ブルース・リーは32年間という短い人生を物凄いスピードとエネルギーで駆け抜け、世界の映画人、武道家に計り知れない影響を与えた。また、それまで西洋人の召使的な低い地位でしかなかった東洋人の社会的地位を向上させ、東洋人でもセクシーと思えるようなイメージを初めて世界に植え付けた人間でもあった点で、彼がこの世に残した功績は大きい。カンフー映画スターとしてはあまりにも有名だが、あまり広く知られていないのが彼の哲学家としての一面だ。
「截拳道」とは1967年にブルース・リーが考案したものだが、その精神を表している言葉に、「無法を以て有法と為す、無限を以て有限と為す (Using no way as a way, Having no limitation as a limitation)」があり、これは僕の最も好きな言葉でもある。截拳道は型にはまった武道の流派を単純に表しているものでは無く、またそれは何かの限界を定義しているような思想でも無い。截拳道はまさにブルース・リーという人間の哲学、そして生き方そのものであった。この点で、優れた戦術書であると同時に人生における様々な指標となる宮本武蔵の「五輪書」にも通じるものがあると思う。
ブルース・リーはワシントン大学在学中、哲学課で多くの西洋、東洋の哲学書を読み漁り、また一時大きな怪我をして6ヶ月間入院し、トレーニングが出来ない時期があったが、そんな時も勉強する良い機会だと捉え、多くの哲学書を読んでいた。彼は哲学を専門的な学問の知的遊戯の場では無く、"絶え間ない魂の探求"であると捉えていた。つまりこれが截拳道だ!という決まったものでは無く、彼は有効な考えやスタイル、流派の良いところを積極的に取り込み、一つのシステムとして截拳道を構築したが、それは人それぞれによって独自に作り上げていくもので、水と同じように絶えず流れている、変化しているものであると考えていたのである。ブルース・リーの哲学を纏めた著書、「Striking Thoughts」、及び「Tao of Jeet Kune Do」は英語版、日本語版共に読んだが、彼の考えの中で自分として一番心に残っているのは、① 己をもっと良く知ること、自己実現/自己表現の重要性、② 人間に重要なのは評論家のように考えることでは無く、”行動”すること、そして、③ 洗練の極致はシンプルさ(Simplicity)であること、の3点である。ブルース・リーは良く自己の探求を彫刻家になぞって説明していたが、真のアーティストは無駄を削ぎ落とし、シンプルさを極めていくのだと。最小限の言葉や労力で最大限のものをはっきりと表現するほど難しいことは無いが、深い洗練が自然に帰結する世界がSimplicityなのだと説いていた。ブルース・リーの武道/哲学/思想に触れるようになって以来、僕の心に響き、そして心を震わす教えとなったが、その教えを実際に実行することは恐ろしく難しいが、自分なりにその教えを理解し、自分のやり方で少しずつ理想に向かって進むのみだ。しかし、ブルース・リーの哲学は物凄い説得力を持っている。なぜなら、彼が文字通りその短い人生の中でそれを説き、そして自らを以って実行して見せたのであるから。
毎年シアトルにある彼の墓を訪れているが、墓の前に立つといつも心が洗われる。そして、大きなインスピレーションが自分の中に芽生えるのを感じることが出来るのである。昨年墓を訪問した際には、それまで雨が降っていたのに、ちょうど墓前に立った瞬間に雨が止み、そして次の瞬間、世にも美しい虹が墓の前方、Lake Washingtonの上空に鰍ゥった事があった。この時の感動は今でも忘れられない。
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Aki
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