赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

弁護士の未来図

2015-06-02 00:00:00 | 政治見解

赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』(26)

弁護士の未来図





司法試験合格者が半減!?

日本の国家試験で、司法試験、国家公務員総合職試験、公認会計士試験を三大国家資格と呼ぶことがあります。この中で、最も難易度が高いといわれている司法試験の合格者数を減らすとの発表がありました。「当面の合格者は1500人程度を下回らないようにすべきだ」というものです。

これにより、当初の司法制度改革【※1】で掲げられた「年間3000人合格」の目標が半減されることになります。この問題は、「法曹人口拡大という改革の理念を守るべき」とした削減反対意見と、「人数が増えると就職難や質の低下を招く」とした削減意見がそれぞれ存在し、なかなか決着がつかなかったものでした。

【※1】旧司法試験制度での合格者数は年間500名前後だった。1999年に行われた司法制度改革は、「質・量ともに豊かな法曹」の養成を目指すものとし、「年間3000人程度の合格者」との目標を決定。2004年以降74校の法科大学院が開校した。だが、実際には、司法試験合格者は毎年2000名前後で推移し、また法科大学院(現在54校)の受験者も大幅に減ってきている。


弁護士は花形の職業ではなくなった

司法試験に合格後は1年間の司法修習を経て、ほとんどの人が弁護士になります。裁判官や検察官の任官のための採用人数が少ないというのも理由の一つにあります【※2】。

【※2】日本弁護士連合会によると、62期司法修習終了者(2008年度)の進路の内訳は、弁護士登録2085名、判事補任官(裁判官)106名、検事任官78名、その他77名となっている。

しかし、実際には、合格者の大半は最初から弁護士志望者です。その動機は「困っている人を助けたい」という正義感の強い人から、単に「高収入に魅力を感じる」という人までさまざまでした。しかし、弁護士が増えた割には訴訟の依頼が少ないため、弁護士への志望者が減少しているようです。高額所得者の代表的存在の一つであった弁護士という職業が急に斜陽産業になってきた感があります【※3】。

【※3】国税庁による個人事業主として働く弁護士の所得の統計によると、2011年の調査で、登録弁護士の8割を超える2万7094人のうち、22%が100万円以下、19%が500万円以下だった。

これも「日本も欧米並みに訴訟数が激増する」という法務省関係者の見込み違いが原因の一つであったと思われます。


既得権を守りたかった日弁連

さて、弁護士の人数が増え「弁護士としての職業が成り立ちにくい」という問題に一番敏感に反応したのが日弁連(日本弁護士連合会)です。毎年300名程度の廃業に対し2000名もの新人が増えることへの危機感を募らせました。

その急先鋒となり「司法試験合格者数を1500名に絞る」と提案し会長選挙に当選したのが、日本共産党に近い宇都宮健児氏【※4】でした。弁護士としての「既得権」を真っ先に守ろうとしたのが左派系の弁護士であったことに注目すべきです。

【※4】宇都宮氏は、司法試験合格者に関して、「司法試験合格者数1500人をめざし、さらに1000人決議をしている単位会の意向を尊重して対処する。」との公約で再選挙によって当選を果たし、合格者削減目標数を明示できなかった山本候補は落選した。

また、同氏は、2014年、東京都知事選挙に出馬した。そのときの主張は「軍国化を強める安倍政権の暴走を、都政を通じてストップをかけなければいけない」であった。


この事例は、左派に属する弁護士が、表向きは社会正義の実現を主張するのですが、かれらの本音は「高収入を得るためのもの」ということを浮き彫りにしたものだと思います。筆者は社会正義のために困っている人を助けている弁護士を存じ上げておりますので、かれらとの精神性の違いに驚きを隠せません。


日弁連の内

また、一般的に見ると日弁連は左派系の弁護士に牛耳られているように見えます。とくに日弁連の「声明」には首を傾げたくなるようなものが多々あります。ただし、これは日弁連の組織的な構造に起因するためで、必ずしも弁護士の総意ではないようです【※5】。

【※5】日弁連の意見は、専門分野に分かれた各委員会(人権擁護委員会、消費者委員会、両性の平等委員会など)で作成された案を会長声明としとは発表する。日弁連の委員会は、各単位弁護士会(都道府県の弁護士会)の委員会の活動で実績を残した人が入ることになっているので、その分野に思い入れのない弁護士が日弁連の委員会に入ることはない。また、委員会活動は基本的に報酬がない。そのため、各委員会には、基本的に同じ方向での信条をもつ弁護士しか集まらず、そこで作成される会長声明案も各委員会の思想に基づくものが出されることになる。反対の意見をもつ弁護士がいてもその意見は反映されない。

弁護士に左派系の人が多い理由は、学生時代に左翼運動に傾倒し、国家公務員になれず、法曹界に進まざるをえなかったという事情があるようです。逮捕歴等があれば国家公務員にはなれませんので、60年代、70年代の学生運動の闘士が弁護士に転身し、その延長線上で左派の活動を続けたり、政治家に転身しています。

しかし、弁護士の人数が大幅に増えたことにより、現在の日弁連の体質は、以前よりは左派色は薄まっているようです。


弁護士の未来図は

社会に争いごとが無く、訴訟など必要ない状態が理想です。論語にいう「心の欲する所に従って矩(のり)をこえず」(自分の心に思う事をそのまま行なっても、道徳の規範から外れることはない)という状態です。自由にふるまっても道徳の規範をこえないわけですから、当然、法律も必要としません。

このような社会になってほしいのですが、そこには一足飛びには行けません。現在でも、法律によって規制を設けなければならない状態が存在しています。まして、世界には、「法の秩序」にすら従おうとしない存在も少なからずありますから、最低限、まずは法を守るという社会を築いて、秩序をつくっていかなければなりません。そう考えますと、まだまだ弁護士や法曹に携わる職業も必要となります。

現在は、ネットが普及して、法律知識はネットでも簡単に得られるようになり、弁護士事務所に行って相談するという手間も次第に省けるようになりました。なかには、弁護士は法律的な事務手続きをしているだけで、依頼者の悩みや苦しみを解決する立場にはないという人もおります。単に法律的事務だけであれば弁護士という職業から淘汰されてもよいと思います。

これからの時代、「人の最も大切な心の価値を守り、人びとの苦しみを救う存在」として弁護士という職業があるのなら、むしろ、その職業は高く評価されるべきと思います。

さらに言及すれば、グローバルな社会が形成され始めていますが、その分、文化や習慣の相違からさまざまな摩擦が生じてきます。原因は多様性を認め合わず排除しようとするからです。そうした「立場や考えの相違」の調整にも高い認識力と広い国際的な視野を持った弁護士の存在が重要となってくるはずです。

日本には国際派弁護士はまだまだ少ないように思います。これから日本が国際社会で大きく影響力を持ち始める時代がくると思われますので、より高度な精神性と幅広い認識力を持つ数多くの弁護士の輩出を期待したいと思います。



  お問い合わせ先 akaminekaz@gmail.com 
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