あめふり猫のつん読書日記

本と、猫と、ときどき料理。日々の楽しみ、のほほん日記

一途な愛にたじろぐ本 その3

2009-11-21 00:06:49 | 本(エンタテインメント)

八日目の蝉 八日目の蝉
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2007-03
この本は一番最近読んだ本です。

以前から読みたいと思っていたのですが、ちょっとしたきっかけがあって思いきって買いました。

(もう私の部屋は本が飽和状態で樹海と化しているので、買っても文庫本で、単行本はよほど装丁が気に入らない限り買わないので)

不倫相手の子どもを誘拐した女の逃亡劇、と一口で言ってしまえるほどストーリーはシンプルですが、まさにノンストップという感じで、次々に変化する展開に、あっという間に引き込まれます。

導入部、三人称の0章、逃亡者の女の一人称で描かれる1章、大きく物語が変化する2章と、後になるほどストーリーは盛り上がって、そして最後は実に、気持ちよく着地するのです。

前半は犯罪者の逃亡劇ですし、恐ろしい、といってもいいような展開で、正直残酷な終わり方をするのではないか、と思ったのですが、物語の収束の仕方に、私はとても満足しました。

最後まで読み終わったら、もう一度、0章を読み返すことをお勧めします。

リフレインする1行の言葉が、いっそう心に沁みてくるように思うのです。

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一途な愛にたじろぐ本 その2

2009-11-18 23:20:14 | 本(エンタテインメント)

神様のボート 神様のボート
価格:¥ 460(税込)
発売日:2002-06
これは以前、勤め先の先輩に貸していただきました。

一口にいえば、離れ離れになった恋人を、娘を連れて旅しながら探し続ける母親の物語、なのですが、自分の人生も娘の人生も犠牲にして追い求めるのが凄まじくも怖ろしい。

語り口は静かで、さまよう母娘がその時々の短い期間を暮す、それぞれの町の描写も美しく、ロマンティックな恋愛の物語としても読める気はします。

しかし、母の旅の行きつく先の選び方は根拠がなく、まるで何かに追われる逃亡者のよう。

作者自身が、“これは狂気の物語です”とあとがきで書いているのには共感しました。

『神様のボート』というタイトルにも、やはり、さまよい人、というイメージを重ねてしまう。

とても好きな本なのですが、私はやはり、これを怖ろしい物語として読みました。

誰かを深く愛する、というのは狂気と紙一重のものなのでしょうか。

(そういえば、ニーチェの言葉で、“どんな愛の中にも一片の狂気があり、どんな狂気の中にも一片の真実がある。”というような一節があったような……読んだときはとくに深く考えなかったけれど、これも怖い箴言だ)

物語はクライマックスを経て、意外に穏やかに終わりますが、どう感じたかを他の人とも話し合ってみたくなる小説です。

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一途な愛にたじろぐ本 その1

2009-11-14 00:04:20 | 本(エンタテインメント)

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない  A Lollypop or A Bullet (角川文庫) 砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet (角川文庫)
価格:¥ 500(税込)
発売日:2009-02-25
この本は最初は、ライトノベルの範疇に入っていた本ではないかと思います。

にもかかわらずこの内容!OKを出した編集者の方には感心します。

私は桜庭一樹氏の作品はまず、『桜庭一樹読書日記』を読んでご本人に興味を持ち、それから『赤朽葉家の伝説』『少女には向かない職業』『私の男』と一般向けのものを読んでいきました。

でも、このジュニア向けの一冊は、桜庭氏のターニングポイントになった作品だと聞いていたので、以前から興味を持っていて、やっと最近読みました。

期待を裏切らない内容で、しかも一気呵成に読めますが、あおり文句に“青春暗黒小説”とあるとおり、かなり凄まじい内容で驚きもしました。

作品の冒頭、少女のバラバラ死体が山中で発見された、という新聞記事抜粋の体裁をとった短い文章が掲げられ、悲劇は最初に予告されます。

母子家庭で暮らす主人公の女子中学生が、転校生で、父子家庭の美少女と次第に心を通わせますが、当然物語はひとすじに悲劇へと駆け下りていくのです。

でも、なによりこの物語の悲劇は、“とても、愛していること”だというのが、思わずたじろがされるところでした。

作者の桜庭氏も、今年5月の朝日新聞のコラムで、このように書いています。

 “彼女が殺される前に語った言葉「お父さんのこと、すごく好きなんだ」「好きって、絶望だよね」は、書いた本人である自分の胸の中で、今でも、過去からの鐘の音のように鳴り続けている”

以前アガサ・クリスティの『終わりなき夜に生れつく』の書評で、“女の幸福の一つは、愛している男の手にかかって殺されること”というような事が書いてあって少し驚いたことがあったのでしたが、“肉親への一途な愛”のための暗転を描いたこの物語は、さらに胸に重く響きました。

それでも、終末にはどこか、不思議な清々しさがあります。それが、桜庭氏が持っている本質からくるものなのか、それとも主人公の若さのせいなのかは分からないのですが。

その清々しさが、この暗黒の物語の一筋に光にも、赦しのようにも思えます。

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シェーラザードの死

2009-05-31 00:43:03 | 本(エンタテインメント)

十二ヶ月―栗本薫バラエティ劇場 (新潮文庫)
価格:¥ 530(税込)
発売日:1985-12

先日、栗本薫氏の訃報があった。

まだ、それほどの年齢ではなかったで驚いた。

以前、婦人科系の癌を患ったんじゃなかったっけ……パワフルな人だったからそれを感じさせなかったけど、身体、きつかったのかな、とも思った。

それから、ファンの大多数の人もそうだと思うけれど、気になったのは、あの日本一の(世界一の?)大長編『グイン・サーガ』はどうなってしまうのか、ということ。

かの巨大長編の第1巻が発行されたのはちょうど私が高校に入った頃で、友達に借りて最初の何巻かは読んだけれど、当時から、“百巻完結か、大長編苦手だし、私にはついて行くの無理だな……”と思った。

予想は当たって、その後パタリと読まなくなってしまった。けれど、専門学校生の時本屋でバイトしていたのだが、当時はかなり売れ筋の本で、平積みの山が瞬く間に無くなっていく様子は気持ちいいくらいだった。

『僕らの時代』などのミステリーや、エッセイも何冊か読んだ。が、どれも面白くはあったが、正直、好きになれないところもあった。

けれど、大変な早書きで、また一気呵成に書いて、書き直しをほとんどしない、という話を聞いていたので、“現代のシェーラザードだな、掛け値なしの天才かも”とも、思っていた。

そうして、十代の私がこれだけは本当に好きだった、という作品は、実は地味な短編集の、これ。

1月から12月まで、それぞれの月をテーマに書かれた、さまざまなジャンルの物語。(ミステリーもあれば時代小説も、ファンタジーもあり。『グイン・サーガ』の外伝もあった)

彼女の作品の中では、マイナーな小品、というところかもしれないが、忘れられない一冊だ。

突然去った現代のシェーラザードの、冥福を祈りたい。

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