海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

全漁連の抗議声明

2011-04-06 14:07:50 | 政治・経済

 4月5日に全漁連が国と東京電力に対して「福島第一原発放射能汚染水放水に対する抗議声明」を出した。

http://www.zengyoren.or.jp/oshirase/pdf/toudenkougibun.pdf

 「低濃度」「低レベル」とことさら強調しているが、東電が海に放水した放射能汚染水は〈法律で環境中への放出が認められている基準の最大で500倍の濃度〉(4月6日付琉球新報)というものだ。2号機のピットの亀裂から流出している汚染水が極めて高濃度であることと比較し、「低濃度」「低レベル」とごまかした上で、高濃度の汚染水が流出するよりはまし、と居直って放水を正当化している。汚染水の流出と放水によって、茨城県では漁民が出漁を取りやめざるを得ない状況に追い込まれており、全漁連の怒りは当然のものだ。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110406/k10015124311000.html

 東電は海に放水しても拡散するから問題ないかのように言いつくろっているが、沿岸部の潮の流れはそんな単純なものではないだろう。福島第一原発近海では、水深160メートルからも放射性物質が検出され、原子力安全委員会でさえ、食物連鎖による〈生物濃縮の懸念〉を表明している。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110330/dst11033022150068-n1.htm

 採取された魚の汚染が報道された時点で、消費者の買い控えは一気に進む。売れない魚は店頭に置けないし、小売店、仲買人、市場が受け入れを拒めば、漁民は出漁しても燃料代と労力を無駄にするだけだ。葉物野菜の放射能汚染で農家が被害を受けている先例があり、漁業でも同様の事態が起こるのは予想されたはずだ。これを「風評被害」と呼んで消費者の行動に問題があるかのようにいうのは、政府と東電の責任逃れでしかない。

 2号機立て坑「ピット」の亀裂からの流出は止まった、という報道がなされている。しかし、汚染水の流れを途中で遮断して「ピット」の亀裂からの流出は止めても、原子炉からの漏出が続くかぎり、汚染水は上下左右に広がって新たな流出先にいたる。5・6号機の建家の地下にも放射能を帯びた地下水がひび割れから浸透しているという報道もある。福島第一原発の敷地内はもとより、その周辺にも放射能汚染水が地下水として広がり、複数の地点から海に流れ出している可能性もある。

 放射能汚染水は直接触れることはもちろん、近くで作業するだけでも被曝は免れない。短時間で交代して作業を進めるには人海戦術しかないが、東電の6日の記者会見によると、福島第一原発では現在200名ほどが作業をしているという。限られた作業員で生起している問題に十分に対処しきれていない、というのが実情なのだろう。原発の事故処理がどれだけの困難を伴うかを見せつけられている。事故の時だけではない。原発は日常的に多くの被曝労働者を生み出すことによって維持されているのだ。

 2号機の「ピット」の亀裂から漏れていた汚染水は、水面近くの放射線が「1000ミリシーベルト超」とされていた。実際にどれだけの値だったか、東電は、計る測定器を持っていない、とした。その近くで作業をした労働者たちは、どれだけの恐怖を味わい、どれだけの被曝をしたか。彼らを英雄呼ばわりして、労働者たちが心身に受けた被害を曖昧にしてはならない。電力不足を強調し原発を維持しようという動きも活発化しているが、被害を拡大し続ける福島第一原発の事故の深刻さと被曝労働者の実態を見れば、脱原発に力を尽くすべきだ。

 

 

 

 

 


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