岩木山を考える会 事務局日誌 

事務局長三浦章男の事務局日誌やイベントの案内、意見・記録の投稿

公園のサクラ (その五)

2007-04-28 04:54:18 | Weblog
公園のサクラ (その五)

 今日は日本を代表する二種類の桜、「ソメイヨシノ」「ヤマザクラ」の特徴から書くことにする。

染井吉野「ソメイヨシノ」の特徴
 霞かと見まがうばかりに、まさに春爛漫と咲く。花の数が多く、しかも若葉の前に花をつけ、若葉なしに満開を迎えるから、花一色になる。一つ一つの花も大きく立派である。
木の成長も速く、十年もしないうちに花を咲かせる。増殖は挿し木、接ぎ木ですむ。
 花の寿命は短い。受粉・結実しないので命を惜しまず一気に散り果て、その散り方は絢爛たる花吹雪となる。
 私はその散り方の潔さに感心するが、一方で「死に急ぐ花」に「凄惨」さと哀れさを感ずる。

山桜「ヤマザクラ」の特徴
 清楚であるが、凛とした華やかさも備えている。ある人は「源氏物語の紫の上に通ずる気品を備えている」と言う。
花の色は白いが淡い。昔はその淡い色を「桜色」といった。葉と花がほとんど同時に出て開き、幼葉は赤みがかっている。その葉の色と花の色との対比が美しい。
 花の寿命は長い。実を残さなければならない山桜は、花の「命」を惜しむ。
散り方はのどかで、「自分の命を惜しむ」ように散るので、見る人に「惜しまれながら散る」花といっていい。
 私には万葉の時代や古今集の世界で詠じられた「花:桜(さくら)」には古人の「散るを惜しむ」という心情があふれているように思える。

 さて、サクラ王国日本だが、日本で一番早く咲く桜は、沖縄県石垣島のヒカンザクラで一月上旬、桜前線はここからスタートする。そして、桜前線は半年以上かけて日本列島を北に向かって移動する。
 ところで、日本で一番遅い花見が行なわれる場所は、北海道東川町旭岳温泉で標高1200mほどの場所に千島桜があるのだそうだ。
「桜前線は半年以上かけて日本列島を移動する」とされているが、これはあくまでも「平地」の場合である。「高地」である山岳地帯に咲く「高嶺桜・別名ミネザクラ」は残雪の消え方次第で、7月まで咲いている。岩木山の場合は遅ければ八月上旬でも咲いていることがある。これは寒冷地の雪や風に耐えるため成長してもあまり背が高くならない。

 次に「陸奥新報」に約3年間掲載した「岩木山の花々」の中から、「ミネザクラ」についての記載を紹介しよう。

ミネザクラ、それは「厳しい自然に与する恬淡と忍従の美」。
          
『 平安の昔から、いにしえ人は桜をひと言の「花」と呼んでいた。それほど桜への思いが強かったのだろう。他はたとえば、橘の花という呼び方をしていたようだ。
 いにしえ人の常識からすれば、このシリーズも「岩木山の花々」でよかったのだ。もしも「岩木山の花」であれば、ミネザクラとヤマザクラ程度で終わらなければいけなかったかも知れないからである。

 6月中旬、岩鬼山の北西にある雪田を辿り、赤倉御殿の祠には寄らないで赤倉尾根の残雪帯に降り立った。尾根の南面には残雪が長く延びていた。平行して濃い緑のコメツガ(米栂)が連なる。
 ふと、左前方に淡い黄緑と桃色の華やぎが浮かんだ。会えることは解っていたのだが探していた。駆け降りてじっくりと眺める。

 濃い緑、苔むす木肌、黒灰色の幹のコメツガに囲まれたミネザクラは見事だ。
 そこだけが特に暖かく、すがすがしい香りを漂わせている。息をしている。心が躍った。花の一輪に葉の一枚に個性が感じられた。場所を考え、ひねこびた幹を見た時、私はそこに厳しい自然に与(くみ)する長い忍従の生い立ちを発見した。

 和辻哲郎は、日本人の気質を桜の花の「急激に慌ただしく、華やかに咲きそろうが、執拗に咲き続けるのではない。慌ただしく恬淡(てんたん)に散り去る」ことで象徴した。 里の桜(ソメイヨシノ)は確かにそうである。桜の咲く頃は天気が短い周期で変化する。花冷えや花曇りという寒、晴れた日の暖、さらに低気圧の接近に伴い強風も吹く。里の桜はこの天気にしたがい、一斉に咲いては忙しく散っていく。

 山の桜は標高と積雪の融け具合で、咲いたり散ったりする時期が微妙にずれていく。そして、それを順次継続していくから、里の桜とは違って、けっこう執拗な花と言える。』

 今日から「大型連休」が始まった。天気予報によると、この連休中は日本列島を高気圧と低気圧が交互に通過するらしく、暖かい日、寒い日、風の強い日とお天気は短い周期で変化するようだ。
 公園のサクラもあと数日で「満開」となり、そして強風とともに慌ただしく散っていくだろう。