ウチの2番目の猫、くっち。この子も雌猫でした。
最初の猫チャロが逝ってからそう何ヶ月もたたない頃、そう、今頃の季節だったかもしれません。
ウチの庭に野良猫の親子が入りこむようになり、その子猫が、くっちでした。3ヶ月ほどの大きさだったと思います。
最初は、黒猫だと思ったのです。小さいから可愛く見えましたし、猫がいなくなって寂しい頃でしたから、母と私とで手なずけて、家にさらってしまいました。
不思議なことに母猫は騒がず、しかもそのあとすぐ姿を消してしまいました。
さて、黒猫だと思ったその猫、成長してみると、いわゆる雑巾猫でした。黒地に、赤茶色や薄茶色の毛が方々に混じっていたのです。雌猫にしては身体が大きく、しかも可哀想なことに、鼻が長いブス子ちゃんでした。庭を通ると、ウチの猫と知らない近所の人が、「何、この猫!」といかにも嫌そうに言ったほどです。
でも、この猫はとても優しい猫だったのです。猫も色々だとこの子を飼って知りました。おとなしくて遠慮がちで、わがままなところはひとつもありません。忠実な犬みたいな猫でした。
チャロはよく、癇癪を起して人の足首に噛みつき、引っ掻かれることもしばしばでしたが、くっちは一度もそういうことがありませんでした。
その上働きもの。朝、夕と2回、毎日スズメなどの鳥を捕ってくるのです。
正直迷惑で、それが野ネズミだったりモグラだったりしたときは、思わず「キャー!」と叫んで叱ったりしてしまいましたが、今から思うと申し訳なかった。ウチに飼われないで、たとえばウイスキーの醸造所(原料の大麦をネズミから守るためウイスキーキャットと呼ばれる猫を飼う)にでも住んでいたら、“クイーン”の称号をもらえたのに、と気の毒でした。
おとなしい分、あまり甘えず、淡白な猫でありましたが、ちょっと不思議なところもありました。
視線を感じるのでふと見ると、座椅子にねそべってくっちがこちらを見ているのです。それが、“慈愛”とでも言いたいような優しい目なのでした。そして何分も、ときには何十分も、ただ見つめているのです。見ているだけで楽しいのだ、とでも言いたげでした。
デリケートなところもあったようで、一回出産をしたのち、避妊手術をしたのでしたが、そのときショックを受けて、3日間くらい食事をしなかったので、心配したこともありました。手の上に魚の切れ端をのせて持っていって、やっと食べてくれたときはホッとしました。
けれど、中年の入口くらい、5、6歳で交通事故で逝ったので、この子のことは心残りでした。