犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

文学者、朴裕河

2016-04-09 23:04:41 | 慰安婦問題

 『帝国の慰安婦』で、法廷闘争に巻き込まれている朴裕河教授は、もともと日本文学を専攻し、現職も日本文学部教授です。

 
最近のフェイスブックには、「朴裕河が語る朴裕河」というタイトルで、自身の生い立ち、研究生活、裁判闘争にいたるまでの半生が綴られていました。

 
高校卒業後、慶応大学に留学、国文学を専攻して結婚のためにいったん帰国後、あらためて早稲田の大学院に進む。夏目漱石を研究し、漱石の紀行文や小説を、フェミニズムと脱植民地の観点から批判的に取り上げたそうです。帰国後、日本の近現代文学の翻訳を行い、大江健三郎などの作品を翻訳、紹介したが、偶然にも刊行直後に大江健三郎がノーベル文学賞を受賞。当時の韓国では珍しく、きちんと著作権契約を結んで翻訳したので、インタビューに応じてもらえたというようなことが書かれていました。大江氏は朴裕河氏に対する起訴への抗議声明に名を連ねていますが、こうした縁があってのことかもしれません(→リンク)。

 
大江健三郎がノーベル賞を受賞したのは1994年。当時私は東京で仕事をしていましたが、雇用していた韓国人アルバイト二人が、「翻訳の仕事が入った」と言っていました。何かと思えば、大江健三郎の作品。ノーベル賞をとったというので、まだ翻訳されていない作品を、日本に留学している学生を使って突貫工事で翻訳しようというのでしょう。そして、その作品と言うのが「洪水はわが魂に及び」、内容的にも難解な大作です。

「難しい作品でしょう?」

「はい、よくわからないところもあるけど、とにかく急げと言われていて」

「大変だね」

「はい、頑張ります」

 結局二人は指定された納期に間に合わせたそうですが、事情により出版は中止。報酬は0。かわいそうに骨折り損のくたびれもうけに終わりました。どんな事情があったかわかりませんが、もしかしたら著作権使用許諾をめぐるトラブルだったかもしれません。

 朴裕河氏も書くように、1990年代前半の韓国は、まだ著作権意識が希薄でした。海外作品は無許諾の海賊版が横行していた。

 韓国は1980年代まで、国際著作権条約に加入していなかったので、道義的責任はあっても「法的責任」はありませんでした、1990年前後に韓国も条約に加入。しかし、韓国政府は国内の出版社を保護するため、すでに翻訳、流通しているものについては10年間条約の適用を凍結すると一方的に宣言しました。もちろん、新規の翻訳は著作権使用許諾契約が必要でしたが、あいかわらず無許諾出版も行われていた。次のノーベル賞が取りざたされている村上春樹のベストセラー、『ノルウェイの森』も当初は『喪失の時代』というタイトルの海賊版が出ましたが、あまり売れず、後に正式に契約した出版社が『ノルウェイの森』という書名で出したらベストセラーになった、と聞きました。

 朴裕河氏の経歴に戻ると、大江氏の作品以外に、柄谷行人とも親交を結び、『日本近代文学の起源』を翻訳したとのこと。

 柄谷氏は文学研究で出発しましたが、今から30年前、私が大学生のころは、言語論や認識論など思想・哲学系の研究を盛んに発表していました。ある時期から歴史研究に力を入れ、韓国を訪問して講演をするなどしていました。朴教授も柄谷氏の訪韓に同行するなどしたようです。

 朴教授が日韓問題に関わるようになったきっかけは、2001年、教科書問題に関連して小森陽一東大教授の講演を招請したことのようですが、柄谷氏からも影響を受けたのかもしれません。


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