ごじゃ満開

いすみ市内外の隠れた情報と
ちょっとしたエッセイ。

何も聞こえない

2014-01-21 17:25:52 | Weblog
造船所からの依頼で
釣船の改修と
船体の全塗装に併せて
船名の文字入れ。

この地域ならではの
お仕事だ。

今日の午前中。

風もなく
穏やかな日和の
御宿町岩和田漁港。

陸に揚げられた船は
ガリバーの如く
ロープで固定。

キャビンでは
無線機屋さんと
船主であろう人物が
大声で「あ~だこ~だ」
とレーダーの取付作業。

デッキでは
船大工さんが
FRPを削る。

宙を舞うは
ウミネコと
FRPの白い粉。

漁港らしい
情景のひとつ。

船の傍へ行くなり、
船主であろう人物から
声をかけられた。

(主)「船名屋さん?」

そんな専門職なかろう。

(俺)「え?あ、はい」

文字入れの位置を
おおまかに確認。

いざ施工。

船体は、
曲線の集大成。

そこに
曲がって見えないよう
文字を入れる。

船尾は
一見まっすぐなようで
そうではない。

中央部が微妙に上がる
非常にゆるやかな
弧を描く。

船体の横は
逆に下方へ
ゆるやかな弧を描く。

船首は
先端に向かうほど
鋭角にえぐれる。

船首の船名、
仮に『御宿丸』として
左舷はそのまま
『御宿丸』、
右舷は右から読む
『丸宿御』。

このように
船首側から読めるよう
文字を入れる。

一見、
左右対称なようで
そうでない。

本来、
左右対称とは
鏡に映るように
反転したものだ。

正面から見ると
右舷左舷ともに
船名が見える。

どれもこれも
バランスよく
仕上ねばならない。

どこを基点に
スミ出しするか。

それは、
“メケントウ”である。

船尾から仕上げ、
左舷を仕上げ、
左舷を基準に
右舷を仕上る。

作業中、
波の音どころか、
ウミネコの鳴声も、
キャビンの大声も
FRPを削る
サンダーの音さえも
全く聞こえぬほど
ヤシヤシ集中。

とはいえ、
昔々は手書きだったが、
今はほとんどが
粘着フィルムの切文字。

作業効率は良い。

すぐそばの
広報無線から
“月の砂漠”の
メロディーが流れた頃、
作業完了。

(俺)「おし!いっぺや!」



船主に
仕上りの確認。

っと思いきや、
誰もいない。

早昼らしい。

ウミネコも
いなかった。

何も聞こえないワケだ。



正午すぎ、
静寂の漁港。

軽トラのセルだけが
高らかに啼く。

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