写真:飯田玄彦カルテット@cafecrock
先日、行きつけのカフェでジャズのライブ演奏があり、娘婿のD(フィリピン人)といっしょに聴きに行きました。
地元出身のトランぺッターを飯田玄彦さんを中心にした、4人のバンド。同じカフェで、これまでも数回ライブ演奏をしているとのことです。
特に入場料のようなものは取らず、ドリンク代のみ。ただ、演奏が気に入ればチップを出すという「投げ銭ライブ」でした。
それほど広くない店内で、常連さんを中心に10人ほどの客がいて、ほぼ満席状態。
18:00始まりだったので、私たちはコーヒーではなく、ウイスキーを注文しました。
今回は、常連さんからのリクエストもあり、マイルスデイビスなど、古き良きスイングがテーマ。
演奏が始まって、小一時間。一曲終わったところで、トランぺッターが店の入口のガラス戸の外のほうを指さします。
赤い装束を着た、5~6人の女性たちが、中を覗き込んでいます。
彼女たちは、「中に入ってもいい」という合図だと思ったのか、引き戸を開けて入ってきました。
「こんにちは、失礼しま~す」
片言の日本語です。東南アジア系のようです。
「フィリピン人みたいだなあ」
隣に座っていたDがつぶやきます。
女性たちがどやどやと中に入ってきます。バイオリンやギターを手に持っている子も。
(なんだ、なんだ?!)
マスター、バンドの人たち、お客さんが呆気にとられるなか、元気な女の子たちは、
「一曲、聴いてもらってもいいですか?」
(いま、ライブの途中なんだけど… 見りゃわかるだろ)
「何ができるの?」
バンドリーダーが聞くと、
「ナガブチのカンパイとか」
「ああ、長渕剛の乾杯ね! いいじゃない」
バンドリーダーがそういうので、マスターも追い出すタイミングを逸しました。
バイオリンとギターを伴奏に、「乾杯」の飛び入り演奏が始まりました。
楽器をもたない女の子が、各テーブルに、紙封筒を配ります。「カンパをお願いします」と書かれてあります。
彼女たちは「流し」でお小遣い稼ぎをしているのでした。
心優しい飯田カルテットのみなさんは、乾杯の伴奏をしてあげていました。
曲が終わったあと、Dがタガログ語で、
「サラマット ポ(ありがとう)」
と声を掛けました。
「あら、フィリピン人ですか?」
ひとしきり、タガログ語で大盛り上がり。女の子たちの出身は、ダバオやマニラなんだそうです。
「ぼくはフィリピン人だから、彼女たちを応援するためにカンパしますね」
Dは封筒に500円硬貨を入れました。
お客さんたちの反応はまちまち。
手拍子する人あり、ほほえましく見守る人あり、(非常識なやつらだ)と顔をしかめる人あり。D以外に封筒にカンパを入れた人がいたかどうか、よくわかりません。
女の子たちが、嵐が去るように出ていくと、Dが立ち上がって、
「どうもすみませんでした、フィリピン人を代表して謝ります!」
と謝罪。バンドリーダーからは、
「いや、楽しかったよ」
と言ってもらえたのでほっとしました。
思いがけない飛び入りの後、後半のジャズ演奏が始まりました。
私たちはちょっと気まずかったこともあり、後半の部が全部終わる前に、「投げ銭」を入れて店を出ました。
「ほんとに恥ずかしかったです」
「フィリピンにはよくいるの? 流しの演奏」
「クリスマスのときにはいますけど、今はクリスマスじゃないし…」
私が韓国に駐在中に、韓国のバーで、ときどき流しのおじさんに遭遇したことがあります。楽器はアコーディオンだったり、クラリネットだったり。こちらが日本人だとわかると、「長崎は今日も雨だった」とか「恋人よ」とかの大昔の演歌なんかを弾いて、1万ウォン(当時千円ぐらい)のチップをとられたものです。今から20年ぐらい前の話。
発展途上国の風物なのかもしれません。
1年ほど前、駅前でやはりフィリピンの若い女性2人が、小分けにしたチョコレートの包みを売っていたことがあります。そのときもDは「恥ずかしい」と言っていました。
彼女たちは、あのあと、ほかの居酒屋やバーなどを回ったんだと思いますが、店によってはけんもほろろに追い出されたんじゃないでしょうか。
私たちがいたカフェでも、ジャズバンドの「投げ銭」に悪い影響が出ていなければいいのですが。
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