京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

時間についての考察 XI:体内時計の起源について

2019年05月29日 | 時間学

 

 

  約24時間の概日リズム(Circadain rhythm)に支配された体内時計の分子的な基盤は、時計遺伝子とその転写産物である各種蛋白のフィードバックループ的な相互作用に他ならないことが分かっている。この分野の成果でもって、2017年にはジェフリー・ホール、マイケル・ロスバシュ、マイク・ヤングの3人が「概日リズムを制御する分子メカニズムの解明」によりノーベル賞を受賞した。

 しかし、研究が進むにつれてフィードバックループの構造は高速道路のジャンクションのように複雑さを増して、素人には(おそらく専門家も)分けがわからなくなってきている(下の図1参照)。最近では、おまけに時計遺伝子の発現を制御するノンコーディング領域の DNA 配列もマウス個体の日内リズムの維持に必要であることが報告されている(http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2019/documents/190612_1/01.pdf)。

 歴史的には、19世紀にクロード・ベルナールが提案した恒常性が生物学者の哲学で、生物学は変動を伴うリズムよりは恒常性(homeostasis)といったことが注目されてきた。そして、長い間そのメカニズム研究に主眼が置かれてきた。それゆえに、一昔前には体内時計の研究など意味がないとされていたのである。

  一方でhomeostasisの現象も細かくみると振動があり、これはフィードバック機構によることが明らかになっていた。いわば”振動の平均”が恒常性といえるのである。おそらくこの短周期のフィードバック機構の一つに、環境のサイクルを受容するシステムがカップルして長周期の体内時計が進化したものと推定される。いまや、これは計時機能に特化しているようなので(大部分の時計遺伝子のdeletionは見かけ上致死的ではない)、以前はどのような代謝的あるいは生理的な機能であったかはわからない(variants産物の解析によってヒントが得られるかもしれないが)。おそらく細胞にとっては2次的な役割を担っていたものであろう。生物によって体内時計が多様であるのは(動物、植物と微生物ではまったく違う)、このような代謝系の利用の方法が普遍的であったと思わせる。

  

図1.ショウジョウバエの体内時計の分子機構。参考文献(松本顕氏)より転載。

 

参考文献

松本顕 『時をあやつる遺伝子』岩波書店 2018

アラン•レンベール 『時間生物学とは何か』 白水社 2001

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