MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルワン7-2

2009-09-09 | オリジナル小説
「なんで泣いてるの?」
気がつくと男は止まって下に落とした渡を覗き込んでいた。
「だって。」渡はしゃくり上げる。「みんなが・・助かったか気が気でないだろっ!」
「このさいさ、おまえが助かれば別にいいじゃないさ?」
「バカ!」怒りがわき上がる。「自分だけ助かってどうするんだよ!」
男の不思議そうな顔が許せなかった。
「なんで助けるんだ?なんで僕だけこんな助けるんだよ!」
「おまえが助かれば嬉しいかと思ったんさ。」
男はすまなそうに、渡の手の縄を解いた。渡はその手ですぐに顔を覆う。
「嬉しいよっ・・うれしいけどっ、みんなはどうすんだよ。どうしてみんなも助けないんだよ。」
「おまえが一番、近くにいて持ち易かったからさ、つい持って逃げたのさ。悪かったかい?」
男はいいわけがましく謝った。なんでなんで僕なんだ?。女の子の、弱いユリでなくて。渡は心の中で男をののしる。
頭の隅では、しっかりと安堵を覚えている自分にも腹が立った。
「大丈夫さ。」無責任に男が請け合う。「あいつ・・なんてったっけ?大人がいたじゃん?あいつがきっとなんとかしてるって。身を挺して戦うとかなんかさ。」
「ガンタはバカなんだよ!」渡はやけくそで怒る。「ガンタなんて全然、頼りにならないんだから!・・弱いし・・」
「そうかな?」男は首を傾げる。「そうは見えなかったけどさ?」男はガンタについてもっと何か言い足そうに見えたが言葉を飲み込んだ。

「まあ、それはさておきさ。お前は運が良かったんさ。」
渡の涙は止まらなかった。ちきしょう!バカバカ!
「運が良ければみんな、逃げてるさ。いいかい?あの状況じゃ、どうやったって全員逃げ切れるわけないじゃん?言わば、囮は多い方がいいわけさ。あいつらが囮になってくれたおかげで俺らは助かったわけだから。それで、仕方ないじゃん?」
男は渡の腕を掴み立ち上がらせる。
「最初から・・!」バラバラに走らされた仲間達。「そういう作戦だったのかよ!」
男を信じた自分が悔しくて、腕を振り払った。
「そりゃ、そうさ。あの彼・・ガンタだっけ?彼だってすぐにわかってくれただろ?」渡は気づいた。あの時のガンタの態度。単なる思慮もない安請け合いじゃなかったんだ。誰かが犠牲になることを承知でガンタは肯定してたんだ。
そして、おそらくその犠牲はガンタ本人のはずだったのだ。
「だから、彼が残りの奴らに付いてはなんとかしてると思うぞ、俺はさ。」
呆然とする渡におずおずと付け加える。
「だからさ、警察に知らせに行けばいいさ。早く通報すれば、通報する程助かる率が上がるってもんだろ?行くさ。」
「あんたも突き出してやる。犯人の仲間だろ。」
「おやおや、裏切ってまで助けてやったのに。命の恩人にあんまりな言い草さね。」
「・・・」
「取りあえず、ここの人に助けを求めてみるさ?」
ようやく渡は周りを見回した。目の前にある草と木の固まりが人の住処であることに気がつくのに時間がかかった。
覆いかぶさる枝の穴蔵のような暗がりに下がっている毛布のような布、ブルーシートの床の隅に鍋や皿のようなものが重ねてある。石を積んだ竃のような窪みには燃えた火の後があり、薬缶も置いてあった。雑然としているがどこかキチンと片付いている。
「これって・・」渡の頭のどこかで警鐘がなる。
「持ち主が帰って来たみたいさ。」
草が揺れる音と足音に気づいて、思わず飛び上がる。追っ手ではないのか?
しかし、男はへらへらと笑ってそちらを見ている。
男の後ろに思わず隠れようとした渡は心臓が凍り付く。最初から罠だったとしたら?でも、それじゃあ意図が読めない。
しかし、茂みから現れたのは二人の子供の姿だった。
「ユリ!トラキチ!」渡は思わず涙に濡れた顔のまま、駆け寄っていた。ユリがにっこりと笑って渡の両肩に手を回した。野草の香り、野に咲く花の香り。
「無事だったの。」虎の細い目が線になってる。満面の笑み。
渡は二人の後ろに突き出ている汚れた靴に気づいた。
権現山の仙人は難しい顔を歪めて立っていた。仙人が凝視しているのは、渡と一緒に逃げた男の方だった。男はのんびりと仙人に話しかける。
「ここはあんたの家なんさ~いい家だね。伊居心地良さそうじゃん?」
「・・・おまえは?」
「神 興一郎さ。」渡が初めて知った男の名前だった。ユリがそっと渡を押しやったので二人も正虎と共にジンをじっと見上げる。
「おっ!俺っち、注目の的さね。」ほくそ笑むジン。
「おまえは奴らの仲間ではなかったのか。」仙人の声は低く、目は鋭かった。いつの間にか、仙人の手には山刀が油断なく握られており、目には殺気があった。
渡は思わず、仙人を振り返る。仙人こそ奴らの仲間でなかったのか。
「1抜けたわけさ。」ジンは体をゆらゆらと揺すった。「あんたもかい?」
「ワシはあんな奴らとの仲間じゃない!」爆発するような声。渡とユリは抱き合ったまま、飛び上がる。虎だけが動じていない。
「おっと、怖ぇ~ね。なら、いいさ。そういうことで。」ジンは仙人を観察する。彼も心が見えない。あの兄弟達と違って普通の人間だとしたらかなりな意志の持ち主ってことだ。修験者だろうか。権現山の仙人は刀を降ろすがブツブツと1人で怒りを発散していた。
「なぁ、知ってるかい?あいつらはさ~既に人を殺してるわけよ。それも4人程さ。」
そのうちの2人はジンが手にかけたわけだが、それは言う必要はない。「あとさぁ、
奇麗なホステスさん2人と子供も1人・・・あっちから俺も手伝って攫って来たんだけど~その姿が見えないんさ。昨日、山の上に運んだのにさ。なんかしんない?」
「攫ったんだ・・・」渡がつぶやく。なんだかがっかりした。ジンはチラリと渡に目を走らせたが今更、やめるわけには行かなかった。
「ここの土地さ、誰かの手引きで来たっていってたけどさ。それってあんたじゃないのかい?」仙人の顔は微かに歪んだ。今度はユリがそれを見つめて身じろぎした。
「わしは・・・わしはただ・・・手引きなどはしとらん・・あいつらが勝手に付きまといおって・・・まったく、なんてことだ。」
これでは、奴らと知り合いではあることを認めたようなものだった。
ジンはさらにニヤニヤする。この男も結構おもしろい。
「悪い奴らだとは知っている・・わしもあまり人のことを言えた義理ではないからな。」仙人は顔を背けた。苦いものを吐き出すように声を吐き出す。
「わしがここにいたら戻って来よった・・・仕方がなかった・・・色々と弱みもある・・・それはお前に言うことじゃない・・・この山に出入りする時には時々、食い物を分けてやる。分けてもらうこともある。しかし、それだけだ。あいつらはあいつら。わしはわし。あいつらがどこで何をやろうとわしには与り知らぬことだ。」
「あいつらさ・・・」ジンは図に乗って爆弾を落とす事にする。仙人と呼ばれる男の微動だにしなかった硬い精神に自分が穿った割れ目から、かすかにしみ出して来る絶望のような味をもっと味わいたかったからだ。
「背骨が欲しいとか言ってるんだけど。どういう意味あんだろね?」
「背骨?」今度は虎が甲高く鋭い声を上げた。仙人の顔色が目に見えて白くなった。
「とにかく、俺っちもさ、いつ仲間から逃げようか、考えてたんよ。手伝わせるだけ手伝わせて、結局、本当の目的は教えてもらえないし、理解に苦しむのさ。ほら、その背骨がどうとか言うのも気味悪いし。おまけに、ちょっと目撃されただけで、こんないたいけな子供達を捕まえちゃうし。俺っちの身だってどうなったことか。」
「そうだよ!それどころじゃない!」渡が叫ぶ。「ユリちゃん、他のみんなは?」
渡の問いにユリが悲しそうに首を振る。
「多分、また捕まっただろう。」仙人の声はさらにこもって低かった。
「そんな・・!」
「わしは神月の子供を助けた・・」ユリが複雑な顔をして渡を見る。何か言いたそうだ。正虎はぽっちゃりした肩をすくめる。「わしはついでなんじゃとさ。」
正虎の話によると、仙人は神月の子供を解放するように迫って奴らともめていたのだと言う。その直後、逃げ出した子供達に慌てふためく彼らの混乱に乗じて仙人はユリを追いかけ、ついでにユリと共にいたトラも助けて連れ去ったのだった。
2人を助けた、その後のことは彼らにはわからないらしかった。
「おやおや、捕まったんなら大変さね。」ジンが無神経な声を出す。
「香奈恵だって、神月の子供だよ!」渡は叫ぶ。
「そうらしいな。」仙人が苦い顔をして正虎を見る。
「その話はわしが何度も説明したんじゃが・・。」渡を指差す。
「この渡と香奈恵が正式には神月の子供じゃ。」
「・・旅館、竹本・・神月の血筋と聞いた・・」
「僕とかなねえはそこの子供だよ。ユリとトラも住んでるけど。」
「そうか。おまえ達は違うのか?」仙人は肩を落とす。「知らなかった・・てっきり」
彼の目はユリを見ていた。「おまえは神月の子供ではないのか。」
「神月の本家の土地はもうユリちゃんのパパのものなんだ。そう言った意味では・・そうとも言えるかもしれないけど。」
しかし、それでは村に住むシンタニとあっちょが浮かばれない。
「こいつの名前は確かに竹本渡さ。」ふいにジンが口を出す。渡は違和感を覚える。彼に自分は、名字を教えただろうか。しかし、それより仙人の返事が気になった。
「あんた、神月って所になんか恩でもあるわけ?」
「別にない。」おまえに関係ないと、噛み付くような返事。そう、ならいいさと呟くジンはさておき、渡は仙人に追いすがる。「みんなを助けなきゃ!」
「警察に行け。」むっつりと住処に入って行く。
「その樫の木と木の間を権現山の戴きを背にして降りて行けば林道に出る。右に進めば県道に出るぞ。」
「どうせなら、神月の子供はみんな助けてよ!」
ジンが腰を上げる。「無駄さ。さあ、暗くなる前に行くさ。」
ユリがじっと仙人を見ていた。仙人も振り返り、ユリをじっと見つめた。
「すまんの。」仙人の声はとても優しかった。
ユリはくるっと後ろを向いた。
正虎はそんな仙人をかなり長いこと見ていた為、かなり遅れて走って来た。
「そんな悪い奴には見えんの。後から助けに行くんじゃなかろか。」
虎は一人ごちる。
「背骨とはの・・・これはちょっと深刻な問題かもしれぬの。」
ユリはそれを聞いて首を傾げたが、渡は聞いてなかった。
渡の耳には何も入らなかった。
とても、腹を立てていたからだ。


4人はトボトボと山を下って行った。話すことができないユリは勿論だが、渡はムッツリと正虎は思案げに黙り込んで。ただ一人、ジンだけが元気よく、時折声を出していたがそのうちに草を分ける音とか石を踏む音しか当たりに響かなくなっていた。木の切れ間に見え隠れする山の頂上にチラホラと灯りが点滅していた。ジンはあの昨夜のことをふと思い返す。きっと捕まった人質がいたとしたらあそこにいるだろう。そして、彼等はこつ然とどこかに消えるのだ、昨夜のように。いったい山頂に何があるのだろう。「おや。」ついジンは立ち止まってしまった。「ほら、レールがあるさ。」「レールとな?」すぐ前を歩いていた正虎が立ち止まる。先に行く後姿の二人は立ち止まりもしない。ジンはクスッと含み笑いをかみ殺した。「確かにレールがあるようだの。」虎は目をすがめて茂みを伺う。「こんなところに面妖な。」
「不思議じゃないさ。山で切り出した材木とかを麓に降ろすのさ。」
「ほう、すると。」虎はレールが下って行く方向を見下ろした。
「どこか近くにその本体があるわけじゃの。」
「ある、ある。この下に小屋があるさ。昨日俺っち、ちょっと拝借したもんさ。これがあるとすごく楽にならないかい?。」
死体を運んだんだよね、とはさすがにジンも言わなかった。虎は気付かず、
「ふむ。ジン殿は悪人としてもなかなか聡い人とみたの。善人でないことは、つくづく惜しいことじゃ。」
「お前って、おじいちゃんみたいさね。」ジンは笑うと薮を払ってさらに錆びた金属を見え易くした。
ジンの眼には、怒りが赤い炎となって今も回りを取り巻いている渡とは対照的に、この子供もユリと同じく心が読めなかった。なんて痛快。
「鉄が腐ってるんではないかの?錆びがひどいの・・・」
「ずっと使ってなかったようさね・・・でも、大丈夫だったさ、音がすごいぐらい。」
先行く影を追いながら、二人は会話を続けた。ユリが興味を示して時折、振り返る。
渡の袖を掴もうとするが、渡は今も自分自身の思いに捕われてるらしく振り向くことはなかった。
「疑われないように戻しといたからさ。まだ、燃料が残ってるからみんなで麓に降りれるさね。」「そうなると助かるのう。」
その時、ふいにユリが身震いした。飛びつくように、渡に捕まる。
虎とジンも、不気味な振動に思わず歩みを止めた。それは全身がぶるぶると震えるような感覚だった。それは足下から起こったように感じられたが、実際は回りの空気体全体を振るわせてるのがわかった。木々が茂みが不吉にごうごうと鳴る。内臓を直撃される、吐き気がくるような振動で背中の毛が逆立った。歪んだ空間が前方から近づいて来るのをジンは感じた。その凶暴な空気の波に、人ならぬジンも思わず耳を塞いだ。下手すると擬態を保つのが難しくなりそうだったのだ。見せかけの肉体に酸素を取り込もうと、慌てて何度も深呼吸をする。
渡は耳を押さえ、咄嗟に地面にかがみ込もうとした。しかし、手だけが意思とは関係なく上に上がっていったことに彼は気がつかない。
隣にいたユリが異変に気づく。ユリの耳を後ろからそっと塞いだトラも声をのむ。
「渡?」
目を見開いたまま、渡の両手が高々と上がる。
そこで初めて気がつき、渡は混乱する。手のひらが熱い。
「ユリ!」無意識に助けを求めていた。
心臓から腕へと流れる血がまるで焼けるようだと渡は感じる。急速に視界が消える。
指がねじれ手のひらが大きく突き出された瞬間、頭上の音に突如変化が産まれた。
そして。
渡を覗く全員がそれを見た。空間が破れ、目の前に出現した巨大な影。夕空のわずかな空が覆い尽くされる。トラは息を飲み、ユリを庇う。
それは丸い円盤だった。大きさは20トントラックよりも一回りは大きい。なめらかな銀色の船体はつなぎ目がなく、金属と言うよりはつや消しを施した石のようだ。
その黒い底面に光の帯が浮かび上がっていた。不可思議な唐草模様がイルミネーションのように走る。頭上をかすめて、それははっきりと見えた。
「!」ジンも驚愕を持って、それを食いいいるように見つめる。
遠ざかる円盤の船体は木を千切り、大木の上を吹き飛ばす。千切られた葉と小枝が辺りに降り注ぐ。空気を切る音はつんざくような金属音に変わり、あっと言う間に視界から消えた。そして地を揺るがすような振動がわき起こった。
「墜落した・・!」トラは呟く。ユリは渡の伸ばされた体を抱きしめていた。
「気を失っている。」ジンが後ろから渡を覗き込んだ。「大丈夫かの?」
ユリは渡の顔に身をかがめ、呼吸を確認する。ジンを見上げ、うなづいた。
「ここに、寝かそう。」ジンが渡を抱き上げて枝を頭にして横たえた。
こんな状態はジンにはおなじみだった。懐かしいと言ってもいい。
かつてのポールもいつもあの不可思議な力を使うとこうなった。
しかし、なぜ?あの文様は。似ている。
ジンは何度も呼吸を整えながら必死に頭を巡らせる。
「なんだったんだ?ありゃあ。」呟きながら、渡の頬を軽く叩く。
ううっと、渡はうめいて目を開ける。
「渡!」
「大丈夫かい、渡。」
「どうしたの・・?僕。」
「覚えてないのか?」
「倒れたんじゃ。」トラが覗き込むユリの肩越しに声をかける。「UFOは見たかの?ひょっとして・・・」言葉を切る。「お前さんが墜落させたのかの?」
「ははは!」ジンが素っ頓狂な声を上げる。「それはないぜ!トラちゃん。まさか、それだけはあり得ないって!」
「落としたの?僕が?」
「冗談じゃ、勿論。」
ユリが渡を抱くように起こす。渡は鼓動の乱れを懸命に押さえていた。
「まだ、気分が悪いよ。」
「無理をしない方がよい。」
「円盤、落ちたの?どこに?」渡はユリの腕から跳ね起きてよろめく。ユリの支える腕に力がこもる。「ごめん。」渡は頭をかく。
「しかし・・・まったく・・気持ち悪いさ。」
ジンは夕闇に目を凝らして墜落現場を見定めようとしたが、もはや山は薄暗く鳥の声が騒ぐ以外は静まり返り彼にも場所を見定めることはできなかった。
「煙とか、あがってないみたいだね。」ジンの凝視する方向を渡も見る。
それは頂上よりは外れた中腹に近い。権現山の仙人もひょっとしたら見たはずだ。
「仙人に聞きに戻ろうよ。」
「もう、暗い。さっき降りて来た脇道を見つけられるかの。」トラが首を振る。
「こんなの!・・腹の立つ~ほんと気分悪いさ。ほんとさ・・俺にさえ、わからないもんがこの世界に・・こんなに現れるなんてさ。」ジンは密かに歯を噛む。
渡がいなければ今すぐにでも後を追って、円盤の正体を見定めたかった。
しかし・・気になることが多すぎる。またしても、好奇心。
突然、ユリが指を上げる。渡もトラも頭を上げる。
その直後に御堂山の頂き辺りにしきりに点滅していた光がふっつりと途切れた。
それはこの間、みんなで見た丸い光を思い出させる。
「きっと奴らだ。」ジンは目を細める。「何かはわからないさ・・・ただ、荷物を運び出す手はずが山の上にあるはずなのさ。」悪魔にもつい口を滑らす瞬間がある。
「ほんと?」弾けるように渡が切り返す。
「それってさっきのUFOと関係あんじゃないの?行ってみようよ!。」
「おい、おい。」ジンは慌てて後悔する。
これでは獲物をわざわざ逃がした意味がない。ジンにとっては渡以外の人間は正直どうでもいいのだ。「もう、よすさ!。円盤だの、UFOだの俺はもうたくさんなんだから。宇宙人なんか、ぞっとするっさ。もう村に戻ってお巡りさんになんとかしてもらうのが一番だっての!。」
「ジンは怖いんだろ?女の人は誘拐できるのにUFOは怖いんだ。」渡の声の棘がジンに刺さった。「悪人のくせして。」
「た、確かに、悪人さ。しかし、これには色々事情があってさ、借金とかしがらみとか。」
「いいよ、もう。ジンさんはさっさと逃げてよ。どうせ村行ったって、警察にはジンさんはいけないでしょ?助けてもらったのは恩にきるけど、もうジンさんにはがっかりしたんだから。」訳もなく怒りが再び戻ってくる。それはさっきまでの権現山の仙人に向けていたものともちょっと違っていた。
ごめん、ごめんといつの間にかジンが謝っていた。
「悪かったさ、誘拐の片棒担いだりしてさ。ほんと軽卒だったさ、だから大人しくみんなで逃げてくれよっ頼むさ。」
「さっきから聞いとると」トラがユリに囁く。「なんでジン殿は渡に下手にでとるんだろうの?」ユリは難しい顔をして2人のやり取りを見守る。
「それに、ここにはUFO基地があるんだよ、ね、トラ。」
「UFO基地?」
「そんな噂もあったのう・・・」
「もともと僕たち、それを探してたんだから。この間のUFOとさっきのUFOが一緒ならそれが証明されるでしょ。と、いうことはさっきの奴らが宇宙人かもしれない。皆を助けるまで僕は山を下りないからねっ!」きっぱりと渡は言葉を切る。
「さっき、レールがあったって言ったよね?」
「渡、聞いていたんかの。」トラとユリが頼もし気に笑う。
「聞いてないふりして、しっかり聞いてたのかい?油断も隙もないさね。」
すっかりトーンを落とした、ジンがこぼす。
渡は無視して、草むらに見え隠れするレールを追って下り出す。
「おいっ、待て!子供だけじゃダメだからさ。仕方がない、俺が案内するからさ、モノレールの動かし方とかさ、この間使ったばかりだから任せるさ!」
渡なら・・・彼が追って来た魂ならおそらくモノレールを動かすことなど雑作もないことだろう・・それは知っていたのだが。
その時、ジンが思ったのはその事実を渡は他の子供達に・・・ユリはともかくトラには・・きっと明らかにしたくはないのではないかと言うことだった。長年、身に付いた獲物を庇い気遣う癖。舌打ちしながらも笑ってしまう。
「えいやっ!乗りかかった船さね。」そんな様子をじっと伺っていたユリにジンは言い訳がましくつぶやいた。「なあ、お嬢ちゃん?。」
睨みつけるように見ていたユリは目が合うなり、ジンを振り払うようにパッと駆け出した。ジンはあわてて追いかける。
「待つさ、役に立つジンさんを置いて行くんじゃないよ。きっと、後悔するからさ。」


タトラこと正虎はしばらく山頂の光を見上げていたが、呟きながらすぐに後に続く。
「しかし・・・旧式な船だの。連邦では、もう使われてない型じゃ。」
「あれでは生体はあまり乗せられないかもしれんの。死体ならモノだからいくらでも確かに可能じゃ・・・」これは急がなくては。

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