨むように自分を見る渡を彼は静観している。
「ワタル、アナタは特殊なコドモです。ジブンでも知ってますね。」
渡はうなづく。悲しみと共に。
「だから、アナタは耐えられると思いました。ワタシタチに協力をしてくれるのではないかと。」
「協力?・・・なに?何を?・・・なんで、ぼく?」
「アナタの産まれた時の話をしなければなりません。」
渡の心がシンと冷える。何を言われるのかと。
「アナタは特殊な魂を持っています。おそらく唯一、無二の。それは空を飛んで竹本にきました。ワタシはそれを見ていた・・・」
アギュは逡巡した。デモンバルグのことを、神興一郎のことを今の段階でどこまで話したものか。渡にはその記憶がないことが確かだと思えた。

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