(今日の写真は今月10日に岩木山の砂礫地で写したものだ。ここには3種類の植物が写っている。
写真上端の左側が北海道と本州(東北、関東、中部)の高山・亜高山に生えて、岩木山では6月頃に黄金色の梅のような花をつけるバラ科キジムシロ属の「ミヤマキンバイ(深山金梅)」である。
その右側が北海道、本州(中部地方以北)の亜高山~高山帯の草地や湿原に生えるセリ科シラネニンジン属の「シラネニンジン(白根人参)」である。7~8月に直径2~3mmの白色の花を多数つける。
この白い花をつけるセリ科の花には、イブキゼリモドキやミヤマセンキュウなど仲間が多く、見分けが難しい。DNAで判定しなければ出来ないとまで言う人がいるくらいなのだ。だが、シラネニンジンは、葉が根際にまとまってつくことで、なんとか同定できるのである。
さて、この深緑の2種類の下、写真中央に点在しているこの「白っぽい緑色の草」は何だろう。)
今月17日に、五所川原市で開かれた青森県民カレッジ講座「岩木山の自然とイヌワシ」の中で、岩木山の自然を護るためには、「岩木山から植物を持ち出さないこと、そして持ち込まないこと」が大切だとして「ヒメアカバナ(姫赤花)」とこの「白っぽい緑色の草」のことを例にあげて話しをした。
「ヒメアカバナ(姫赤花)」は持ち出されて、それが八甲田山で生育しているし、この「白っぽい緑色の草」は本来岩木山には生育していないものなのだが、先年何者かによって持ち込まれたものなのである。
私は県民カレッジ受講者に対して「持ち込まれたものは抜き取り除去をしている」ことを話した。
実際、この「白っぽい緑色の草」はこの写真が撮影されてから「抜き取り除去」されたのである。これは「コマクサ」の若い葉と茎である。
数年来続けているのだが、今年は7月17日に先ず生育調査を県自然保護課と本会で実施した。
その調査結果は…
○ 昨年抜き取り除去した跡地およびその周辺で多数の幼苗の発生が確認された。
・30X70cmくらいの広がりの中に、全部で約80個体の幼苗が確認された。
・離れた場所にも点々と幼苗が見られ、最も遠いものは、跡地から約2m離れていた。
今年生えた幼苗
・幼苗は当年生の実生がほとんどで、2~3年生のものは6個体あった。
・今回見られた個体は花を付けていないので、種子が生産されることはない。
○ これらの幼苗は、昨年結実した種子から発生したもの(当年生の実生)と、昨年除去しきれなかったもの(2~3年生)があると思われる。
・昨年9月に除去作業したときは既に実を付けていたので、種子がこぼれ落ちていたと思われる。
…であった。
そして、9月10日に…
○ 確認された多数の幼苗は花を付けていないことから、今年は新たに種子が生産されて殖えることはないものの放置して残されるとゆくゆくは増殖のおそれがあるので、葉が目立つうちに早めに抜き取るものとして、自然公園法の許可手続きをしてから自然保護課と本会で2~3年生を20本、幼苗を20本を抜き取り作業を行い除去したのである。
以上のようなことを話したら、受講者から次のように言われたのである。
『私はすでに先生の花の本を購入して読んでいます。花に対してあれほどまで慈しむ気持ちのある人が、どうして、あのように美しく愛らしく咲く「コマクサ」を抜き取れるのですか。』…
これには参ってしまった。「自然の生態系を保護するには、時には涙を飲んでしなければいけないこともあるのです」と言うのが精一杯だった。
「コマクサ」は高山植物の中でも、何も生育していない厳しい環境の土地に最初に根づく先駆植物といわれている。だから、岩木山の「コマクサ」はこの場所で発芽し根を張ったのだ。
乾燥した軽い火山弾のような礫が敷き詰められているこの場所も、「コマクサ」が根づいて根を張るようになると、それに支えられて、長い年月を経て、養分が豊かになり、「コマクサ」よりも大型の草が生えてくる。これが今日の写真に見えるミヤマキンバイなどだ。
そして、その大型の草の「大きな葉陰」のために、「コマクサ」生きられなくなる。そのような過酷な運命を背負っているものが「先駆植物」なのだ。
この場所は、まさに「先駆植物」である「コマクサ」にぴったりの、痩せて貧栄養の「土地」なのである。
このような「コマクサ」は他にも、こうした厳しい環境の中で生きていくために、幾つかの戦略的な「仕掛け」を持っている。
7月の末に花が終わり、実が熟すと「コマクサ」の「花茎」は枯れる。やがて秋、そして冬の到来、強くて冷たい風が吹き始めると花茎は根元から折れて、風によって砂礫地を転がって行く。転がりながら「種子」を蒔くのだ。
岩木山のこの場所では北西の季節風が吹く。だから、「コマクサ」は、いきおい低い方に運ばれていく。写真の「コマクサ」が、最初に蒔かれた場所よりも下方10mの場所で根づいて花を咲かせたのも、この所為(せい)なのだ。
また、「コマクサ」の葉柄や花茎のかなりの部分は砂礫に埋まっている。地上の花からは想像も出来ないほど長くて丈夫な根が地中深くにもぐっていて、地下部は地上部の5倍以上の長さに達しているものもあるくらいだ。この根も細くてしなやかなのである。
しかも、その根を横方向に束ねるように張り、そこに溜まる水分や養分を吸収している。このようにして乏しい水分や養分を確保しながら、一方では、凍結と融解を繰り返し「動く構造土」(砂礫は崩れやすいということ)といわれる場所での生育に耐えている。だから、「コマクサ」は、砂礫が崩れ、流されても生きていけるのである。
というわけだから、「コマクサ」の「抜き取り除去作業」は口で言うほど易しくはない。注意して抜き取っても細かい根は残るのである。「残ったもの」はまた来年そこから茎を出す。
本来、弱い植物と言われている「コマクサ」は、いろいろな方法・仕組みを身につけて、他種の植物が生きられない場所で「生きる強さ」を獲得してきたのだ。これを「弱さゆえの強靭」と呼ぶ人さえいる。
写真上端の左側が北海道と本州(東北、関東、中部)の高山・亜高山に生えて、岩木山では6月頃に黄金色の梅のような花をつけるバラ科キジムシロ属の「ミヤマキンバイ(深山金梅)」である。
その右側が北海道、本州(中部地方以北)の亜高山~高山帯の草地や湿原に生えるセリ科シラネニンジン属の「シラネニンジン(白根人参)」である。7~8月に直径2~3mmの白色の花を多数つける。
この白い花をつけるセリ科の花には、イブキゼリモドキやミヤマセンキュウなど仲間が多く、見分けが難しい。DNAで判定しなければ出来ないとまで言う人がいるくらいなのだ。だが、シラネニンジンは、葉が根際にまとまってつくことで、なんとか同定できるのである。
さて、この深緑の2種類の下、写真中央に点在しているこの「白っぽい緑色の草」は何だろう。)
今月17日に、五所川原市で開かれた青森県民カレッジ講座「岩木山の自然とイヌワシ」の中で、岩木山の自然を護るためには、「岩木山から植物を持ち出さないこと、そして持ち込まないこと」が大切だとして「ヒメアカバナ(姫赤花)」とこの「白っぽい緑色の草」のことを例にあげて話しをした。
「ヒメアカバナ(姫赤花)」は持ち出されて、それが八甲田山で生育しているし、この「白っぽい緑色の草」は本来岩木山には生育していないものなのだが、先年何者かによって持ち込まれたものなのである。
私は県民カレッジ受講者に対して「持ち込まれたものは抜き取り除去をしている」ことを話した。
実際、この「白っぽい緑色の草」はこの写真が撮影されてから「抜き取り除去」されたのである。これは「コマクサ」の若い葉と茎である。
数年来続けているのだが、今年は7月17日に先ず生育調査を県自然保護課と本会で実施した。
その調査結果は…
○ 昨年抜き取り除去した跡地およびその周辺で多数の幼苗の発生が確認された。
・30X70cmくらいの広がりの中に、全部で約80個体の幼苗が確認された。
・離れた場所にも点々と幼苗が見られ、最も遠いものは、跡地から約2m離れていた。
今年生えた幼苗
・幼苗は当年生の実生がほとんどで、2~3年生のものは6個体あった。
・今回見られた個体は花を付けていないので、種子が生産されることはない。
○ これらの幼苗は、昨年結実した種子から発生したもの(当年生の実生)と、昨年除去しきれなかったもの(2~3年生)があると思われる。
・昨年9月に除去作業したときは既に実を付けていたので、種子がこぼれ落ちていたと思われる。
…であった。
そして、9月10日に…
○ 確認された多数の幼苗は花を付けていないことから、今年は新たに種子が生産されて殖えることはないものの放置して残されるとゆくゆくは増殖のおそれがあるので、葉が目立つうちに早めに抜き取るものとして、自然公園法の許可手続きをしてから自然保護課と本会で2~3年生を20本、幼苗を20本を抜き取り作業を行い除去したのである。
以上のようなことを話したら、受講者から次のように言われたのである。
『私はすでに先生の花の本を購入して読んでいます。花に対してあれほどまで慈しむ気持ちのある人が、どうして、あのように美しく愛らしく咲く「コマクサ」を抜き取れるのですか。』…
これには参ってしまった。「自然の生態系を保護するには、時には涙を飲んでしなければいけないこともあるのです」と言うのが精一杯だった。
「コマクサ」は高山植物の中でも、何も生育していない厳しい環境の土地に最初に根づく先駆植物といわれている。だから、岩木山の「コマクサ」はこの場所で発芽し根を張ったのだ。
乾燥した軽い火山弾のような礫が敷き詰められているこの場所も、「コマクサ」が根づいて根を張るようになると、それに支えられて、長い年月を経て、養分が豊かになり、「コマクサ」よりも大型の草が生えてくる。これが今日の写真に見えるミヤマキンバイなどだ。
そして、その大型の草の「大きな葉陰」のために、「コマクサ」生きられなくなる。そのような過酷な運命を背負っているものが「先駆植物」なのだ。
この場所は、まさに「先駆植物」である「コマクサ」にぴったりの、痩せて貧栄養の「土地」なのである。
このような「コマクサ」は他にも、こうした厳しい環境の中で生きていくために、幾つかの戦略的な「仕掛け」を持っている。
7月の末に花が終わり、実が熟すと「コマクサ」の「花茎」は枯れる。やがて秋、そして冬の到来、強くて冷たい風が吹き始めると花茎は根元から折れて、風によって砂礫地を転がって行く。転がりながら「種子」を蒔くのだ。
岩木山のこの場所では北西の季節風が吹く。だから、「コマクサ」は、いきおい低い方に運ばれていく。写真の「コマクサ」が、最初に蒔かれた場所よりも下方10mの場所で根づいて花を咲かせたのも、この所為(せい)なのだ。
また、「コマクサ」の葉柄や花茎のかなりの部分は砂礫に埋まっている。地上の花からは想像も出来ないほど長くて丈夫な根が地中深くにもぐっていて、地下部は地上部の5倍以上の長さに達しているものもあるくらいだ。この根も細くてしなやかなのである。
しかも、その根を横方向に束ねるように張り、そこに溜まる水分や養分を吸収している。このようにして乏しい水分や養分を確保しながら、一方では、凍結と融解を繰り返し「動く構造土」(砂礫は崩れやすいということ)といわれる場所での生育に耐えている。だから、「コマクサ」は、砂礫が崩れ、流されても生きていけるのである。
というわけだから、「コマクサ」の「抜き取り除去作業」は口で言うほど易しくはない。注意して抜き取っても細かい根は残るのである。「残ったもの」はまた来年そこから茎を出す。
本来、弱い植物と言われている「コマクサ」は、いろいろな方法・仕組みを身につけて、他種の植物が生きられない場所で「生きる強さ」を獲得してきたのだ。これを「弱さゆえの強靭」と呼ぶ人さえいる。