売れない作家 高村裕樹の部屋

まだ駆け出しの作家ですが、作品の情報や、内容に関連する写真(作品の舞台)など、掲載していきたいと思います

『宇宙旅行』

2013-01-06 01:06:48 | 小説
 今回から『宇宙旅行』を掲載します。

 短い作品なので、数回で完了しますが、この作品は20代のころから温めていたものです。
 前に書いたときは、自分自身がこの作品を完成させるほどの力量がなく、途中で放棄してしまいました
 50代になり、ようやくこの作品を書ける程度には成長した? ので、『幻影』の第1稿を書き終えた後、再チャレンジしました。まあ、自分なりにある程度のものがかけたと思っています。後半の展開が、20代のころの構想とは大きく変更しています。

 そんなことで、短いのですが、思い入れがある作品です。


   宇宙旅行

 宇宙船アルゴは、文明が存在すると思われる、くじら座タウ星系に、光速に近いスピードで向かっていた。

 二六世紀初頭、人類は戦争、環境破壊などの絶滅の危機を乗り越え、未曾有の繁栄を誇っていた。
 科学も格段に進歩し、いよいよ恒星間宇宙の旅行も実現させた。
 アルゴは、高度な文明の存在を思わせる、微弱な電波を放つくじら座タウ星系を調査する目的で航行した、人類初の有人恒星間旅行宇宙船だ。

 人類は二〇世紀から二二世紀にかかる戦争、環境破壊による絶滅の危機を乗り越えた。
 戦争の原因は、民族・宗教の争いにある、と考えられた。すべての国家を廃して、すべての民族の平等を謳い、地球連邦政府が樹立された。そして、宗教は迷信であると断定された。
 言葉も英語のみを公用語とし、他の言語は廃止された。英語以外を母国語としている人々に対しては、一世紀の準備期間を認め、学校教育、社会教育で英語への移行を徹底した。英語以外の文学作品、歴史的資料は、人類資産として価値があると認められたものは英訳されて遺されたが、そうでないものは大部分が廃棄された。多くの文学者、言語学者、人文科学者などの反対があったが、強引に押し切った。
 急進的で、強硬な改革のため、民族主義、信仰擁護の戦いが各地で繰り広げられた。
 かえってこれまでより大きな戦争になることもしばしばだった。
 しかし、民族間の争い、宗教戦争を撲滅しない限り、真の世界平和はないと確信する地球連邦政府は、圧倒的な軍事力でもって、弾圧を重ねた。
 一世紀に及ぶ戦乱の末、地球連邦は勝利した。そして、人類は争いのない平和な世界を獲得した。
 まず、戦争により破壊された環境を戻すことを第一とした。科学力を結集し、環境回復、保全に全力が注がれた。
 戦争がなくなったので、治安維持のための武力は別として、軍事力の維持が不要となった。その分を環境のために割り当てることが容易となり、地球環境の回復は急ピッチで進んだ。
 それにより、人類が信ずるに足るものは科学技術であり、宗教は前世紀までの廃物として、遺棄された。宗教こそが戦争の根源であるとされ、宗教に対しては、徹底した弾圧、取り締まりがなされた。
 神仏を信じていると断定された者は、矯正施設に送られ、洗脳された。まさに新時代の踏み絵が横行した。それでも信仰を捨てない者は、一生施設から出られず、社会から隔離された。
 科学こそが人類を進歩させる最高最良のものだ、と信じられた。まだ科学では解明されていない謎も多数存在するが、それらはさらなる科学の進歩により、必ず解き明かされると、だれもが信じた。
 かくして、人類は神仏を捨てた。
 しかし、それは科学こそが万能な神であるとする科学信仰であることには、だれも気づこうとはしなかった。
 
 アルゴは一五年の歳月を費やして、いよいよ目的地の近くまでやって来た。
 五名の乗組員は人工冬眠から目覚め、それぞれの配置についた。
 乗組員たちが休眠していた間は、非常に優秀な人工知能がアルゴの全機能を掌握し、制御していた。光速に近いスピードで航行するアルゴは、ほんの小さな星屑に衝突するだけでも、壊滅的な損害を被る。そのような危険を、人工知能はすべて監視し、回避した。だから、全乗組員が眠っている間も、まったく不安はなかった。
「目的地の惑星まで、あと七二時間」と人工知能が乗組員に告げた。
「いよいよですね。私たち人類が、他の星の文明と出会う、歴史的瞬間を迎える時が来たのですね」
 ただ一人の女性乗組員であるユミが、船長のジャクソンに話しかけた。
 アルゴの人工知能は、乗組員が眠っている間、その惑星から発信されている電波を捕らえ、分析している。その電波は、間違いなく知的生命体が発しているものだった。
 かつて、非常に規則正しい周期を持つ電波を受信し、それこそ知的生命体からの通信だと信じていたことがあったが、まもなく、それは中性子星が放つパルスであることが判明した。
 現在受信されている電波は、解析の結果、自然のものではあり得ず、間違いなく知的生命体が発している電波であることが確認された。
 そこで、人類最初の恒星間旅行として、この惑星系が目的地とされたのだった。
「我々としてはできる限りこの星の住人とは、友好的な関係を結びたい。しかし、最悪の場合は、武力で弾圧せざるを得ないことになるかもしれんな」
 船長のジャクソンはユミに言った。
「できるだけ平和的に行きたいですね。でも、この星の住民たちが私たちに対して、非友好的で、私たち以上の力を持っていたとしたら」
 ユミは不安そうに言った。
「大丈夫だ。この星から発信された電波を解析したが、科学力では我々地球人の足元にも及ばない。せいぜい二〇世紀前半程度のものだ」
 ジャクソンはユミの不安を払拭した。
「それに、彼らが我々以上の科学力を持っていれば、とうに地球に来ているはずだ。彼らにとっても、地球は最も近い文明が発達した星であるから。二一世紀まではUFOなどということもよく言われていたが、それはまったく宇宙人とは関係がないことも証明された」
「しかし我々としては、あくまで平和共存でいきたいですね。今は地球は平和ですが、何百年も昔は、戦争や紛争で、多くの人々が犠牲になっていたそうですから」
 副長のタカシも話に加わった。
「ああ、我々の任務は、侵略ではなく、星の住民と平和的な関係を結ぶことだからな。我々に危害を加えようとしない限り、こちらも武力は行使しない」
「私たち地球の歴史では、一五世紀から始まる大航海時代は、旧ヨーロッパ諸国による、アフリカ、アジア、アメリカなどの侵略の歴史だったわ。新しい宇宙大航海時代は、そのような悲惨な歴史の繰り返しにならないようにしたいですわ」
「そうですね。僕たちは戦争なんてまったく縁がない世代として育ったんだから、戦えと言われても、何もできないし」
 隊員のシェンが言った。
「なに、万一の時は精巧にプログラムされた戦闘用人工頭脳がすべてをやってくれる。心配することはない」
「私はそんなもの使わなくてもいいよう、祈ります。あ、祈るという言葉を使ってはいけないのですね」
 地球連邦は、宗教をいっさい禁じていた。宗教こそ紛争の原因であるという考え方が徹底しており、かつての共産主義以上に、徹底した唯物論的主張を貫いている。ありもしない神仏をあがめるという行為は、非常に愚かな、低級な行為と目されていた。祈るという言葉はタブーとされていた。

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