阿部ブログ

日々思うこと

形式手法、重複除外及び忘却型コンピューティング

2012年07月07日 | 日記

形式手法はバグの少ないソフトウェア開発を行うための数学を基礎とする分野であり、高信頼性が要求される軍事、宇宙航空、社会インフラ関連システムなどで重要視されている手法である。

2009年のSOSP(Symposium on Operating Systems Principles)でオーストラリアのNICTA (National ICT Australia)がOSカーネル(SeL4)の8,700行のコードを形式的検証したことにより話題なった。これはセキュリティ保証要件を規定しているEAL(Evaluation Assurance Level)のLevel6相当の検証を可能にし、今後のソフトウェア開発で形式的検証が使えることを示した。

NICTAは形式的検証の人材確保やベンチャーのOpen Kernel Labsを作るなど活発な活動をしており、今後もその動向に注目。

GEのSmallworldが実装しているロングトランザクション処理の中核技術ではないかと思われる、同一データブロックを共有する重複除外(DeDuplication)技術はメモリとストレージを効率的に利用する環境下では。今後重要度を増すと予想される技術。

メモリ重複除外はすでにVMWware、Xen、KVMなど仮想化ソフトウェアで現時点で利用可能。またトレージではDetaDomainやOcarina Networksのベンチャーが既に存在しており、今後この技術を活用する技術が普及するだろう。既にUSENIX Annual Tech Conf 2005で発表されたSLINKYで重複除外を想定したOS構成法技術が出ている。

忘却型コンピューティング技術は、MITのMartin Rinard教授が提唱するもの。これは2004年のSOSPで発表されFailure Oblivious Computingと呼ばれ大規模な分散処理を可能とする重要な概念であると考えられている。この技術の有効性はエラーを即座に処理せず、処理を中断することなく処理を進めることができ、不正ポインタを利用したセキュリティ攻撃を回避できる。
この概念は Colombia 大学のSoftware Self-healingにも引き継がれている。

注目すべきはSoftware Self-healingを開発していたStelios SidiroglouがMITのMartin Rinard教授の研究室に移籍しているので、忘却型コンピューティング技術の研究開発は更に加速するだろう。

エンタープライズ・システムと意志決定支援

2012年07月06日 | 日記

エンタープライズ・システムとは「人間が効果的に行動するための知識を創造し、情報を効果的に利用するための仕組み」である、と定義したい。

このエンタープライズ・システムと現在のデータ処理を中心とする業務システムとは異なる。
即ち、データ処理技術はハードウエアとソフトウエアシステムの個々の構成部を扱うが、エンタープライズ・システムは企業、及びグループ組織の経営及び業務全体を遂行する上で必要なハードウエア、ソフトウエア、人及び技術的手段を含む全体システムであり、より多様な形態の情報を処理するシステムである。

言葉を変えると個別のシステム相互の連携を強化し、システムを全体としてシステム化することによって、相乗効果を発揮させるという「System of Systems」(システムのシステム化)により「人間が効果的に行動するための知識を創造し、情報を効果的に利用するための仕組み」を実現するのが、来るエンタープライズ・システムの将来像ではないのか?

情報処理技術の発達により、情報システムは「分散コンピューティングシステム」へと変遷し、業務組織がネットワークへの依存度を深めている。特に昨今のソーシャルメディアの著しい台頭がそれを促進していると考えている。
ビジネスがNetwork Centricになっているが、今後の趨勢としては、Data Centric へと移行するだろう。その先駆けがBig Dataと呼ばれる様々な取組と具体的な実装展開である。

現代のビジネス最前線においては、情報処理システムを駆使する場合が多いが、最終的な判断と決断は、やはり人に委ねられている。経営者は、この複雑な経済状況とグローバル化する環境において最良の意思決定を相手に先んじて迅速に行い得るためには、多様な素情報を融合処理し、知識化し、環境変化を正確に把握し、意志決定を支援する等のための、広範な情報処理技術が必要である。それらの技術のなかで、相手との間で優劣を支配する緊要な情報処理技術として、情報融合技術と意思決定支援技術が特に重要である。

エンタープライズ・システムにおいても経営者の意思決定を支援するシステムが今後重要性を増すと考えている。その鍵となるのが情報融合システムである。

■情報融合システム
組織と業務の情報化により、各種の情報源から膨大な素情報を入手できるようになりつつある。またそれを目指しているスマートコミュニティなどの取組もなされている。

しかしそれらの素情報は相互に一致せず矛盾する場合が多い。
これらの素情報を、意思決定と指揮統制に使用する統一した共通の情報(知識)に変換する情報融合の作業は、高度に人間的な知的作業である。
しかし、最良の決心と行動発揮の速さが優劣を決する現代のビジネス環境にあって、膨大な量の雑多な素情報を迅速・正確に評価し、判断し、統一した共通の情報に融合し、知識化するには、人間の高度の知的判断活動である情報融合の作業を最大限に支援するシステムが不可欠である。このようなツールがなければ、情報爆発の時代において、人間は相互に矛盾する膨大な素情報に埋もれて立ち往生するだろう。

情報融合は、概念、内容及び表示形式の異なる多様な情報源から送られてくる、整理されていない膨大な量の素情報を混ぜ合わせて処理し、一つの情報に統合統一する。

このような情報融合の作業は、データ形式の情報の融合と、テキスト様式で表現された複雑な情報の融合の両方を含んでいる。したがって情報融合処理のレベルを、融合処理の内容に応じて、低、中、高のレベルに区分する場合が多い。

例えば、高度の情報融合技術の一つとして、同一事象に関する異なる情報源からの異なるテキスト情報を曖昧性に基づいて整合(fuzzy matching)する文字列処理法(string metrics)がある。

変化の激しい経済状況において意志決定者が膨大な量の素情報を迅速に知識に変換できる精緻なソフトウエアが必要とされている。

■データ融合
情報融合の一部分であり、低いレベルの情報融合処理である。データ融合は数個のデータ源からの素データを結合して、新しい素データを作る。データ源は、スマートメーターなどのように同種の場合もあれば、電子光学、音響、パッシブ電子情報等の異種のセンサーの場合もある。例えば異種のセンサーからのデータの融合であるセンサー融合は、多センサーデータ融合とも呼ばれている。

融合されたデータは元のデータ群よりも有効な情報を合成して含んでおり、ユーザーにとって状況を判断するうえで価値のある情報になっている。
鍵となる技術は、相互に矛盾するデータを処理し、整合した結果を見出す技術である。別のデータが新しく加われば融合アルゴリズムは修正される。

データ融合の代表的な技術には、カルマンフィルターと多重仮定相関(Kalman Filter Trackers and Multi-Hypothesis Correlators)がある。
非ガウス(確率方式)の目標モデル(Non-Gaussian (or "probability map") target modeling)と標準カルマンフィルター(Kalman Filters)を一つのアルゴリズムに統合したデータ融合技術が重要である。

それと特に以下のデータ融合技術に注目したい。
・非ガウスデータ融合システム(Non-Gaussian Data Fusion System:NGDFS)
・非ガウス目標位置標定モデリング・(Non-Gaussian Target Location Modeling and Negative Information)を含む準リアルタイムデータ融合(Near Real Time Data Fusion:NRTDF)(グローバル相関エンジン(Formerly Global Correlation Engine:GCE))
・多重仮定相関器(Multi-Hypothesis Correlation:MATCH)

■意志決定支援技術
複雑な状況下における人間の意思決定は人間特有の高度な知的作業である。
このような判断においては、プリプログラム方式(あらかじめ作成しインストールしたプログラムにより情報を処理する方式)のデジタルコンピュータには限界があり、いかにコンピュータ・システム化しても最終的な重要判断は人間に委ねられる。

しかし意思決定の迅速性と妥当性においては、人間が行う状況把握すなわち迅速で最良の意志決定を、可能な範囲で最大限に支援するコンピュータ・システムが必要である。

前述した情報融合により情報を知識化する過程は意思決定支援過程の重要なプロセスであり、意志決定者は情報融合により状況を把握し、複雑に変化するビジネス状況のなかで妥当な決心を迅速に行う必要があるが、この意志決定を支援する技術が重要性を増しており、新たな取り組みが必要である。

ここで言う意思決定支援技術は、統計的な手法を用いて不確かな入力情報を処理する「不確実な推論」である。
「不確実な推論」に用いる技術は、誤りや不確実性を処理する分析技法(Bayesian Analysis)、意志決定において根拠と妥当性の追求に不確実性を取り込む一般的な手法(Dempster Shafer)、不確実な複合する入力から正確な知識を取り出すSaaty の分析的階層的手法、異なる基準に基づく複数の代替え手段の有効性をランク付けするモデル(WeightedMoment Model)などがある。

企業経営においては、流動する複雑な事態における状況把握、市場の調査・開拓、経済動向の予想には、不確かな入力情報を用いる意思決定支援技術が有用である。

緊要な技術要素として、特に不確実な情報のもとで意思決定をするように設計される意思決定支援システムには以下の要素が組み込まれる必要があるだろうと考えている。

①自律適応性(Autonomous Adaptive)のある知的な代理人
②ストレスや、特に異なる集団の文化的・社会的相異を取り入れた個人と集団の意志決定と反応を取り込む効果的な人間行動モデル
③原則、能力及び事業計画に基づく判断基準の適用
④自社と競合他社の正確なモデリング&シミュレーション(Modelingand Simulation:M&S)

■モデリング&シミュレーション(M&S)
M&Sは意思決定支援とビジネスや事業の実時間推移より速い状況分析、中期経営計画や事業計画の作成と予行、営業部隊の配置に先立つ実戦的な環境での想定訓練、具備すべき情報システムの開発と運用に関する全サイクルにおいて重要な技術である、と考えている。

意思決定支援システムに独特の特に緊要なM&Sシステムは、ビジネスにおける個人及び営業部隊の反応を取り込んだ効果的な人間行動のM&Sである。
このM&Sには、人間の行動を予測し、戦略・戦術を構築し、営業マンをより実践的な環境で訓練する能力等を含み、

① 意思決定理論的(Deterministic)なモデリング
②複合事象のシミュレーション
③分散シミュレーションが可能となるような機能と実際的な性能を有する事が重要である。

米国大統領選挙におけるSNSの利用

2012年07月03日 | 日記
米国大統領選挙においては、従来からCRMシステムやデータマイニング技術を駆使したターゲット向けに最適の選挙キャンペーンが展開されてきた。
2004年以降は、インターネットを活用した選挙戦略が注目を浴び、2008年のオバマ 対 マケインの大統領選挙戦においてオバマ陣営はインターネットを全面的に利用して選挙戦を展開した。

その結果は、オバマ陣営のサイト訪問者230万人。マケインは56万人。オンライン画像広告数においては、オバマ1億565インプレッションに達しているのに対し、マケインは855万に過ぎなかった。

オバマ陣営のインターネット戦略で顕著なのは、Facebook やMySpace などのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)や、YouTube、Twitter などのウェブツールを効果的に多用した点である。オバマ氏のFacebook の「サポーター」の数はこれまでに100 万人を超え、MySpace の「フレンド」の数も40万人と、マケイン氏(Facebook のサポーター約15 万人、MySpace の「フレンド」約56000人)と桁数の集客を達成している。また、オバマ氏のYouTube のチャンネルには1100のビデオがあり、合計で約5340万回以上視聴されており、これまたマケイン氏(ビデオ数208、視聴370万回)を大きくリードした。

このインターネットを通じた情報発信は、オバマ政権発足後も健在であり更に積極的に活用している。政権移行時も「Change.gov」と言う政権移行チームの専用サイトを立ち上げでいる。「Change.gov」を担当したマコン・フィリップス(Macon Philips)氏が引き続き「Whitehouse.gov」を担当しており、従来のHPに加えFacebookやTwitter,Myspaceにもホワイトハウスの公式サイトを立ち上げるなど積極的なインターネット利用を推進している。この影響は連邦政府機関にも影響を与えており、FacebookやTwitterなどの利用が拡大している。

オバマ大統領は選挙戦中、Twitterを多用した。約1時間後に演説をするのでCNNでライブで見てね~」とか、「今日は○○でタウンホールミーティングを13時から開催するのでライブ映像を見てね」などというメッセージとともにリンクを貼り付けて多数の有権者を自キャンペーン・サイトに誘導した事は有名。

このようなSNSを効果的に活用しインターネットを介しての支援者による活動の輪を広げているのにはFacebook の創始者クリス・ヒューズ(Chris Hughes)氏の存在が大きい。ヒューズ氏は、2007年Facebookを退社してオバマ陣営のネットキャンペーンに携わっている。

オバマは、Facebook、Myspace、Twitter以外にもFlickr、Digg、Eventful、Linkedin、Blackplanet、Faithbase、Eons、Glee、MiGente、MyBatanga、AsianAve、DNCPartybuilder などでプロフィールを公開し、自身への支援を呼びかけ、勿論これら様々なSNSは全てオバマのキャンペーンサイトにされている。

オープンガバメント(Open Govermment)

2012年07月03日 | 日記

オープンガバメントとは、透明でオープンな政府を実現するための政策とその背景となる概念のことで、オバマ大統領が就任直後の2009年1月21日に公表した大統領メモ『Memorandum on Transparency and Open Govermment』の中で、より一層開かれた政府を目指すために、
 ①「政府・政策・情報の透明性(transparency)」
 ②「市民参加(participation)」
 ③「政府内および官民の連携(collaboration)」の3原則を示した。
現在、この原則に基づき、米国連邦政府機関では、様々な取り組みが行われており、オープンガバメント政策について概要を解説する。

1.大統領メモ『Transparency and Open Government』
『Memorandum on Tranparency and Open Government』は、当時まだ指名されていなかった最高技術責任者(Chief of Technology Officer:CTO)は、OMB(Office of Management and Budget)とGSA(General Services Administration)の協力を得つつ各省庁と連携し120日内に「オープンガバメント指令」(Open Government Directive)の起案に関する提言を行なうよう要求している。

オバマ大統領は公約として米国連邦政府を21世紀仕様にする事を目的として連邦政府初のCTO職を新たに設け、各省庁のCTO、CIO(Chief Information Officer)と連携し連邦政府の情報システム及びネットワークの安全性を確保し、省庁間の取組を先導し、最高レベルの技術の利用とプラクティスの共有を図るとしている。

2.オープンガバメント・イニシアティブ
「オープンガバメント指令」を受けて「オープンガバメント的に」広く国民の意見を積極的に聴取し取入れることを目標として「オープンガバメント・イニシアティブ(Open Government Initiative)」の取組を発表し、3つのフェーズに分けて専用Webサイトよりオープンガバメント政策についての意見や提言の募集が行なわれた。

 ①ブレインストーミング・・・2009年5月21日~5月29日
 ②討議期間・・・・・・・・・2009年6月3日スタート
 ③草稿期間・・・・・・・・・2009年6月24日~7月6日

オープンガバメント・イニシアティブについては、賛否両論あるものの概ね良好な評価が多い。
この提言等を受けて連邦政府は情報公開・透明性の確保を目的とした下記のような各種サイトが立上がっている。

(1)Data.gov  (2)Recovery.gov   (3)IT Dashboard (4)DoDTechipedia (5)Regulations.gov (6)Open for Questions
(7)HelthReform.gov (8)Peer to Patent (9)Idea Factory (10)Science Integrity Brog (11)Aristotle (12)Development2.0 Challenge

3.オープンガバメント指令の概要

本指令では連邦政府機関に次の行動を求める。

(1)政府の情報をオンラインで公開する。
・オープンなフォーマットでオンライン上で国民がアクセス可能な情報を拡大すること。オープンなフォーマットにより、情報の二次利用(reuse)を妨げる制約をなくすこと。
・各政府機関は受身ではなく、積極的に(proactively)最新のテクノロジーを活用すること。
・各政府機関は45日以内に、尐なくとも3つの有用なデータセットをオープンフォーマットにてData.gov上で公開すること。
・各政府機関は60日以内に、オープンガバメントウェブサイトを構築すること。このサイトは各機関のオープンガバメントの玄関となるようにすること。
・オープンガバメントウェブサイトは、フィードバックや評価(assessment)の機能を備えること。公開された情報の優先順位付けに資するインプットを提供すること。また、各機関のオープンガバメントプランについてのインプットを提供すること。

(2)政府の情報の質を高める。
・各政府機関はOMBの助言のもと、45日以内に、情報の質と客観性(objectivity)に責任をもつ高官(high level senior official)を指名すること。
・OMBは60日以内に、連邦政府の支出に関する情報の質に関するフレームワークをガイドライン等のかたちで公表する。
・OMBは120日以内に、連邦政府の支出の透明性に関する長期の包括的な戦略を公表する。

(3)オープンガバメントのカルチャーを構築し制度化する。
・各政府機関は120日以内に、オープンガバメントプランを各機関のオープンガバメントウェブサイト上で公開すること。
・連邦政府CIOとCTOは60日以内に、オープンガバメントダッシュボードを構築する。このダッシュボードでは各機関のデータを集計するとともに、オープンガバメントの進捗についてビジュアル化する。
・OMBならびに連邦政府CIO、CTOは45日以内に、ワーキンググループを設置する。このワーキングでは、透明性向上に関するイノベーティブなアイディアに基づいたベストプラクティス、各取り組みの調整、国民参加や協業に関するイノベーティブなアイディアに基づいたベストプラクティス(新しい技術の活用方法やそうした技術の政府内外への示唆の抽出を含む)などを取り扱う。

(4)オープンガバメントのために実現可能な政策フレームワークを構築する。
・OIRA(Office of Information and Regulatory)は120日以内に、OMBの政策についてレビューすること。

4.透明性を高める取組 その1“Data.gov
「Data.gov」が挙げられます。これは行政管理予算局(OMB)が提供するサイトで、連邦政府機関が保有する国勢、環境、経済状況などの各種データセットを提供します。
従来の情報公開との違いは、単に統計情報として集計結果を公表するだけではなく、生データやツール、及び地理情報を提供することで、利用者は加工や分析が容易に行える点です。
「Data.gov」では、国勢(人口統計、犯罪統計など)、環境(有害化学物質排出目録、地質・地理など地理空間情報、経済(社会保険給付金、消費者支出データ、利率の推移)など連邦政府が保有するデータを提供している。
地理空間情報については、米国地質研究所が保有する150万枚の航空写真や850万枚の衛星写真の検索とダウンロードが出来るなど莫大なデータの提供が無料で行なわれている。

5.透明性を高める取組 その2“IT Dashboard
行政管理予算局(OMB)は、毎年連邦政府のIT関連予算を取り纏めて発表している。米国連邦政府のIT関連費用は、 2008年度728億ドル、2009年度742億ドル、2010年度(要求)784億ドルと巨額である。このIT関連費用の詳細と進捗などの情報を提供する事を目的として連邦CIOの Kundra氏が、2009年6月30日、Federal IT Dashboardを発表した。
サイト開設から1ヶ月半で2000万件のアクセスがあった報道されている。

(1)IT Dashboardは、一般の市民が連邦政府のITに対する投資の詳細を見ることのできるオンライン窓口で、国民は政府のIT投資の状況を追跡することができ、効率的な予算執行が行なわれているかを監視することが可能。
(2)IT Dashboardは行政管理予算局(OMB)に直属している官庁から得たデータを公表している。データは、7,000件を超える連邦政府のIT投資に関する一般情報と、そのうち各連邦政府機関が「重要」と分類している約800のIT投資の詳細情報を掲載している。
(3)連邦政府各省庁の800の重要IT投資についてはそれぞれのCIOがデータを月次で評価し、更新する義務を負っている。
(4)IT DashboardにおけるIT予算の評価軸は、コスト、スケジュール、CIOによる評価の3本柱である。(総合評価はそれぞれ1/3ずつのウェイト)
(5)CIO は5つの評価要素(リスク管理、要件管理、請負業者の監督、過去の業績、人的資本)について自己の最良の判断に基づき評価する。
(6)CIO 評価は各評価項目のリスクについて5段階で評価する。評価は、投資が続いている限り月1回の頻度で更新される。
既にIT Dashboardを活用した予算の見直しなどの実例がある。また、今後XMLでの提供や、ユーザーからのフィードバック機能の強化などを図る予定である。

米国大統領選挙におけるIT利用

2012年07月03日 | 日記

米国大統領選挙戦史上初めてとなるケネディ、ニクソン両候補によるテレビでの公開討論が放映され、これ以降テレビ、ラヂオを中心としたメディアが選挙の重きを成した。それまではボランティアなどによる戸別訪問が中心であった。

ケネディが43歳の若さで大統領に当選したあとの大統領選挙はテレビやラジオを介した全米でのマス・マーケティング的な様々なキャンペーンがメインとなった。但し、選挙広告のメッセージは、多様な人種で構成される米国にあっては、中流白人層やマイノリティ、低所得者層などの人口構成ごとに的を絞った為、メッセージ内容が画一的であり有権者への訴求力に欠け投票率も低迷していた。

その後、選挙戦に勝利する為には、やはり有権者一人一人に訴求できる手法が必要である事が再認識され、インターネットやPC、携帯電話などのパーソナルな情報機器の普及により有権者個々人に訴求可能な環境が整うと共和・民主両陣営は支持票の確保と浮動票の効果的な取り込みのために有権者のデータを収集・蓄積する、ある種の選挙用CRMシステムの整備導入が行なわれた。この有権者のデータベース化とこれの戦略的活用については、共和党が民主党に先んじた。共和党は1990年代中頃から有権者データベースの構築に着手し、現在約1億6800万人分のデータを蓄積していると言われる。

このVaultと呼ばれる有権者データベースの整備と戦略的活用を推し進めたのは、ブッシュ大統領上級顧問を務めたカール・ローブ(Karl Rove)である。今まで彼が手がけた選挙は上下両院、地方選挙など40は優に超えると言われる。ブッシュの大統領選挙や中間選挙ではローブはその能力を遺憾なく発揮した。このカール・ローブが回顧録で語る選挙に勝つ為の8原則を掲載する。

(1)候補者の政治哲学や基本理念を反映させたグランド・デザインを前面に押し出す。
(2)有権者が今何を考えているのか、それに対し候補者のスタンスはどうなのか、その長所短所を掌握し、有権者が共鳴できそうなテーマを力強く、間断なく訴え続ける。
(3)選挙区のこれまでの投票動向や各党候補の獲得票パターンを徹底的に調べ上げる。
(4)潜在的支持者像を想定する。そのためには有権者の生活実態、例えば、選挙区の年齢層、乗っている車の種類、読んでいる新聞や雑誌、みるテレビ局、教会に行っているか否か、などを調べ上げる。
(5)対立候補に対する批判の限界をきちんとわきまえ、キャンペーン・スタッフに徹底させる。
(6)選挙には勝つための戦略的プランが不可欠であり、このプランを軸にした規律と統制を陣営内に確立させる。
(7)コンピューター・マニアだろうと、漫画オタクだろうと、来るものは拒まず、可能な限りありとあらゆる分野からのアイデアや知恵を収集、使えるものは使うこと。
(8)運動員は、候補者に関する知識と情報を完全掌握し、自信をもって候補者を売り込むこと。票を持ってきてくれるボランティアこそ「神様」であることを常日頃から心得ておくこと。

民主党は、2000年の大統領選挙戦敗北を受けて、遅ればせながら全国有権者データベース(DataMart)と呼ばれるシステムの構築を開始し、約300万ドルの資金を投じて2002年に完成させた。民主党で全米の有権者データベース化を主導したのは、政治コンサルタントのローリー・モスコウィッツ(Laurie Moskowitz)である。

モスコウィッツは、今後の大統領選挙戦で勝敗の鍵となるのは、如何にニッチ・マーケットへのキャンペーンを展開し有権者へ訴求するかがポイントであると主張している。例えば「ニューヨーク州のユダヤ系有権者の中産階級」、「カリフォルニア州のゲイの有権者層」、「バージニア州の未婚女性有権者層」、「フロリダ州のヒスパニック系の有権者層」など、きめ細かに仕訳・分類された多数の有権者グループ群に対し、それぞれの有権者層に訴求するカスタムメイドのアプローチ、キャンペーンを展開する事で組織票を動かすのと同様の効果を発揮すると主張している。

共和/民主両党の有権者データベースには、有権者登録情報と連邦政府が実施する最新の国勢調査の記録を基礎情報として、個々の有権者の人種、性別、住所、電話番号、誕生日、職業、家族構成、世帯収入、投票頻度や各党が保持している支持者・献金者のリストからの情報、選挙ボランティアなどの活動記録から得た個別情報、例えば購読している新聞や雑誌、所属している団体名称などや電子メールアドレスなどが登録されている。特に電子メールアドレスは、候補者が直接に有権者へのメッセージを伝達できる有力な手段であるため、電子メールアドレスの入手と特定は、非常に重要視される。

2004年の共和党ブッシュ対民主党ケリーの大統領選挙においては、既知の通りカール・ローブ氏が選挙全体を仕切ったブッシュ陣営であった。この大統領選挙で共和党は、600万人に上る電子メールアドレスを収集し、有利に選挙戦を展開したものとされる。