MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルフォー-39

2018-04-06 | オリジナル小説

苦い想い

 

 

「あそこまで破壊をしてしまうとは・・」418ことカプートは少し後悔している。

「ハカイしたかったからな。」返事はシンプルだ。「オマエだって止めようとしなかった」

彼らは神月の阿牛邸の自室にいて自問自答していた。覗いてみればシンプルな寝台の上に瘦せぎすの男が一人、座っているだけだ。青みを帯びた長い髪を、やはり青白い腕がすくい上げるようにつかの間見つめ、落ちるに任せた。一度は完全に臨界した肉体は再び、物理的肉体に戻った。

アギュの肉体の中の二人。

その二人の会話は『会話』だが、基本的に肉体の中で行われているので、下の階にいるタトラは勿論、日夜アギュの見張りと自認する天使、明鴉にも盗み聞きはできない。

小惑星帯にいる正規軍は言うまでもなかった。

カプートも感慨深げに自分達の体を見回す。

「そう、その通りです。あの時は、そんな余裕はなかった・・・本当に臨界が頂点に達したんですから。あの感覚、今、思い出してもゾクゾクする・・・とても忘れられそうもない。」

「今のところ、キーワードはイカリだな。」アギュも思い返す。

「私たちは全く完全に一つになった・・・私たちだけじゃない・・・ユウリもでしたね・・・」肯定の印にアギュはわずかに唸った。

そのことは未だにアギュを混乱させている。意識を持たないユウリの心と記憶が我がうちへと引き込まれたことは、まるで彼女の秘密を覗き見したようだ。

できれば見なかったふりがしたい。

話を変える。

「ソシテ、ソリュートもだな。」

再び『不完全な臨界体』に戻ったアギュレギオン。オレンジの光は今も変わらずその胸にあるが。アギュの腕に、常に巻きついていた石・・・ユウリから引き継いた竜骨だけはどこにも見当たらない。

 

オリオン連邦成立よりもはるかな昔に滅んだ惑星から出土する、魔法生物の骨。それはあらゆる分子構造をバラバラにする共鳴運動を起こす化石だ。その振動を操る力は引き出す能力者との相性とその力量で変わる。よって、その効果は一定ではなかった。それでも連邦政府はワームドラゴンを使役することと並び、特殊能力による重要な戦闘兵器として石を認定し、研究されている。

アギュの中で眠るオレンジの魂、神城ユウリはその類まれなる担い手だった。

 

「オレは一度、ムイシキにブンシカクを操ったことがある・・・」それはユウリを助けられなかった怒りが、カバナの次元船に対してさせた。「カクブンレツなのかユウゴウなのか、ハタシテどのようなバクハツなのかはジブンではよくワカラナイ。コンカイもだ、シクミなどシラナイ。とにかく、デグチにいるものをハカイしたいと思っただけだ。ただし・・・コンカイは、セイギョがカノウだった。イゼンにはできなかった、ソリュートが(ユウリが)オレたちとヒトツになったオカゲかもしれない。」

ペルセウスが非物質世界からコンタクトしてきたことからも、イリトはおそらく気づき始めているはずだった。アギュの臨界の進行を黙認するイリトの意図はわからない。だが、臨界の変化はイリト以外の他者には悟られないように、自分から完全にコントロールしなければならない。

来るべき時を自由に迎えるために。

「怒り・・・確かに、あれはちょっと腹が立ちましたね。鳳来と鬼来リサコが自滅した時には見逃したのに。それが今になって、自由を奪うなんて。私はあの生き残りの二人がかわいそうでならないんです。」418は肉体的に結ばれながら別れる運命となった神城ユウリのことに重ねているのだ。

「オレは。」アギュはことさら、声を高くする。

「あの違法クローンたちにカクダンのオモイイレなど、ナイ!」

「鬼来美豆良と憑依した魔物がカバナに連れ去られることまでは阻止できたのに残念です。」

「ショセン、ゲンソウだ。サイショから、オレたちにデキルことなどなかったんだ。」アギュの言葉は一息ごとに苦い。

「ミズラはマモノごと・・・イリトが手に入れたのさ。」どんどん口の中が苦くなる。

「オレらがワームホールから救い出したトタンにジョウシ様のご所望ときたんだ。」

しかもそれを自らのクローン体であるイリト・デラに言わせたことも腹立たしい。

「デラがあのフタリ、ミズラとマサミにどれだけオモイイレがあるか知ってのうえだ。」

「イリトにだってわかってたんですよ。オリオンに移動させても長く生きない魔物には餌がいると。それはおそらく同じ惑星の人間のエネルギーであるとね。私たちは混沌の中で遺体にデモンバルグが入ってた話は一言もしなかったんですけどね。そんな時にほんと都合よく・・・『魔物と人間のセット』が目の前に転がり込んだんだわけです。手に入れないわけにはいかなかったんでしょ。」「オレだってハテのチキュウのジンルイを1ダースとか言い出されるのはジカンのモンダイだとは思っていたさ。だけども、あのホシのジンルイにキガイをクワエルことにキョカがオリルわけがない。ミズラはその点、ガイライジンルイだからな。・・・だが、あのタイミングとはな。」

「忠誠を試したんでしょ、私たちと・・・それとデラの。イリトなりにです。何せ、ペルセウスの一件がある。」

「確かにな・・・キナクサカッタだろうよ。ハラを探らなかった、ごホウビを差出せってことか・・ケッ!むかつく」イリト・ヴェガが秘密裏に侵入したカバナ人の獲物をピンハネしたことはカバナ・リオンはもとより、彼女に敵対する連邦の人間も今の所は誰も気がつくまい。思えば、アギュがイリト・デラに『切り貼り屋』の件を個人的に頼んだ時から、今回の出来事を最初から最後まで完全に把握することができたのはイリト・ヴェガだけだ。カバナの侵入者の身代わりであった『生贄』をアギュが気まぐれから助けたこと自体が連邦に秘密である以上・・・美豆良とテベレスをイリトが望めば阻止することなどアギュにできない。

既に魔物とその『飼育セット』はガンダルファとドラコにより連邦正規のワームホールから運ばれてしまった。

その明るい面はイリト・ヴェガが固有の次元生物を中枢に示せれば、連邦はこの星を和平の供物から外すことになるということだろう。

「少なくともイリトは相手を切り刻んだりはしないと思いますよ。デラのように知的会話を楽しみたいだけじゃないですかね。」「わかるものか。」

「思考の擬似エネルギーを作ることができたら、人間の方は返される可能性も高いです。」

「それもわかるものか。」アギュは忌々しかった。

あのカバナ人、原始星人を同じ人類とも思わぬ、あのカバナのスパイ。

そして、その実態であったカバナ貴族めが。

「八つ当たりで殺されるなんて思わなかったでしょ、ほんとお気の毒。」

「あれしきでシヌわけあるか、アイツラが!」アギュは吠える。

「どうせスグにサイセイするだろうさ。カバナじゃお茶の子さいさいだ。オレがしたのはセイゼイ、ジカンカセギだ。」

418の言葉も心は全くこもっていなかったのだが、アギュの怒りは収まりそうもなかった。

 

怒り。

ガルバによって無力化された美豆良とテベレスが、突然介入してきたイリトの命令に従ったガンダルファたちによって運び去られた後のこと。

自分の無力さ、やり場のないアギュの猛りが、縮み消滅しつつあったカバナのワームホールに注ぎ込まれた。肉体と精神が完全に溶け合った臨界体の力、ソリュートがその意思の代行者となる。従来ならば、制御しがたいエネルギーでワームホール自体が即時、粉砕されたはずだ。だが、調整されたエネルギー、臨界体を構成する光と量子、アギュの一部が高速高温で分解され撹拌され凝縮されたもの。つまり殺意は・・・出口へと走りぬけた。

カバナ貴族たちが分析できず光子爆弾と称した、それだ。

 

「あれは、全く・・・快感でしたね。危険なくらいに。」

そう418が示唆したことの意味はアギュにもよくわかった。ようやく怒りは冷たく冷える。

「コンカイのようにセイカクにセイギョできなければ」破壊はどこまで広がったのか。「カンゼンリンカイしたオレたちこそがこのホシに・・・このウチュウにとってのキョウイになるのかもな。」「そうです、もしも知られたら・・・連邦にとっても。」

このリオン・ボイドへの意趣返しが正規軍にもイリトにも知られなかったのは誠に幸いだと418は言う。

カバナ人が極秘に仕込んだ故に次元を緻密に縫い上げたワームホール。全貌を把握するのが難しい上に、基本的に正規軍が見ないふりする、その穴の周辺をめぐって、起きた出来事。

「何が起こったか、正確にわかるのは」カバナからオリオンへ。

「ワヘイのアトか。」

その頃にはすべてが『後の祭り』となっていればいい。

 

アギュのしでかしたことは危険な賭けでもある。

「オレがイリトに一矢報いるとしたら・・・・これぐらいだ。」

 

 

 

 

 

「アギュどの。」タトラがドアをノックする。

「客人が見えられたようじゃぞ。」