SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

「John Coltrane and Johnny Hartman」

2007年02月14日 | Vocal

最高のジャズヴォーカルアルバムが聞きたいというリクエストがあればこれを薦める。
どんなジャズアルバムでも、必ず「好き」と答える人と「嫌い」と答える人がいるが、このアルバムだけは例外ではないだろうか。今までこのアルバムを「嫌い」と答えた人に会ったことがない。

コルトレーンといえば、目まぐるしいシーツ・オブ・サウンドや難解なフリーキー・トーンを最初に連想しがちだが、彼のアルバムで一番売れたのが「バラード」であるように、彼はこうした静かな曲が得意であったし、ハートマンの低い声と同調させたかのようなアドリヴはさすがだ。ハートマンもコルトレーンのテナーをじっと見つめて、ここぞというタイミングで歌い出す。これで感動しない人がいたらその人には心がないものと思いたい。
たっぷりと男の色気を感じてほしい。

Charie Haden & Pat Metheny 「Missouri Sky」

2007年02月13日 | Guiter

ミズーリとはどんなところなんだろう。
アメリカのほぼ中央部にあることは知っているが、行ったことがないので正直わからない。
ただ広い荒野に夕陽が染まる風景がジャケットにあるだけだ。その夕陽はやがて沈んで満点の星空になる。このアルバムで感じる「ミズーリ・スカイ」は、私にとってそんな夜空のイメージだ。

ベースとギターというデュオは過去にも存在するが、この二人のコンビは見事である。二人の故郷を愛す心がひしひしと伝わってくる。
パット・メセニーはこのアルバムで数本のギターを演奏しているが、個人的にはスチール弦のギターよりもナイロン弦のギターの音色が好きだ。一音一音夜空に染みこんでいくようだ。またチャーリー・ヘイデンのベースはまるで大地の鼓動のようにも聞こえる。自分の想いをこんな風に表現できたらさぞかし幸せだろう。

なおタイトルの字数制限のために書ききれなかったが、アルバムの正式名称は「beyond the Missouri Sky」である。


HELGE LIEN 「TO THE LITTLE RADIO」

2007年02月12日 | Piano/keyboard

ヘルゲ・リエン・トリオは「WHAT ARE YOU DOING THE REST OF YOUR LIFE」でその存在を知った。それ以来、e.s.t.と並ぶ最先端のグループだと感じていた。
で、この「TO THE LITTLE RADIO」も発売されて即、購入。最初の印象は以前よりも毒が抜けたなという程度だった。しかし何回か聴いている内にジワジワと効いてきた。このままだと依存症になりそうだ。それくらいこのアルバムには惚れ込んでいる。

以前のヘルゲ・リエン・トリオは抽象的で、何を表現したいのかがストレートに伝わってこなかったところがあった。ピアノはとても美しく響いているのに、なぜか素直に受け入れられない何かがあったのだ。アルバム全体のバランスが欠けていたのかもしれない。
それに比べこのアルバムは全体を通しても不自然さがない。美しいメロディーを奏でるピアノを、あらゆる手段を駆使して的確にサポートしようとするベースとドラムス。ずいぶん斬新なことをやっているのにそれを感じさせないテクニックは、正にインタープレイの極致だ。
長く歴史に残る名盤になるのではないだろうか。

CHET BAKER/ART PEPPER 「THE ROUTE」

2007年02月11日 | Trumpet/Cornett

アメリカのジャズシーンにおいてウエストコーストジャズの存在は重要だ。
ウエストコースト(西海岸)はハリウッドを中心とした映画産業が盛んで、多くのジャズマンが映画音楽等と関わりを持ちながら明快なメロディと明るいリズムで一世を風靡していた。活躍したのは主に白人で、ここにご紹介するチェット・ベイカーやアート・ペッパーらがその代表選手だ。
但しこのアルバムで最も気に入っているのはベースのリロイ・ヴィネガーである。タイトル曲である「The Route」や「Minor Yours」「The Great Lie」等でのベースラインは彼ならではの魅力満載だ。これでもう少し録音がよければ最高なのだが、できるだけの大音量で聴くと、リズミカルな彼のベースの上で何羽かの鳥が絡み合っているようで面白い。

このジャケットは残念ながらオリジナルではない。それをやたらと気にして本作を駄作扱いする人もいるようだが、これだって決して悪くない。イケメン二人の溌剌としたレコーディング風景を見られるだけでも有り難いと思うべき。


MILES DAVIS 「doo-bop」

2007年02月10日 | Trumpet/Cornett

「最初に取り上げるマイルスが doo-bop とは、ひねくれ者め!」といわれそうだが、これは文句なしの愛聴盤なのだから仕方ない。
私はチャーリー・パーカーと一緒に演奏していた頃のマイルスから、エレクトリック・マイルスといわれた後期まで、みんなそれなりに好きだ。
何だかんだいってもモダンジャズの中心には常にマイルスがいた。否、現代音楽の中心だったといっても過言ではない。そんな語られ尽くした彼の功績を今更私が話しても仕方ないが、ヒップホップまで取り入れたこの「doo-bop」は、晩年にも係わらず彼の千里眼に衰えのないことを改めて感じさせた。

50年代後半、マイルスは当時新人だったビル・エヴァンスを自分のグループに招き入れた。エヴァンスは白人だから周りの非難(人種差別)は相当ひどかったらしい。そんな周りに向かってマイルスは「腕のいいヤツならオレは緑色の肌をしているヤツとだって組むさ」ときっぱりいい放ったという。
常に新しい音楽シーンをつくってきた彼は、人種や世代、ジャンルを超えた才能との協働がいかに大切かを知っていたのだ。
見習うべきこと多し。

BRAD MEHLDAU 「SONGS」

2007年02月09日 | Piano/keyboard

今をときめく若き天才ブラッド・メルドー1998年の録音。アート・オブ・ザ・トリオ Vol.3だ。
深く心の奥に沈み込んでいくような音。決してBGMとして聞くべきではない。一人、目を閉じてじっくり聴く。既に何年も聴き続けているというのにいつまでも新鮮なのは、彼の曲に対する解釈とその表現方法が斬新だからだ。
彼は明らかにビル・エヴァンス、キース・ジャレットに並ぶ逸材だ。

話は変わるが、先日テニスのオーストラリアンオープンを見ていて、優勝したフェデラーがどうもこのブラッド・メルドーにダブって見えた。見た目がそっくりだということではない。精神的な強さといい落ち着き払ったあの態度といい、インテリなメルドーとすごく共通点があるように感じたのだ(メルドーはもうちょっと不良っぽいかな)。ただしこれはあくまで個人的なイメージの世界なのでそこには何の根拠もないが、双方ともその道の王者であることには違いない。

HARRY ALLEN 「TENORS ANYONE?」

2007年02月08日 | Tenor Saxophone

イギリスのテナーマンといえば、タビー・ヘイズ、スパイク・ロビンソンなどが真っ先に思い浮かぶ。
考えてみればいずれも黒人ではない。このハリー・アレンも見るからに典型的な白人だ。ただこれらの人気者が生み出される一連の流れは決して偶然ではないような気がしている。
彼らはいずれも音色で勝負する人たちだ。それが紳士の国の折り目正しい白人気質だともいえる。つまり彼らは一時代を席巻したコルトレーンの流れを踏まず、あくまで古き良き時代のレスター・ヤングを踏襲している点が特徴なのだ。
それもこれもジャケットを見れば一目瞭然、すっきりさっぱりのジェントルマンだ。

さてこのアルバムはドラムレス編成である。その替わりにギターが入っている。ジョン・ピザレリだ。
このスタイルが何ともいえずノスタルジックな大人の雰囲気を作っている。ピアノもよくスウィングしていて気持ちいい。
お薦めは「レスター・リーヴス・イン」「ティー・フォー・ツー」。実にしびれる演奏だ。


DIZZY REECE 「STAR BRIGHT」

2007年02月08日 | Trumpet/Cornett

時は1959年、寝ても覚めてもハードバップ全盛期。
その中でもこのアルバムはよくできた一枚だ。これを聴くときは、ハードバップ特有の粗さを楽しむというより思いっきり明るいリズムを楽しむ。
明るい原因は、よく歌うディジー・リースのトランペットと、飛び跳ねるようなウィントン・ケリーのピアノのせいだ。
特にケリーのピアノは全員の気持ちを高揚させているのがよくわかる。ポール・チェンバースなどは、いつになく前向きに突っ込んだ弾き方をしていて正に絶好調だ。まるで演奏している彼らの笑顔までが見えるようだ。

ディジー・リースは作曲の腕もなかなかのものだ。このアルバムでも6曲中4曲を書いている。
しかしなぜかタイトル曲である「STAR BRIGHT」がこの中に入っていない。これっていったいどういうことなのだろう?
ただこの曲はデューク・ジョーダンの「フライト・トゥー・ジョーダン」で、彼(ディジー・リース)の名演を聴くことができる。こちらもぜひ聴いていただきたい。
ジャズの楽しみの一つは、間違いなくこうした小話?裏話?の面白さにあるのだ。

MARCUS SHELBY 「UN FAUX PAS!」

2007年02月07日 | Bass

怪しいのをもう一枚ご紹介したい。
タイトルといいジャケットといい、怪しい感じもここまでくると最高潮に達する。まるでハリウッド映画のサントラ盤のようだ。

さてこの中にどんな演奏が詰まっているんだろう、とちょっとわくわくしながら購入した。
ベーシストがリーダーだったことも大いに期待できる要因だった。ベースのしっかりしたピアノトリオはそれだけでも聴く価値が高いからだ。
実際に聴いてみた。まず全体のバランスのいいことが意外だった。ピアノのマット・クラークとドラムスのジャズ・セイヤーが、リーダーのマーカス・シェルビーより目立っている。二人ともなかなかの腕前だ(マーカス・シェルビーが悪いわけではないが)。
お薦めは5曲目のDelusions of Grandeur、6曲目のWest Coastingsあたり。スローなバラードより、ドライヴ感溢れるスウィンギーな曲に魅力を感じる。

どうやらこのマーカス・シェルビーという人、自分たちの演奏を自分たちが描くイメージで聴いてもらいたいと思っているようだ。それはジャケットをはじめ随所に感じられる。何をどう表現しようと自由だが、正直言ってこれは余計なお世話だといいたい。

ERNST GLERUM 「OMNIBUS ONE」

2007年02月06日 | Bass

こういう何者かわからない怪しいアルバムが増えてきた。
決して否定的な話ではない。むしろ大歓迎だ。
我々はとかく「安全パイ」の中で音楽を聴く傾向にある。いや、音楽に限らず新しいものや異質なものを真っ先に取り入れようとはしない。誰かが安全かどうかを試してくれるのを待っているのだ。そうこうしている内に鮮度がどんどん落ちていく。ジャズファンたるもの、これではいけない。

さてタイトルにはERNST GLERUM(エルンスト・グレルム)のリーダーアルバムと書いたが、これは間違いだ。本当はGLERUM OMNIBUS(グレルム・オムニバス)というグループ名のようだ。そのリーダーがERNST GLERUMなのだ。...たぶん。
この人、本当はベーシストで紹介されることが多いが、ここではピアノを弾いている。ますます怪しい人だ。しかもかなりうまい。Clemens van der Feen(クレメンツ・ヴァン・デル・フィーン)のダブルベースも完璧。HAN BENNINK(ハン・ベニング)のスネアもメチャクチャ切れがいい。録音もよくオーディオ的にも満足できる。

ついでにERNST GLERUMのサイトもちょっと面白かったので興味ある人は覗いてほしい。この人、よほど車好きらしい。しかも何だかアンティークだ。こういうセンスにあこがれてしまう。