心にうつりゆくよしなしごと / 小嶋基弘建築アトリエ

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柱の立て方

2005年06月26日 | うんちく・小ネタ

今回は木造住宅の柱が、どのように立っているかをご紹介します。

現在の木造は建築基準法施行令第42条により、原則として柱は土台の上に立てます。”ほぞ”と呼ばれる柱の柱脚側に凸、土台側に凹状の加工をして接合させる技法で、『ほぞ立て』といいます。それと異なり、土台を介して立柱させるのではなく、直接基礎から立柱させる『木口立て(こぐちだて)』と呼ばれる伝統技法があります。建築基準法制定以前は、現在と逆の、『木口立て』の方が主流でした。

画像は柱下部を撮影したものです。凸状の突起がある方が『ほぞ立て』、木の年輪が見えていて(この面を木口・こぐち、と言う)、木口に複雑な加工形状(落とし蟻、という技法)が見られる方が『木口立て』の柱です。住宅ではいずれも地盤面に垂直に立てますが、社寺建築等では『転び(ころび)』といって、垂直に立てない技法もあります。



では、『ほぞ立て』と『木口立て』では何が異なるのでしょうか?

① 施工のスピード
② 構造強度
③ 耐久性
④ 用途  等々が挙げられます。


建築基準法の制定でそれまでの工法を覆して新工法を採用したのには、住宅の品質の向上と標準化を理論的な構造解析を伴ってなし得るようなシステム化の構築と、大量生産を見据えた木造住宅の供給方法の反映が大命題であった為ではないかと、私は思っています。柱一本にしても、なにしろ実際の大工仕事では圧倒的に『ほぞ立て』の方が簡単。それに早い。

例えば伝統建築である国宝彦根城が『ほぞ立て』を採用したのにはやはりそれなりの理由があって、戦国時代という戦時中には圧倒的スピードで工事を進めなければならなかった事情を考慮すると、それが伺えるように思うのです。

コンクリートの無かった当時、一律に水平面が出にくい礎石を据えてその上に『木口立て』させるにはあまりにも時間が掛かり過ぎる。例え構造強度の点で『木口立て』に劣っていたとしても、軍事基地の構築を目的にした城郭建築では『ほぞ立て』が多いと聞きます。

その構造強度では軸力を主体とした垂直荷重よりも、最下階の軸組みの水平構面の剛性向上の方に重きが置かれたように思います。

それはかつてというか今でも、大地震の度ごとに倒壊してしまう木造一般住宅の耐震性能向上には、『燧(ひうち・いわゆる”火打ち”と現在言う斜め材)』を土台と梁に入れることが重要との判断が当時あったためなのでしょう。(現在は構造用合板による水平剛性の向上の方が性能的に高い数値が出ることが立証されて、一般化されています。)

木造住宅の柱の軸力は、木の”軽くて強度がある”性質ゆえにそれほど大きなものではありません。3階建てでも長期で最大4~5トン(40~50キロニュートン)位かな。この場合、実は柱の軸力つまり柱の樹種や太さよりも、土台側の木材の”めり込み”で構造計算上NGになるケースがほとんどです。

構造計算を経験していない技術者はこのメカニズムを理解していない(日本建築学会・木質構造設計基準を勉強していない)ので、巨大な大黒柱を直接土台の上に立てる設計を建築基準法だけにならってする訳です。結果、安全性が損なわれ、不同沈下による建具の開閉等の不具合等が発生してしまうのです。建築基準法って実は最低限を定めたものであって、これを守れば百点満点というものではないのですよ。

しかしながら、木材は繊維と直交方向の圧縮による破壊は脆性的性状は示さないし(一気にバキッと破壊しない)、少量のめり込みを生じても差し支えの無い建物(住宅がそうであるかどうかは建築主の最終判断)ではめり込みの許容応力度を1,5倍までなら割増して良いということなので、(ただし、土台の受圧面が”追いまさ”の木目ならば、2/3の値にしなければならないとか、材端では針葉樹0.8広葉樹0.75とかの調整係数とかがあって、そんなの、木目なんて土台を手で加工している大工しか分かりませんよ…)事無きを得ているといった気がします。

ちなみに長期許容応力度はヒノキだと圧縮が70㎏/c㎡(7N/m㎡)、めり込みが25㎏/c㎡(2.5N/m㎡)です。つまり、小径12cm×12cm、ほぞを3cm×9cm、蟻を根元で3.6cm末で5.2cm長さ2.7cmで2箇所で大入れなし、柱・土台ヒノキの場合、

『ほぞ立て』  P=1.5×25×(12×12-3×9)≒4387kg(≒43KN)
『木口立て』  P=70×[12×12-{(3.6+5.2)×2.7×1/2}×2]≒8416kg(≒84KN)

の数値が計算で出て来る訳です。強度は『木口立て』の方が圧倒的にありますね。
しかも『ほぞ立て』でめり込みを考慮せず、土台に追いまさを使用してしまうと

        P=2/3×25×(12×12-3×9)=1950kg(≒20KN)

しか強度が出ないことになります。

同じ木材でも、これだけ使い方で性能値が違うのだから、しっかり適材適所とそれに見合った技法を見極めて、使い方を誤らないようにしないといけませんね。 間取りを考えることだけが設計ではないのですよ。  

ちなみに大工仕事で『木口立て』柱を足固め材で固めるのはこれまた大変な仕事でして、土台が廻っていればここに斜め材を施工するのはいとも簡単。その辺の事情が構造強度の背景にあるように思います。

耐久性は樹種と、赤身・白太と、水と乾燥が大きく影響します。木材を腐らせようとする菌は除菌エアコンを床下で使えば減るかもしれないけど(多分こういう電化製品既にあるかも…。既に改正建築基準法で義務付けられた24時間換気設備搭載のエアコンがラインアップされてる)、ちょっと笑ってしまう使い方だしなぁ…。

地面より出来るだけ高い位置の方が雨や湿気には有利です。その点ではベタ基礎や防湿コンクリートの施工が一般的になっている程現在の一般住宅のクオリティは格段に向上しています。

ただ、洋風調の軒の出が少ない屋根のデザインは耐久性の観点からは伝統建築に劣っています。玄関のポーチ柱によく見られるのですが、直接土間から立ち上げるとすぐに腐食してしまうので、ステンレス製の柱脚金物を履かせて少し土間から浮かせて施工している例からも、乱暴にある要素だけを取り上げて優劣を判断するのは危険。あくまで、システムというか組み合わせというか、バランスが大切です。もちろん、土台を同様に土間に直接据えて雨にさらせばすぐに腐るのは柱と同じです。

単に木組みの違いというだけでなく、構法・工法まで踏み込んでベストバランスを見極めていいモノを作っていきたいですね。プロとして。
私は四十一級建築士です(笑)

 

『木口立て(こぐちだて)』は、『石場建て(いしばたて)』と言われているものです。

 

 


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