(今日の写真は白神山地に足繁く通い、「白神山地の生き字引」ではないかと私が思っているYさんが写したものだ。1月に開催した本会の写真展「私の岩木山」に出展して貰い、その時口頭で「これこれしかじかの花に会ったんだけど、私はダイモンジソウだと思うが、今ひとつ、同定出来ないでいる。メールで写真を送るので詳しく調べてくれないか」という主旨のことを頼まれていた。
そして過日、Yさんから「今日の写真」が次のメールと一緒に送られてきた。
『岩木山の写真展に写真を出させてもらいまして有り難う御座いました。その時にお話をした、「ダイモンジソウ」と思われる写真をお送りします、私はどうしても普通のダイモンジソウと思われないので、三浦先生に見てもらいたいと思います。撮影は7月24日、標高500m位の沢の中で日あたりが良い所です。宜しく御願い致します』
私は単なる「岩木山という山に登ることが好きなだけ」の人間である。このような私に対する、この「質問」は「難題」である。
私は植物とは無縁の一介の高校の国語教員であった。私には「専門」などという仰々しいものはない。大学の卒業論文は「平安古典に見られる女子教育思想」というはなはだ文系的なものであった。そして、高校で三十七年間、国語を教えてきた教員に過ぎない。
だから、理系とはまったく無縁で、生物学の植物・植生、動物、昆虫などとは少しも関わりのない生活をしてきた。このように植物的な専門性や知識がない者にとっては「畑違い」で、「とんでもなく学問的」な質問であった。
だが、断る勇気もないままに、ここは「ド素人のバカ勇気」と決め込んであれこれと考えてみた。
私の結論であるが、これは「ダイモンジソウ」の仲間ではあるが、「ダイモンジソウ」ではない。同じ「ユキノシタ科」だが、「ダイモンジソウ」ではないということだ。
「ユキノシタ科」は北半球の温帯から寒帯の、主に山地に300種ほどあり、日本にも16種ほどが分布しているという。これは次のように区別される。
「左右相称で下の2弁が長いグループ ユキノシタのグループ」
「放射総称(星形)に花が咲くグループ シコタンソウ」
そして、「ユキノシタのグループ」は「ユキノシタ」「ダイモンジソウ」「ジンジソウ」「クロクモソウ」などに分かれる。
『「花」は、 5 弁で下の 2 枚が白く大きく、上の 3 枚は薄紅色で濃い赤紫の点がある。長い雄しべが目立つ。「葉」にはうぶ毛が生えている。』というのが一般的な「ダイモンジソウ」の説明である。今日の写真を見るとそのように見えなくもない。
「ダイモンジソウ」の花名の由来は、5枚の花弁が「大の字」に見えることによる。
「ダイモンジソウ」の仲間は、北は北海道から南は九州まで日本各地に幅広く分布し、その多くは山地帯から亜高山付近の湿った川沿いの岩場や草原に映える多年草だ。だから、「白神山地」に生えていても別におかしくはない。
そして、かなりの変種が日本にはあるので、その中の一つかなと最初は思った。
だが、それらは例えば、「屋久島大文字草」のように、それぞれがその「地方の特産種」であったり、「裏紅大文字草」のように「石灰岩地帯に特産する葉の裏が紅色である」などと「地質が特定」されていたり、「白神山地」という地名とは無縁であった。
…決め手は開花の時期と葉の形だ。…
これは、本州、四国、九州の山地に生えるユキノシタ科ユキノシタ属の常緑多年草の「ユキノシタ(雪の下)」だろう。湿った半日陰地の岩場などに自生する植物である。やや湿った場所でよく生育し、日陰にもよく耐える。昔は人里の「井戸のほとり」によく生えていたものである。
葉は「円腎形」で葉の表面には葉脈に沿った模様がある。葉の裏面は紫色を帯びており、特に若葉で鮮やかな紫色となる。だが、変異が多い。人里では「5月から6月にかけて」花茎を伸ばして多数の花を咲かせる。
山地における開花時期は、晩春(5月中旬)~初夏(7月上旬)であるから、Yさんの言う「撮影は7月24日、標高500m位の沢の中」とは場所も含めて合致しているだろう。因みに「ダイモンジソウ」は秋の花である。岩木山の「ミヤマダイモンジソウ」は9月から10月にかけて咲く。夏7月に咲き出すことはあり得ない。
葉の形であるが、ダイモンジソウの葉には「切れ込み」がある。中には「カエデ」の葉に似たようなものまである。この写真では「よく分からない」が、少なくとも「深い切れ込み」はなく、「扁平」に近い団扇型であるように見える。それに、「白い」葉脈も浮き出ているように見える。「ユキノシタ」の葉を特徴付ける「葉の表には葉脈に沿って白い斑」があるようにも見えるのだ。
花名の由来には、諸説がある。「雪のような白い花を被って、その下層に緑の葉を広げることによる」とか『白い舌状の花の形から「雪の舌」、それが転訛して「雪の下」となった』との説もある。漢名は「まだらで毛のある葉にちなんで「虎耳草」という。
また、葉には「薬効」があり、怪我をしたらこの葉を火にあぶって患部や傷口に貼ると効き目があるとされて、昔から、もんだ葉は、火傷などの貼り薬、絞り汁は中耳炎やひきつけの薬として重宝されていたようである。
ただ、これは北海道の「アポイ岳」に生えている「ダイモンジソウ」と似ている点が気になっている。「アポイ岳」の「ダイモンジソウの葉」は「長い柄を持ち、根元からまとまって出て、腎円形で基部は心形、掌状に7~12に浅く裂ける」のである。この部分だけは、今日の写真のものと非常に似ている。しかし、「ユキノシタ」は北海道にはないことになっているので余り気にしなくてもいいかも知れない。
「ユキノシタ」には「園芸種」が多い。それは、自然界でも「変異」や「変種」が多いということだ。
そして過日、Yさんから「今日の写真」が次のメールと一緒に送られてきた。
『岩木山の写真展に写真を出させてもらいまして有り難う御座いました。その時にお話をした、「ダイモンジソウ」と思われる写真をお送りします、私はどうしても普通のダイモンジソウと思われないので、三浦先生に見てもらいたいと思います。撮影は7月24日、標高500m位の沢の中で日あたりが良い所です。宜しく御願い致します』
私は単なる「岩木山という山に登ることが好きなだけ」の人間である。このような私に対する、この「質問」は「難題」である。
私は植物とは無縁の一介の高校の国語教員であった。私には「専門」などという仰々しいものはない。大学の卒業論文は「平安古典に見られる女子教育思想」というはなはだ文系的なものであった。そして、高校で三十七年間、国語を教えてきた教員に過ぎない。
だから、理系とはまったく無縁で、生物学の植物・植生、動物、昆虫などとは少しも関わりのない生活をしてきた。このように植物的な専門性や知識がない者にとっては「畑違い」で、「とんでもなく学問的」な質問であった。
だが、断る勇気もないままに、ここは「ド素人のバカ勇気」と決め込んであれこれと考えてみた。
私の結論であるが、これは「ダイモンジソウ」の仲間ではあるが、「ダイモンジソウ」ではない。同じ「ユキノシタ科」だが、「ダイモンジソウ」ではないということだ。
「ユキノシタ科」は北半球の温帯から寒帯の、主に山地に300種ほどあり、日本にも16種ほどが分布しているという。これは次のように区別される。
「左右相称で下の2弁が長いグループ ユキノシタのグループ」
「放射総称(星形)に花が咲くグループ シコタンソウ」
そして、「ユキノシタのグループ」は「ユキノシタ」「ダイモンジソウ」「ジンジソウ」「クロクモソウ」などに分かれる。
『「花」は、 5 弁で下の 2 枚が白く大きく、上の 3 枚は薄紅色で濃い赤紫の点がある。長い雄しべが目立つ。「葉」にはうぶ毛が生えている。』というのが一般的な「ダイモンジソウ」の説明である。今日の写真を見るとそのように見えなくもない。
「ダイモンジソウ」の花名の由来は、5枚の花弁が「大の字」に見えることによる。
「ダイモンジソウ」の仲間は、北は北海道から南は九州まで日本各地に幅広く分布し、その多くは山地帯から亜高山付近の湿った川沿いの岩場や草原に映える多年草だ。だから、「白神山地」に生えていても別におかしくはない。
そして、かなりの変種が日本にはあるので、その中の一つかなと最初は思った。
だが、それらは例えば、「屋久島大文字草」のように、それぞれがその「地方の特産種」であったり、「裏紅大文字草」のように「石灰岩地帯に特産する葉の裏が紅色である」などと「地質が特定」されていたり、「白神山地」という地名とは無縁であった。
…決め手は開花の時期と葉の形だ。…
これは、本州、四国、九州の山地に生えるユキノシタ科ユキノシタ属の常緑多年草の「ユキノシタ(雪の下)」だろう。湿った半日陰地の岩場などに自生する植物である。やや湿った場所でよく生育し、日陰にもよく耐える。昔は人里の「井戸のほとり」によく生えていたものである。
葉は「円腎形」で葉の表面には葉脈に沿った模様がある。葉の裏面は紫色を帯びており、特に若葉で鮮やかな紫色となる。だが、変異が多い。人里では「5月から6月にかけて」花茎を伸ばして多数の花を咲かせる。
山地における開花時期は、晩春(5月中旬)~初夏(7月上旬)であるから、Yさんの言う「撮影は7月24日、標高500m位の沢の中」とは場所も含めて合致しているだろう。因みに「ダイモンジソウ」は秋の花である。岩木山の「ミヤマダイモンジソウ」は9月から10月にかけて咲く。夏7月に咲き出すことはあり得ない。
葉の形であるが、ダイモンジソウの葉には「切れ込み」がある。中には「カエデ」の葉に似たようなものまである。この写真では「よく分からない」が、少なくとも「深い切れ込み」はなく、「扁平」に近い団扇型であるように見える。それに、「白い」葉脈も浮き出ているように見える。「ユキノシタ」の葉を特徴付ける「葉の表には葉脈に沿って白い斑」があるようにも見えるのだ。
花名の由来には、諸説がある。「雪のような白い花を被って、その下層に緑の葉を広げることによる」とか『白い舌状の花の形から「雪の舌」、それが転訛して「雪の下」となった』との説もある。漢名は「まだらで毛のある葉にちなんで「虎耳草」という。
また、葉には「薬効」があり、怪我をしたらこの葉を火にあぶって患部や傷口に貼ると効き目があるとされて、昔から、もんだ葉は、火傷などの貼り薬、絞り汁は中耳炎やひきつけの薬として重宝されていたようである。
ただ、これは北海道の「アポイ岳」に生えている「ダイモンジソウ」と似ている点が気になっている。「アポイ岳」の「ダイモンジソウの葉」は「長い柄を持ち、根元からまとまって出て、腎円形で基部は心形、掌状に7~12に浅く裂ける」のである。この部分だけは、今日の写真のものと非常に似ている。しかし、「ユキノシタ」は北海道にはないことになっているので余り気にしなくてもいいかも知れない。
「ユキノシタ」には「園芸種」が多い。それは、自然界でも「変異」や「変種」が多いということだ。