赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

アジアの情勢分析(2) 中国の国際関係分析

2015-06-09 00:00:00 | 政治見解

赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』(28)

アジアの情勢分析(2) 中国の国際関係分析




「中国の軍事動向」に続き、中国の国際関係の分析を行います。
 
中露関係は「偽りの蜜月」

本年(2015)5月ロシアで行われた「対独戦勝70周年記念式典」に中国の習近平主席が出席、「中国とロシアの蜜月ぶりをアピール」と報道されました。また、「8月には中露両国が日本海で合同軍事演習を実施する予定」との報道もなされております。

しかし、これらは「偽りの蜜月」だと感じざるを得ません。アジアで孤立する中国とヨーロッパで孤立するロシアが、国際社会向けの互いに「孤立していない」とのメッセージを発信するためのポーズにすぎないからです。また、天然ガスの売買【※1】を強化したいという双方の思惑も絡んでの儀礼的な友好関係だと思います。

【※1】国家予算の50%近くを石油や天然ガスの輸出に頼るロシアにとって、ウクライナ問題をめぐる欧州のロシア離れは大きな影響が出た。その上、アメリカのシェールガスの登場で天然ガス世界一の地位から滑り落ちた。ロシアにとっては中国が欧州に代わる新たな輸出先である。また、中国にとっては膨大なエネルギーの消費で経済活動を保っている現状である。両者の利害は一致した。

中国とロシアの関係は上手くいっているとはいえません。モンゴルを含めると9000kmのも及ぶ長い国境線を接し、領土問題がくすぶったままです。しかも、中国人(漢民族)によるロシア領への不法侵入(1000万人以上?)やロシアに近接する中央アジア諸国への侵食、さらには1860年の北京条約でロシアに編入されたウラジオストクをめぐる問題等を考慮すると、両国の関係の本質は敵対関係にあると思われます。

ロシアは中央アジアを再びロシアの勢力圏に置き、ソ連時代の版図を取戻したいとの意図があるので、中国が中央アジア諸国に手をつけるのを黙って見過ごすはずはありません。このように、ロシアと中国は中央アジアや沿海州周辺でせめぎあっているのが現状です。


米中関係ーーアメリカの対中観が変わった瞬間

アメリカの中国観には大きく三つのパターンが存在します。第一は民主党やニューヨーク・タイムスに見られる「中国に親近感を持つリベラル派」、第二は「ビジネスの相手として中国を重んずる実務派」、第三が共和党を中心とする「共産主義中国は断固排除とする反共派」です。

しかし、この三つのパターンは、そのときの大統領の意思やアメリカの経済情勢に大きく左右されます。2008年のリーマン・ショック以降、「経済」を通してアメリカと中国は深く結びついたことがあります。沈み行く世界経済の中で中国だけが世界の工場として経済成長し、莫大なドルを稼いでいた時期です。しかも、中国政府はドルと人民元の固定レートを維持するため、アメリカの国債を大量に買い込んでいました。このため、「中国がアメリカのドル体制を守った」とか、「(米中の)通貨財政同盟が成立した」と囁かれたこともありました。オバマ政権にとって中国は大切な顧客となっていたのです。

ところが、2013年6月の米中首脳会談で米中関係の流れが一気に変わりました。国家主席就任から3ヶ月で訪米した習近平氏の言動がオバマ氏を極めて不機嫌にさせたのです【※2】。首脳会談は二日間8時間にも及ぶ長いものでしたが、「共同声明」が発表されなかったのがそれを物語っています。

【※2】会談の内容は公表されていないが、中国側は「太平洋を東西分割して西側を中国が管理する」、「尖閣を中国が支配する」、「人民元の国際通貨化」などと主張したといわれている。

この日を境に、オバマ氏もそしてアメリカも「親中路線」から「日本重視」に舵を切り替えたと思われます。具体的には、2013年2月、2014年4月、2015年4月の日米首脳会談の際のオバマ氏の態度の変化に見て取れるはずです【※3】。

【※3】2013年2月には「夕食会も出迎えもなし。日米首脳会談で見せ付けられた日本軽視の厳しい現実」という報道がなされていた。このときは、オバマ―習会談の前である。オバマ氏は安倍総理の再登板を冷ややかに見ていた節がある。

2014年4月の首脳会談はきわめてビジネスライクなアメリカの対応ではあったが、「日米安全保障条約第5条は、尖閣諸島を含む日本の施政下、全領域に適用される」と宣言し、中国を牽制した。

2015年4月の首脳会談は日米関係が「和解の力を示す模範となっている」と強調し、日米を「不動の同盟国」と位置づける共同声明を発表した。アメリカにとって日本は最も信頼される大事な国と表明されたことになる。





緊張の米中関係 

本年(2015)5月末発表の中国の国防白書では,「中国が戦争行為にまでは至らない準軍事行動の準備にも取り組む方針」を打ち出しています。

一方、アメリカは、中国は習体制には入ってから古い秘密主義に後戻りをした「民主主義の敵」と認識し始めています。実際、アメリカ国内でも対中投資は冷え込み、中国に進出した企業も引き上げをはじめているともいわれています。

また、中国の資産家や政府要人は妻子や財産をアメリカなどに移しているので、 それに目をつけたアメリカはIEEPA法【※4】によって、アメリカ及びその同盟国に敵対する国家を対象に、アメリカ国内の資産凍結を可能にしました。すでに、中国人の要人家族を含めての口座が特定され、中国人の資産を一部差し押さえ始めているケースもあるようです。また、中国が大量に購入したアメリカ国債も、アメリカ及びアメリカの同盟国の領土が攻撃を受けた場合には、大統領令によって無効化できるとされています。

【※4】安全保障・外交政策・経済に対する異例かつ重大な脅威に対し、非常事態宣言後、金融制裁にて、その脅威に対処する。具体的には、攻撃を企む外国の組織もしくは外国人の資産没収(米国の司法権の対象となる資産)、外国為替取引・通貨及び有価証券の輸出入の規制・禁止などである。

さらに、中国の南シナ海の埋め立て工事について、国際法上の重大な犯罪行為であるとして、アメリカが強い圧力や制裁に踏み切る準備をしているといわれています。


中台関係

先ごろ台湾が日本の産農産物の輸入規制強化をしましたが、背景には中国の存在があります。台湾の総統馬英九氏は中国の属国になるための準備を始めているといわれています。そのために日本との関係に距離を置き始める必要がありますので、無理して輸入規制などの措置を取り始めているようです。これは、中国に言われたからではなく、自分から進んで中国に良い顔をしていると思われます。

昨年(2014)3月に「海峡両岸サービス貿易協定」に反対する学生が立法院を占拠する事件が発生したことがありました。これが「馬氏による台湾の中国化政策」への抗議活動であったことを思い出せば、現台湾政府の意図も大分見えてくるのではないでしょうか。


日中関係――新しい関係の築き方

中国はAIIB(アジアインフラ投資銀行)に日本が参加することを強く求めています。お金の問題で頼れるのは他の参加国ではなく日本だからです。そのために「日本の発言力を強くしてやるから」とか、何かと良さそうな条件をちらつかせてくるようです。中国がなぜこうも執着するかと言えば、「中国にお金が無いから」の一言に尽きます。

中国の国内経済は危機的な状況です。激しい格差で「暴動による政府の転覆」を極度に恐れています。一部の富裕層を除く国民の大多数は中国政府に大きな不満を持っています。貧乏人が豊かになるチャンスは完全に閉ざされ絶望感を感じているのです。黙って最低の生活に甘んじるよりも政府や役人に反抗することを選択しようとしています。そのため、中国政府は「他国の富を奪い取る」ことで解決しようとしているのです。日本政府はその意図をはっきりと認識しています。

ところで、これからの日本と中国との関係については、お金による支援ではなく、貧しい人々を対象とする技術支援などで生活の質を向上させることが大切だと思います。お金をばらまくだけで経済援助が成功したケースは一つもありません。同時に、人としての最も根幹部分である「愛情」や「思いやり」、「人を信じる心」などを教えてあげることも重要だと思います。経済支援としての技術支援とパッケージで心のあり方を教えることが大切なことだと感じています。この考え方を日中双方が共有したときに、真実の日中友好ができるのではないかと思います。


中国は国際社会との調和を目指すべき

中国にいま一番必要なことは、国民の人権や生命が尊重され、国民が等しく経済的な豊かさを享受できるような国づくりです。これを放置したままでは国際社会の信頼を得ることはありません。「平等な社会」、「格差のない社会」を実現した上で、国際社会と係わり合いをもつことが何よりも大切だと思います。

そのためには、中国政府も国民も、お金や支配欲に価値を置く考えから、人間としての本質である愛情や、人に対する優しい思いを持つことの大切さを、もう一度思い出してほしいと思います。そのような心が伴ってこそ、世界をリードする大国になるのだということを理解していただきたいと思います。

それが大国としての世界の国々から尊敬される姿です。この姿勢こそ中国を存続させる唯一の道にほかならないと思います。



韓国、北朝鮮については、次回の「朝鮮半島の情勢」のなかで述べます。


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