犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

採血の練習台

2021-11-19 00:06:20 | 日々の暮らし(2021.2~)
 人間ドックを受けたときのこと…

 いくつかの検診を済ませ、椅子にすわって採血の順番待ちをしていました。

 採血台は3つあり、そのうち2つはアジュンマ(おばさん)の看護師、いちばん右は小柄でかわいらしいアガシ(おねえさん)の看護師です。

(どうせならアガシがいいな)

などと思いながら、他人の採血の様子を見るともなく見ていました。

 そのとき、いちばん右の採血台でトラブルがあったようです。

「すみません。そちらでやり直していただけますか」

と言って、アガシがアジュンマのほうを指さします。

(新米なのかな?)

 嫌な予感がしましたが、そのアガシが私の番号を呼びました。プライバシー保護の観点からか、名前ではなく番号で呼びます。

「今まで、採血で気分が悪くなったことはありますか?」、「アルコールでかぶれたことは?」など、お決まりの質問のあと、左の二の腕をゴムバンドで縛って、言われるがまま手を握ったり開いたり。

「ちょっとチクっとしますね」

 針が刺さるところを見るのは嫌なので、横を向いて目をつぶります。

(あっ!)

 アガシが小声で叫んだのを聞き逃しませんでした。

(おいおい!)

「す、すみません。針が血管にうまく入らなかったみたいなので、隣でもう一度お願いします。本当にすみません」

(しかし、2人連続で失敗するか?)

 となりのアジュンマは、アガシを責めるでもなく、睨むでもなく、機械的にもう一方の腕から採血してくれました。アガシの失敗の尻ぬぐいに慣れている様子です。私は両腕に止血の絆創膏を貼られるはめに。

 夕食のとき、この顛末を家族に話しました。

妻「見習いだったのね」

四女「ああいうの、実際の人間相手じゃないと、練習できないらしいよ」

犬鍋「詳しいね」

四「大学で、そういうバイトあった。大学病院の看護師さんの採血の練習台」

犬「やったの?」

四「友だちがね。私はMRIのほうをやった」

犬「MRI? もし失敗したら、命にかかわるんじゃない?」

四「まさか。でも、なんか誓約書にサインしたけど。けっこう、割のいいバイトだったよ。時給換算すると5000円以上」

犬「そっか。ぼくも練習台にされてたわけだ。じゃ、お金もらいたかったな」

 大学病院のバイトと聞いて、大江健三郎の初期の作品を思い出しました。東大病院で動物実験用に飼われていた犬を大量に処分したり(奇妙な仕事)、解剖用の人間の死体を運んだりするバイト(死者の奢り)の話です。四女は読んでいないそうですが。

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