あめふり猫のつん読書日記

本と、猫と、ときどき料理。日々の楽しみ、のほほん日記

小さきものにそそぐまなざし。

2011-01-05 22:37:33 | アート・文化

azumiさんが寄せて下さったコメントで、イナゴの話が出てきたので、ふと思い出しました。

年末に、熊田千佳慕氏の展覧会に行ってきたのです。

みつばちマーヤの冒険 (小学館児童出版文化賞受賞作家シリーズ) みつばちマーヤの冒険 (小学館児童出版文化賞受賞作家シリーズ)
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:1996-04

NHK教育の『日曜美術館』などで氏の細密画が取り上げられたせいでしょうか、平日にもかかわらず盛況でした。

(それに、幼稚園生の団体と一緒になりました。なるほど、たしかに小さな子が観るのにふさわしい絵だな、と思いましたが、ただ絵の掛けられている位置が子どもには高すぎるのは気になりました)

私は女性の例にもれず、そんなに虫が得意ではありません。

でも、子どもの頃はそうでもなかったのです。カブトムシやクワガタを飼うこともありましたし、トンボやテントウ虫も捕まえました。『ファーブル昆虫記』も読みましたし、大好きでした。

なのに大人になると、素手で触るのはもちろん、触ることを想像するだけでもぞっとするように。

でも、昆虫の絵を描いたり写真を撮ったりする方には、興味が前からありました。小さな命をいとおしむ人は、きっと優しいひとでもあるのだろう、という気持ちもあって。

実際に観た細密画は、思った通り繊細な、優しいものでした。花の絵はもちろん、昆虫の絵のフォルムの面白さ、美しさにも魅かれました。

そうして、千佳慕氏は基本的に昆虫をその場でスケッチはせず、観察して脳裏に焼き付け、急いで帰って描いたそうです。運よく屍骸や標本を手に入れられたときは綿密にスケッチしたそうですが、それにしても素晴らしい記憶力です。

それに、小さな命を大切にしたい、むやみに捕えたりしたくないと思う気持ちも伝わってくるエピソードでした。

もっとも、よく地面に腹ばいになって虫を観察していたので、生き倒れ老人に間違われることもあった、と語った一文があり、ちょっと笑いました。

そういえば、氏の絵は美しさと繊細さの中に、ほのかなユーモアも潜んでいるような気がしたのでした。

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甘く、苦い幻想。

2010-09-15 22:16:14 | アート・文化

ポヤルさんのネコのお絵描き [DVD] ポヤルさんのネコのお絵描き [DVD]
価格:¥ 3,465(税込)
発売日:2009-03-18
今日、チェコのアニメーション映画を観てきました。

私はアート・アニメーションが昔から好きですが、DVDは結構高価ですし、近郊の映画館にかけられることもなかなかないので、せっかくの機会にほくほくと出掛けて行きました。

1日3プログラム上映されて、それぞれが75分ほどですから、欲張って3プログラムすべて観ました。

けれど、短編アニメをまとめて観るのは案外集中力を使うもので、見終わったら結構疲れました。

いや、疲れたのは内容のせいかな。上にあげた『ネコのお絵描き』のような可愛いもの、絵本のようにファンタジックで美しいものもありましたが、けっこう苦い結末のものや、風刺のきいたものもたくさん。

印象に残ったストーリーで、『迷子のカシタンカ』という飼い主とはぐれた犬の話があったのですが、解説に“悲喜入り混じる結末がチェコ的”とあり、ああ、このうっすらともの悲しい感じは社会情勢が反映されているのかな、と思ったり。

考えてみれば、私はチェコのことを全くと言っていいほど知らないのです。チェコ、と言われればいちばん最初に連想するのはチェコのビール、ピルスナー・ワークウェル(ウルケル)。なんと無知であることか!

子ネコたちののびやかな動きや、可愛い人形アニメのスイートさと、残酷だったり、皮肉だったりする幕切れのビターな味わいが、両方舌に残るような不思議な経験でした。

チェコ、という国の背景も、知りたくなった1日でした。

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見えないものを視る。

2010-09-11 21:55:44 | アート・文化

先日家に帰ったら、NHKの夕方の番組に、俳優の篠井英介氏が出演しているのを観ました。

篠井氏はテレビドラマにも出演しますし、当然そのときは男性の役ですが、舞台では女形を多く演じられている、ということは知っていました。

歌舞伎以外の、新劇や現代劇の女形は珍しく、私は寡聞にして篠井氏しか存じ上げませんが、別に男性が女形を演じるのは不思議だとは思っていませんでした。

以前、女形とは違いますが、舞台上で女性の役を演じる美輪明宏氏(氏は普段の生活も女性ですが)が、『日本の女優さんはどうしても線が細いので、外国の迫力のある女優さんがやるような役は、むしろ男が演じた方がいい』というような事を言ってらして、それに共感したせいもあります。

でもぼんやりと、“だれが、どんな役を演じてもいいではないか”という気持ちがあったのだと思います。

その、私のぼんやりとした思いに篠井氏の言葉は輪郭をつけて下さいました。

篠井氏はこんなことを言ったのです。

「舞台で、外国の人を日本人が演じていても、別に変じゃなく観るでしょう。あれはハムレット、あれはオフィーリアと思って観ますよね。外国人になってもおかしくないなら、女になってもいいのじゃないかと」

また、篠井氏はほとんど女性の扮装もせず、衣装もきわめてシンプルに黒一色で演じたときの話もしました。

“黒一色の方が、観た人がいろいろな色を想像できるのではないか”“すべては観る人のイマジネーションにかかっている。もちろん、私がお客様のイマジネーションを喚起させる力が無くてはならないのですけれど”

私は演劇については無知だし経験もありませんが、その言葉を聞いたとき、演じる、ということの核に触れたような気がしたのです。

そうだ、いい意味で、芸術というのは全て虚構なんだ。見えないものを視せるのだ。

たとえ、女優さんが自分と年頃も性格も状況も似ている役をしたとしても、実際はその役はもちろんそのひとじゃない。それどころか、その役の人間はどこにも存在しないのだ。その存在しないものを、あたかも目の前にいるように感じさせ、心を揺さぶるのが演劇なんだ、と。

残念ながら篠井氏の特集は、最後の方をちょっと観ただけだったので、ああ、最初から観たかったな、と思いました。

けれど一方、まさに見えない何か、概念のようなものに一瞬触れたような経験でした。

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海に触れる。

2010-05-01 22:41:33 | アート・文化

みなさんは、心や体が疲れているとき、どうされていますか。

私自身は若い頃は、多少M傾向があることもあって逆に頑張ってみたりとか、刺激の強い本や映画を観たりしたものですが、最近は、やっぱり癒しを求めるようになったようです。

これは最近買ったDVD。なんかやりきれないことがあった時に観ようと思ったのですが、疲れているときにもいいかな、と思いました。

ディープ・ブルー スペシャル・エディション [DVD] ディープ・ブルー スペシャル・エディション [DVD]
価格:¥ 4,935(税込)
発売日:2005-05-27

この映画は、公開時友達と観に行こうと約束したのに、私がインフルエンザになってドタキャンしその後ひとりで観に行きました。(しかも劇場に2回)

海の生物のドキュメント映画で、長い期間をかけて知られざる生き物たちの生態にせまった映像は迫力がありますが、基本的にストーリーはありません。

でも、深海の生物のネオンのような美しい光や、魚を捕えるために驚くほど深く潜る水鳥の姿は、驚きと感動がありました。

辛くなるようなシーンもあるのですが、なんとなく癒される気がするのは、海というものの持ち合わせる力でしょうか。

そういえば、その、映画を一緒に観に行くはずだった友達が、以前、海だけを被写体にした写真集を見せてくれたことがありました。

全頁見とおすと波の音が聞こえてくるようで、羨ましく、自分も欲しくなったものです。

思えば、あれが彼女の癒しグッズだったのかな……。

何となく懐かしい気持ちになる、海というもの。人間の根源があるせいなのでしょうか。

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のすたるじあ・しぇいくすぴあ その3

2009-09-07 00:02:44 | アート・文化

蜘蛛巣城<普及版> [DVD] 蜘蛛巣城<普及版> [DVD]
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発売日:2007-11-09

シェイクスピア作品の中で、一番好きなのは『マクベス』です。

断然好き。ストーリーも、セリフも、雰囲気もまさに私好み。

黒澤明映画の『蜘蛛巣城』も当然(?)好きです。

でもいつ好きになったかは思い出せない…(^_^;)

理由は、わかります。これは、善人がどうしようもなく悪を行ってしまう物語だと思う。そこにとても共感するのです。

それに、『サライ』の特集では『マクベス』の紹介文で、“妻にそそのかされ、悪に堕ちていく男”とコピーがありましたが、私はマクベス夫人も、根っからの悪女とは思えない……。

彼女は“愛する男のためなら何でもする女”であって、もちろん愚かな悪女ともいえますが、その一途さには少し、惹かれてしまう。

ところで話は飛びますが、水谷豊氏主演の社会派ミステリードラマ『相棒』の中で、右京さんが事件関係者をいさめる場面に、マクベスの台詞を引用していたのに嬉しくなったことがあります。

(嬉しいような場面ではなかったですが^_^;むろんシリアスなシーンです)

そういえば、“詩人マクベス”なんて言われるだけあって印象的な台詞が多いこの作品ですが、“明けない夜はない”っていう前向きな言葉が、なぜかこの悲劇の中にあるんですよね。

やっぱり何度読んでも奥深い作品です。

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