「うん。いたよ。」
『海のはじまり』最終話より
※ ※ ※
昨年の夏に旅立ったその人は、何もかもを閉じて去っていきました。
私のもとには確かな形としてほとんど何も残らず、かろうじて、この身の心に残る、呟いた言葉やそれに対して感じた気持ちの記憶などによって同じ世界同じ時に生きていたのだと。でも、確かに。
こんなに大切な人なのに…人生観が変わるほどの存在だったのに…海に溶けるクラゲのように消えていってしまった人。
何もしなかった私は想う資格さえないと考えながら、ふとした瞬間にやっぱり思い出しては涙があふれ、他の人の呟きに救いを求めたりして。
あなたは、いた。
静かに溶けていったとしても、あなたはいたのです。