あめふり猫のつん読書日記

本と、猫と、ときどき料理。日々の楽しみ、のほほん日記

シェーラザードの死

2009-05-31 00:43:03 | 本(エンタテインメント)

十二ヶ月―栗本薫バラエティ劇場 (新潮文庫)
価格:¥ 530(税込)
発売日:1985-12

先日、栗本薫氏の訃報があった。

まだ、それほどの年齢ではなかったで驚いた。

以前、婦人科系の癌を患ったんじゃなかったっけ……パワフルな人だったからそれを感じさせなかったけど、身体、きつかったのかな、とも思った。

それから、ファンの大多数の人もそうだと思うけれど、気になったのは、あの日本一の(世界一の?)大長編『グイン・サーガ』はどうなってしまうのか、ということ。

かの巨大長編の第1巻が発行されたのはちょうど私が高校に入った頃で、友達に借りて最初の何巻かは読んだけれど、当時から、“百巻完結か、大長編苦手だし、私にはついて行くの無理だな……”と思った。

予想は当たって、その後パタリと読まなくなってしまった。けれど、専門学校生の時本屋でバイトしていたのだが、当時はかなり売れ筋の本で、平積みの山が瞬く間に無くなっていく様子は気持ちいいくらいだった。

『僕らの時代』などのミステリーや、エッセイも何冊か読んだ。が、どれも面白くはあったが、正直、好きになれないところもあった。

けれど、大変な早書きで、また一気呵成に書いて、書き直しをほとんどしない、という話を聞いていたので、“現代のシェーラザードだな、掛け値なしの天才かも”とも、思っていた。

そうして、十代の私がこれだけは本当に好きだった、という作品は、実は地味な短編集の、これ。

1月から12月まで、それぞれの月をテーマに書かれた、さまざまなジャンルの物語。(ミステリーもあれば時代小説も、ファンタジーもあり。『グイン・サーガ』の外伝もあった)

彼女の作品の中では、マイナーな小品、というところかもしれないが、忘れられない一冊だ。

突然去った現代のシェーラザードの、冥福を祈りたい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

短編の切れ味

2009-05-26 00:33:06 | 本(ミステリ・アンソロジー、その他)

うまい犯罪、しゃれた殺人 〈クラシック・セレクション〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫) うまい犯罪、しゃれた殺人 〈クラシック・セレクション〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
価格:¥ 819(税込)
発売日:2004-08-25

ひとつ前の記事、『謎の物語』について訂正があります!

ストックトンの『女か虎か』が、何の本に収録されているか知らない、と書きましたが、自分が以前紹介した『天外消失』に入っておりました!

すいません……(>_<)それにしても自分で書いたことを忘れてしまうなんて……。寄る年波のせいなのね……しくしく……。

さて、(さてじゃないっ!)訂正だけでは何なので、ふたたび短編の話を少しします。

私、高校生くらいの時、短編ミステリーがマイブームでして、私としてはそこそこ読みました。

で、やはり一番すごいな、と思ったのがスレッサーでした。(フレドリック・ブラウンもすごいと思ったけど、私の中ではSF作家なので)

とにかく切れ味が良くって、まさに切り取られた人生の欠片、という感じだった。

でも、私の一番のお気に入りは、実は彼の短編でもマイナーな、『濡れ衣の報酬』という一編でした。

これは本当に収録本はわかりません。EQに掲載されていたものを読みました。

(でも二十年以上前の記憶に頼っているし、掲載誌違ってたらどうしよう((+_+))いや、それよりそもそもスレッサーの作品じゃなかったらどうしよう)

主人公の弁護士が、裁判を待つ連続殺人犯にとんでもない取引をもちかけに行く。

殺人犯は多数の女性を殺した男だが、彼が犯していない一つの殺人をも、自分の仕業だということにしてほしい、というもの。その代償に、彼の幼い娘の将来の面倒を見る、というのだ。そして、その殺人というのは、実は弁護士の親友が妻を殺してしまった事件だった……。

ちょっとメロドラマっぽくて、いかにも若い娘が好みそうかなぁ、と思うし、今の年齢で読んだらたいして心に残らなかったのかも。

でも、若いころ好きだったものって、なぜかどうしても忘れがたいのです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

謎の物語

2009-05-24 23:52:22 | 本(ミステリ・アンソロジー、その他)

クイーンの定員―傑作短編で読むミステリー史 (1)
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:1984-01

リドル・ストーリーってご存知ですか?

結末を読者にゆだねるタイプのストーリーです。

初めて読んだのは十代の頃でしたが、インパクトあって鮮烈な印象でした。

有名なのは『女か虎か』。私が最初に読んだリドルストーリーもこれ。

(短編というより掌編で、あらすじがほとんど内容になってしまうので書きません。何の短編集に収録されているのかは寡聞にして知りませんが、ハヤカワミステリ・マガジンに収録されたことがあったと思います※これについて後で訂正しています^^;)

けれど、一番好きだったのは『クイーンの定員』に収録されていた、スタンリー・エリンの『決断の時』。

語り手がいて、彼には二人の友人がいるわけですよ。ひとりは派手で見栄っ張りだが、根は温かい男で、他人のために労を惜しまないタイプ。もうひとりはクールな毒舌家だが、頭脳明晰で話が非常に面白い。

ともに、欠点はあるけれど魅力的な人物で、語り手も、そして周囲も、両方を好いているのですが、この二人が出会ったら、これがいけない。

二人ともが、相手が大嫌いなのです。そしていさかいの末、二人はとんでもない賭けをする……、という物語ですね。

なんか、読んだとき、身につまされたというか……。お互いに根はいい人間で、魅力的なのに、そりが合わないというか、どうしても相容れない同士っているものですよね。

そして、結末(正確には結末の一歩手前で話が途切れるのがリドル・ストーリーですが)では、彼はどうするのか、そして、自分ならどうするのか、を考えさせられる……。

思えば、リドル・ストーリーというのは、読み手が自分の心をのぞくことになる物語かもしれない、とふと思いました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

二十歳とレディ・ガムシュー

2009-05-23 00:48:52 | ミステリ(サスペンス・ハードボイルド)

サマータイム・ブルース (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 104‐1)) サマータイム・ブルース (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 104‐1))
価格:¥ 861(税込)
発売日:1985-06

中学の時、『マルタの鷹』を読んだ。つまらなくはなかったけど、後味良くないな、と思った。

あまり書くとネタを割るので控えるが、結末は女子中学生にとってはいろいろモヤモヤ感が残るものだった。

また、同じころTVで『さらば愛しき女よ』の映画をちょっと見たときも、殴りあっている印象しかなくて、“なんて暴力的な話!”と思った。

つまり、中学生の頃はハードボイルドはちっともいいと思わなかったのだ。

けれど、高校の時短編『スペードという男』を読んで、“嫌な男だけど、ちょっとセクシーだ”と思った。

その後、フィリップ・マーロウものの『長いお別れ』など読んで、ちょといいかも……なんて思うようになった。

でも、私にミステリーを教えてくれた友達には言えなかった。

なんだかそういうものを読むことは、彼女に対する裏切りのような気がしたのだ。

今から考えると大げさだけど、でも、クリスティーものの登場人物たちは、暖炉の前で紅茶を飲み、優雅にテニスンの詩なんか暗唱しているのに、心に騎士を秘めているとはいえ、卑しい街で殴りあってる主人公はまずいだろう、と思った。

なのでこっそり読んだ。二十歳前後の時はちょうどタフな女性探偵(レディ・ガムシューなんていった)のブームが来ていたし、共感する部分もあってけっこうはまった。それから警察小説に流れ、いつしか、コージーもの(優雅な英国ミステリ)の方が遠くなってしまった。

それがちょっぴり後ろめたかったのだけれど、何年か後、彼女も女性探偵ものは読んだらしい、というのがわかって、ほっとした。また、ミステリーの好みも、多彩になったのを知って、これは少し意外だった。

けれど、それは当然だ、と今は思う。

私も変わっていったように、彼女だって、日々、移り変わって大人の女性になったのだ。

いや、母親になった彼女は、私よりもずっと真の意味で大人だ。

今はそんな彼女の手元に、どんな本があるのだろうか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミステリーは少女の友

2009-05-20 23:12:56 | 本(ミステリ・本格、パズラー)

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
価格:¥ 714(税込)
発売日:2003-10

ヒキをつくるほどの話題じゃないが、長くなりそうだったので2回に分けた。(また、続いたりして……)

仲良くなったきかけが何だったかは、今となっては思い出せないが、中学でミステリー好きの友達と出会った。

ミステリー好き、というか、彼女はアガサ・クリスティーが好きで、ホームズが好きで、マザー・グースが好きで、不思議の国のアリスが好きだった。

英国愛好家(アングロファイル)というのだろうか、今から思えばかなり渋い中学生だった。

彼女が最初に貸してくれたクリスティー作品はパーカー・パインの事件簿(これもシブい)だったように思うが、そのあとはやっぱりポアロだった。

『ヘラクレスの冒険』だったかな、(タイトル違うかも)ポアロものの短編集も貸してくれて、注釈などをノートにメモったのが懐かしい思い出。(ポアロのファーストネーム、エルキュールは、ヘラクレスのフランス語読みなのだ)

私もマザーグースが好きだったし、童謡見立て殺人というのは少女心をくすぐるもので(?)中学の時の一番のお気に入り作品はこの『そして誰もいなくなった』だった。

ロマンスありの映画版もいいけど、徹底して苦い原作がやはりいい。

それに、旅情あり、詩の引用あり、マフィンやホットチョコレートなどの美味しそうな食べ物ありのクリスティー作品は、少女の友にふさわしいものだった。

が、高校、そして専門学校と時が移り過ぎるうち、私のミステリー観にも結構な変化が訪れてしまうのである。

(やっぱりつづく)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする