『帝国の慰安婦』の著者、朴裕河教授の刑事裁判の第3回公判が、4月18日に開かれます。
朴教授は、初公判の直前に「国民参加裁判」を申請。裁判所はその判断を保留している状態です。4月18日に、この裁判を国民参加裁判として開くかどうかの判断が示されると思われます。
国民裁判制度とは、韓国の裁判所のホームページによれば、2008年より実施されている制度で、刑事裁判に国民が参加できるもののようです。日本の裁判員裁判と同じようなものでしょう。
韓国の裁判所のホームページは、次の3つの特徴を挙げています。
1. 陪審員の全員一致の評決を原則とするが、全員一致に至らない場合、裁判官の意見を聞いた後、多数決で評決できる
2. 陪審員は、判事とともに量刑に関して議論することができるが、表決には参加しない
3. 陪審員の評決は勧告的効力を持つが、裁判所を拘束しない
その他、ホームページには以下のように説明されています。
国民参加裁判にするかどうかは、被告人の希望によること。ただし、被告人が希望しても、陪審員の安全が脅かされる恐れのある事件に関しては、国民参加裁判にしない決定ができる。
陪審員は、満20歳以上の、前科のない大韓民国国民。特別な資格は不要。健康上の問題、看護、育児、出張など、やむをえない事情がある時は、免除を申請できる。
陪審員は、裁判所ごとに作られた候補予定者名簿から無作為で抽出するが、事件について偏見や先入観を持ち、公正な評決が難しいと判断される陪審員候補者は、陪審員に選ばれないことがある。検事と弁護人は、一定数の陪審員候補者に対し、理由を明らかにせずに忌避申請ができる。
陪審員は、公判で検事と弁護人の主張を聞き、証拠調査過程で、被害者、目撃者など証人尋問を見守り、疑問があれば証人や被告人に質問ができる。証拠調査終了後、検事と弁護人はそれぞれ事件の争点、証拠関係に関する最終弁論を行って、陪審員を説得する。弁論終結後、裁判長は陪審員に事件の争点と証拠、適用する法律、判断の原則について説明する。陪審員はこの説明を聞いて、評議(有罪か無罪かの議論)を行う。全員一致の結論が出るように努力するが、全員一致に至らなければ裁判所意見を聞いて、評決を下す。有罪の評決ならば、被告人に対する適正な量刑について、裁判官とともに議論する。
国民参加裁判は、原則的に毎日裁判を行い、1~3日以内に裁判を終えるように運営する。
また、韓国版ウィキペディアによれば、一つの裁判の陪審員の数は5~9人。また、実質的な参加率は50%未満とのことで、陪審員に選ばれても免除申請して出席しないことが多いようです。
日本の裁判員制度は、刑事裁判のうち殺人罪、傷害致死罪、強盗致死傷罪、現住建造物等放火罪、身代金目的誘拐罪など、一定の重大な犯罪について行われます。韓国は、重大事件に限らず、被告人が望めば国民参加裁判を受けることができるらしい。被告人が望まなければ国民参加裁判にはならず、日本の裁判員制度が被告人に拒否権を認めていないのと対照的です。
また、陪審員の評決は、裁判所の判断の参考意見にしかならず、実質的に判決や量刑に関与できない。日本の制度に比べると、国民が裁判を体験できるといった程度の、形式的な制度に思えます。
関係者(裁判官、検事、弁護人)が、陪審員の選定に口を出せるというのも、よくわからない。
「事件について偏見や先入観を持ち、公正な評決が難しいと判断される陪審員候補者」とありますが、そんなこと、だれが判断できるんでしょうか。
国民参加裁判になったところで、判決の内容が変わるようには思えませんが、裁判の推移を見守りたいと思います。
なお、朴教授はフェイスブックで、『帝国の慰安婦』事件に関連する出来事を時系列でまとめているので、翻訳・紹介しておきます。
『帝国の慰安婦』関連年表
2005年9月
朴裕河『和解のために―教科書/慰安婦/靖国/独島』(プリワイパリ社)刊行 翌年、2006年文化体育観光部優秀教養図書に指定
2006年11月
朴裕河『和解のために』日本語版刊行(平凡社)
2007年12月
日本語版『和解のために』、朝日新聞社主催大仏次郎論壇賞受賞
2008年9月
ハンギョレ新聞、在日同胞徐京植の「妥協を強要する「和解」の暴力性」を掲載。徐京植は同コラムで、朴裕河および朴裕河に友好的な「進歩主流」を共に批判
2009年7月
ハンギョレ新聞、在日同胞尹ゴンチャとのインタビューで「『和解のために』という本で日本の保守知識人の賛辞を受けた朴裕河」と表現。尹は朴裕河を「似非右派心情主義」と批判
2009年12月
ハンギョレ新聞、尹ゴンチャの本を「日本右翼の称賛を受けた『和解のために』を批判した本」と紹介
2013年7月
朴裕河『帝国の慰安婦』刊行
―2014年―
4月
朴裕河、有志とともに、「慰安婦問題、第三の声」を開催、埋められた慰安婦ハルモニの声を公開
6月
ナムヌの家、慰安婦ハルモ9人を原告として『帝国の慰安婦』の著者と出版社代表を告発。109か所を「虚偽」による名誉毀損と主張、刑事告発とともに一人当たり9千万ウォン、計2億7千万ウォンの民事賠償を要求. 同時に全面的出版・販売禁止と慰安婦に対する接近禁止を要請する仮処分訴訟を提起。告発時、記者会見を行って『帝国の慰安婦』が慰安婦を「自発的売春婦」と書いたと述べ、国民的な非難を引き起こす
7月
仮処分の審理開始
9月
朴裕河、反論文としてA4判150枚を提出。原告側、予定の審理期日を延期申請
10月
原告側、告発趣旨の変更を申請。109か所を53か所に減らし、朴裕河の「歴史認識」が「公益に反するもの」であり、「戦争犯罪を称賛している」という内容に変更された告訴状の提出と記者会見。当初の全面販売禁止要求も、一部削除後販売に変更警察、朴裕河を呼び出す。「犯罪リスト」とされた53か所に対する調査を開始
11月
朴裕河、『帝国の慰安婦』日本語版刊行。韓国言論仲裁委員会、6月告発当時の報道に対する朴裕河の申請を受け入れ、聯合ニュース、ハンギョレをはじめとする4つのメディアに訂正、削除など命令
12月
警察、朴裕河に対する嫌疑を無嫌疑として処理
―2015年―
1月
検察、無嫌疑として処理された朴裕河を再呼び出し。3回にわたり調査
2月
担当検事異動 ソウル東部支院、原告側の主張を一部受け入れ34か所を削除しなければ出版、販売ができないという判決。接近禁止申請は棄却
4月
新しい担当検事によって刑事調停開始
5月
民事裁判開始
6月
朴裕河、仮処分判決に従い34か所を削除した『帝国の慰安婦削除版』を刊行
9月
朴裕河、仮処分判決に対する異議申し立て
10月
原告側、調停条件として、1)謝罪、2)韓国語削除版の絶版、3)日本語版削除版を要求し、調停決裂
『帝国の慰安婦』日本語版、アジア太平洋特別賞および石橋湛山記念早稲田大学ジャーナリズム大賞受賞
11月19日
東部地検、朴裕河を在宅起訴
11月26日
大江健三郎、村山元首相など日米の知識人54人が「朴裕河起訴に対する抗議」声明
12月2日
朴裕河、起訴抗議記者会見。韓国知識人194人、起訴に反対する知識人声明
12月9日
韓日の研究者・活動家380人、『帝国の慰安婦』騒動に対する立場を表明
―2016年―
1月
ソウル東部支院、朴裕河に対し原告側に9千万ウォン賠償の民事判決
1月19日
朴裕河、民事判決に対して控訴
1月20日
第1回刑事裁判開始。朴裕河、国民参加裁判申請
1月24日
原告側、民事賠償金の名目で朴裕河の給与を差し押さえ申請
1月27日
第2回刑事裁判
1月31日
朴裕河、『帝国の慰安婦』削除版を、ホームページを通じて無料公開
2月
西部支院. 損害賠償金差押申請を認定。世宗大、朴裕河の給与を差し押さえ 朴裕河、強制執行停止を申請
3月14日
高等法院、強制執行停止申請を認定。4500万ウォンの供託金を命令
(2016年3月作成)
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