海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

日米地位協定の改定と密約の解明を!

2012-01-10 23:55:41 | 米軍・自衛隊・基地問題

 昨年1月に米軍属との交通事故で亡くなった與儀功貴さんの遺族を支える会が、9日に「改定せよ!日米地位協定報告会&ミニコンサート」を開いている。

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-186074-storytopic-88.html

 与儀さんの母親の必死の訴えと友人、支える会などの努力によって、事故を起こした軍属は不起訴から一転して自動車運転過失致死罪で在宅起訴された。事故原因は米軍属の対向車線はみ出しにあり、日本で起こした事故が日本の裁判所で裁かれるという、本来あるべき姿となった。
 しかし、これは地位協定の改定ではなく「運用改善」によるものである。裁判権行使の判断は、米側の「好意的配慮」にゆだねられている。今回は普天間基地「移設」問題への政治的配慮も働いたと考えられる。次に同じような事故があったときにどうなるかは分からない。地位協定が改定されない限り、同じ問題が繰り返されかねないのである。

 『サンデー毎日』2012年1月1-8日号に〈日米地位協定運用見直しの大ウソ〉〈事実上行使してきた裁判権を手放した!〉という見出しの記事が載っている。ジャーナリスト・吉田敏浩氏によるもので、日米両政府が示した与儀さんの事故に対する〈運用見直し〉について、そのまやかしを批判している。
 今回の地位協定の運用見直しで、「米軍属の公務中の犯罪の第1次裁判権は米側にある」と確認された。しかし、これは〈不平等を固定化したのに他ならず、大きな間違い〉(143ページ)という。1960年に米連邦最高裁が「平時に軍属を軍法会議にかけるのは憲法違反」という判断を下した。以来、米軍は〈米軍属の公務証明書を発行しないことで事実上、第1次裁判権を放棄し、日本側に裁判権をゆだねる運用をしてきたという〉(143ページ)。
 ところが、〈米国で2000年、「米軍属の海外での犯罪を米国内の裁判所で審理できる」とする軍事域外管轄法、05年同法施行規則が制定された〉(144ページ)ことから、米軍は2006年から公務証明の発行と第1次裁判権の行使を再開したのだという。
 本来なら日本政府・外務省は、1960年から2005年まで米軍属が公務中に起こした事件・事故の第1次裁判権を日本側が事実上行使してきたという実績にふまえて、第1次裁判権を日本側に渡すように交渉すべきだった。しかし、それをやらずに米側の第1次裁判権を確認することで過去の実績を手放し、〈不平等を固定化〉させてしまったのである。玄葉外相が得意げに打ち出した地位協定の運用改善どころか、実態は改悪でしかなかったのである。

 吉田氏によれば、〈日本政府の過去の国会答弁を見ると、日米行政協定(現地位協定)が結ばれた52年以来、米側に第1次裁判権がある公務中の米軍人の犯罪で軍法会議にかけられたのは、政府が知り得る限り1件しかない〉(144ページ)という。米軍が公務証明書を発行すれば、軍人は日本の裁判はもとより軍法会議にさえかけられないのが実態であり、せいぜい、懲戒処分を受けるぐらいで、処分なしですまされることも多いのである。
 吉田氏は著書『密約 日米地位協定と米兵犯罪』(毎日新聞社)で、二重三重に張りめぐらされた密約によって、米軍人・軍属の特権が守られていることを批判している。

 吉田氏が同書で指摘している日米地位協定の密約群は次のようなものだ。

①「米兵犯罪の裁判権放棄の密約」
 *第一次裁判権の不行使により事実上(実質的に)裁判権を放棄する密約。
②「米軍人・軍属被疑者の身柄引き渡しの密約」
 *米軍人・軍属被疑者の身柄をできる限り日本側で拘束せず、米軍側に引き渡すという密約。
③「公務中かどうか不明でも米軍人・軍属の被疑者の身柄を引き渡す密約」
 *②の密約の実施を確実なものにするためにの秘密の「合意事項」。
④「民事裁判管轄権に関する密約」
 *米軍人・軍属に対する民事裁判(損害賠償請求)で、裁判所が米軍に情報提供や証人(軍人や軍属)の出頭を求めた場合、機密に属する情報や米国の利益を害する情報などは提供しなくてもよく、またそのような情報の公表につながるおそれがあったり、軍事活動に支障をきたすようなものは証人として出させなくてもいい密約。
⑤「米軍機事故現場における措置の密約」
 *米軍機事故現場に米軍は所有者の事前承認なく立ち入れる密約。
⑥「在日米軍の施設・区域の公表に関する密約」
 *米軍は軍事機密などの必要性に応じて、施設・区域(基地や演習場など)の存在を公表しなくてもいい密約。(206~208より引用) 

 沖縄の人なら⑤を見てすぐに沖国大への米軍ヘリ墜落事件を思い出すだろう。これらの密約群によって米軍人・軍属の特権が守られるということは、被害者となる沖縄人・日本人の人権が侵害されるということである。沖縄に住んでいる人はもとより、旅行で訪れる人にとっても、自分や家族、友人、知人がいつ米軍関係の事件・事故に巻き込まれ、被害者になるか分からない。地位協定の改定を実現し密約を解明することは、自分の身を守るために必要なのである。与儀さんの遺族を支える会の呼びかけに積極的に応えたい。 

 


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