金元四大家、朱丹渓(しゅたんけい:1281-1358)の『格致余論(かくちよろん)』で、最も批判されたのは、「相火論」です。
昔は、わたしも朱丹渓の相火論は、「わけ分からん」と思っていました。
しかし、「虚労(きょろう)」と「陰火」を分析し、臨床経験を積む過程で、じょじょに理解できてきました。
朱丹溪は、火は妄を起こし、これは飲食労倦、五志化火、房労などが原因となるとしています。労倦は、筋に火をおこし、房事過多は腎に火をおこし、飲食不節は胃に火をおこし、大怒は肝に火をおこします。
この相火の火は、肝腎にいるときは生命の火(命門真火・腎間の動気)なのですが、陰虚となると、上昇し、さらに陰虚を悪化させます。
また、朱丹溪は李東垣の学説を継承し、陰虚の陰火にたいしては胃気を補い、後天の脾胃を補うことで、肝腎を滋養します。
さらに相火妄動すれば、全身の気血津液の輸布は阻滞されて、気滞・血オ・痰凝がおこり、湿は気の流れを阻滞し、鬱(うつ)を起こします。痰飲が陽気の道を阻滞するので、それを気血通暢することを強調しました。朱丹溪が得意としたのは鬱証の治療です。
つまり、相火妄動の状態というのは、「虚労」です。
この「虚労(きょろう)」という病気は、『金匱要略・血痺虚労病脉證幷治第六』で取り上げられています。
『鍼灸大成』では、例えば、「虚労(きょろう)」に使われるツボは、「大椎」「陶道」「身柱」の灸、「四花穴の灸」や、「心兪の灸」などです。
しかし、「虚労」の症状は、
「潮熱(ちょうねつ:午後の微熱)」、
「五心煩熱(ごしんはんねつ:手足の火照りとイライラ)」、
「骨蒸発熱(こつじょうはつねつ:夜間に骨から蒸されるような発熱)」です!
これは陰血の虚の症状です!
陰虚内熱を大椎や陶道、身柱など督脈の灸で治す!のです!!!あるいは陽経の隔兪・胆兪の「四花穴の灸」です。
以下は『鍼灸大成』崔氏取四花穴法、より引用。
「男女の五労七傷、気虚血虚、骨蒸潮热、咳嗽痰喘、慢性病」
治男妇五劳七伤,气虚血弱,骨蒸潮热,咳嗽痰喘,尪羸痼疾,
「考えると、四花穴は、昔、この穴を知らないのを恐れて、この取穴法を行った。まさに五臓の背部穴にあたり、膈俞、胆俞の四穴である。『難経』では、血会の膈俞で血病を治すとされているので、骨蒸労熱や血虚火旺にはこれを取る」
按:四花穴,古人恐人不知点穴,故立此捷法,当必有合于五脏俞也。今依此法点穴,果合足太阳膀胱经行背二行:膈俞、胆俞四穴。《难经》曰:『血会膈俞。』疏曰:『血病治此。』盖骨蒸劳热,血虚火旺,故取此以补之。胆者,肝之腑,肝能藏血,故亦取是俞也。崔氏止言四花,而不言膈俞、胆俞四穴者,为粗工告也
以上、引用終わり。
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「虚労」の「血虚火旺」「陰虚」「骨蒸労熱」に四花穴の灸を使っています!
しかし、これは、臨床経験で「虚労」の気血虚して、湿熱たまり、頭顔面には「陰火」が上がって、舌尖紅、胖大で歯痕舌、白苔、脈は浮き、滑弦脈だが、沈は無力というタイプを診ているうちに、理解できてきました。
これは灸法で通陽し、気を補いながら全身にめぐらせる必要があり、古代は大椎や陶道、身柱の灸、あるいは心兪や四花穴灸、腎兪の灸を使ったのだと思います。
鬱熱なので、気を補いながら、通すのがポイントなのです。
以下は『鍼灸大成』痰喘咳嗽门
「诸虚百损,五劳七伤,失精劳症:肩井大椎膏肓脾俞胃俞肺俞下脘三里。」
以上、引用終わり。
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これは、まさに「虚労」に対して、全身に気を補いながら、気をめぐらせる配穴です。
李東垣の「陰火」理論と、朱丹渓の「相火妄動」の理論は、「虚労(きょろう)」の患者さんを経験して、初めて理解できましたが、文献だけでは、本当に理解できませんでした。この「陰火」と「相火妄動」の理論は内傷病の治療のポイントであり、金元医学最大の成果だと思います。