SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

SLIDE HAMPTON 「ALL STAR 69」

2007年04月14日 | Trombone

長い間「ファビュラス・スライド・ハンプトン・カルテット」は幻の名盤だった。
このアルバムは、ジャケットこそ原盤と違うが中身はそれと全く同じものである。

トロンボーンという楽器はどことなくのろまな印象がある楽器だ。にもかかわらず、このアルバムを聴けばそんな印象は木っ端微塵に吹き飛んでしまう。全員何かに取り憑かれたようなアグレッシブな演奏なのだ。特にヨアヒム・キューンは完全にキレている。唸り声を通り越してこれはもう狂人のスキャットだ。あまりいい例えではないが、便秘の悪化した人が長時間トイレの中で力んでいるような迫力?を感じる。
ベースのニールス・ペデルセンも、サヒブ・シハブのジャズ・パーティを彷彿とさせるブンブンベースで終始応戦。ドラムスのフィリー・ジョーも「ここは俺に任せておけ!」といわんばかりの叩きっぷり。とてもボリュームを最大にする勇気が出ない。

これが録音されたのは1969年。時代がこうしたアルバムを生んだのだ。
同じ頃にこちらもすごいフィル・ウッズ率いるヨーロピアン・リズムマシーンが大活躍している。ロック界を見てもビートルズが終焉を迎え、替わりにレッド・ツェッペリンやディープパープルなどのハードロックが誕生したのもこの頃だ。それと忘れられないのがウッドストックでジミヘンが「スター・スパングルド・バナー(星条旗よ永遠なれ)」を演奏したシーンであるが、あの映像は確実にこの時代を映し出していた。
一言でいうとみんなが葛藤していた時代なのだ。これは今の時代感覚で聴いてはいけない傑作だ。