オープンガバメントとは、透明でオープンな政府を実現するための政策とその背景となる概念のことで、オバマ大統領が就任直後の2009年1月21日に公表した大統領メモ『Memorandum on Transparency and Open Govermment』の中で、より一層開かれた政府を目指すために、
①「政府・政策・情報の透明性(transparency)」
②「市民参加(participation)」
③「政府内および官民の連携(collaboration)」の3原則を示した。
現在、この原則に基づき、米国連邦政府機関では、様々な取り組みが行われており、オープンガバメント政策について概要を解説する。
1.大統領メモ『Transparency and Open Government』
『Memorandum on Tranparency and Open Government』は、当時まだ指名されていなかった最高技術責任者(Chief of Technology Officer:CTO)は、OMB(Office of Management and Budget)とGSA(General Services Administration)の協力を得つつ各省庁と連携し120日内に「オープンガバメント指令」(Open Government Directive)の起案に関する提言を行なうよう要求している。
オバマ大統領は公約として米国連邦政府を21世紀仕様にする事を目的として連邦政府初のCTO職を新たに設け、各省庁のCTO、CIO(Chief Information Officer)と連携し連邦政府の情報システム及びネットワークの安全性を確保し、省庁間の取組を先導し、最高レベルの技術の利用とプラクティスの共有を図るとしている。
2.オープンガバメント・イニシアティブ
「オープンガバメント指令」を受けて「オープンガバメント的に」広く国民の意見を積極的に聴取し取入れることを目標として「オープンガバメント・イニシアティブ(Open Government Initiative)」の取組を発表し、3つのフェーズに分けて専用Webサイトよりオープンガバメント政策についての意見や提言の募集が行なわれた。
①ブレインストーミング・・・2009年5月21日~5月29日
②討議期間・・・・・・・・・2009年6月3日スタート
③草稿期間・・・・・・・・・2009年6月24日~7月6日
オープンガバメント・イニシアティブについては、賛否両論あるものの概ね良好な評価が多い。
この提言等を受けて連邦政府は情報公開・透明性の確保を目的とした下記のような各種サイトが立上がっている。
(1)Data.gov (2)Recovery.gov (3)IT Dashboard (4)DoDTechipedia (5)Regulations.gov (6)Open for Questions
(7)HelthReform.gov (8)Peer to Patent (9)Idea Factory (10)Science Integrity Brog (11)Aristotle (12)Development2.0 Challenge
3.オープンガバメント指令の概要
本指令では連邦政府機関に次の行動を求める。
(1)政府の情報をオンラインで公開する。
・オープンなフォーマットでオンライン上で国民がアクセス可能な情報を拡大すること。オープンなフォーマットにより、情報の二次利用(reuse)を妨げる制約をなくすこと。
・各政府機関は受身ではなく、積極的に(proactively)最新のテクノロジーを活用すること。
・各政府機関は45日以内に、尐なくとも3つの有用なデータセットをオープンフォーマットにてData.gov上で公開すること。
・各政府機関は60日以内に、オープンガバメントウェブサイトを構築すること。このサイトは各機関のオープンガバメントの玄関となるようにすること。
・オープンガバメントウェブサイトは、フィードバックや評価(assessment)の機能を備えること。公開された情報の優先順位付けに資するインプットを提供すること。また、各機関のオープンガバメントプランについてのインプットを提供すること。
(2)政府の情報の質を高める。
・各政府機関はOMBの助言のもと、45日以内に、情報の質と客観性(objectivity)に責任をもつ高官(high level senior official)を指名すること。
・OMBは60日以内に、連邦政府の支出に関する情報の質に関するフレームワークをガイドライン等のかたちで公表する。
・OMBは120日以内に、連邦政府の支出の透明性に関する長期の包括的な戦略を公表する。
(3)オープンガバメントのカルチャーを構築し制度化する。
・各政府機関は120日以内に、オープンガバメントプランを各機関のオープンガバメントウェブサイト上で公開すること。
・連邦政府CIOとCTOは60日以内に、オープンガバメントダッシュボードを構築する。このダッシュボードでは各機関のデータを集計するとともに、オープンガバメントの進捗についてビジュアル化する。
・OMBならびに連邦政府CIO、CTOは45日以内に、ワーキンググループを設置する。このワーキングでは、透明性向上に関するイノベーティブなアイディアに基づいたベストプラクティス、各取り組みの調整、国民参加や協業に関するイノベーティブなアイディアに基づいたベストプラクティス(新しい技術の活用方法やそうした技術の政府内外への示唆の抽出を含む)などを取り扱う。
(4)オープンガバメントのために実現可能な政策フレームワークを構築する。
・OIRA(Office of Information and Regulatory)は120日以内に、OMBの政策についてレビューすること。
4.透明性を高める取組 その1“Data.gov”
「Data.gov」が挙げられます。これは行政管理予算局(OMB)が提供するサイトで、連邦政府機関が保有する国勢、環境、経済状況などの各種データセットを提供します。
従来の情報公開との違いは、単に統計情報として集計結果を公表するだけではなく、生データやツール、及び地理情報を提供することで、利用者は加工や分析が容易に行える点です。
「Data.gov」では、国勢(人口統計、犯罪統計など)、環境(有害化学物質排出目録、地質・地理など地理空間情報、経済(社会保険給付金、消費者支出データ、利率の推移)など連邦政府が保有するデータを提供している。
地理空間情報については、米国地質研究所が保有する150万枚の航空写真や850万枚の衛星写真の検索とダウンロードが出来るなど莫大なデータの提供が無料で行なわれている。
5.透明性を高める取組 その2“IT Dashboard”
行政管理予算局(OMB)は、毎年連邦政府のIT関連予算を取り纏めて発表している。米国連邦政府のIT関連費用は、 2008年度728億ドル、2009年度742億ドル、2010年度(要求)784億ドルと巨額である。このIT関連費用の詳細と進捗などの情報を提供する事を目的として連邦CIOの Kundra氏が、2009年6月30日、Federal IT Dashboardを発表した。
サイト開設から1ヶ月半で2000万件のアクセスがあった報道されている。
(1)IT Dashboardは、一般の市民が連邦政府のITに対する投資の詳細を見ることのできるオンライン窓口で、国民は政府のIT投資の状況を追跡することができ、効率的な予算執行が行なわれているかを監視することが可能。
(2)IT Dashboardは行政管理予算局(OMB)に直属している官庁から得たデータを公表している。データは、7,000件を超える連邦政府のIT投資に関する一般情報と、そのうち各連邦政府機関が「重要」と分類している約800のIT投資の詳細情報を掲載している。
(3)連邦政府各省庁の800の重要IT投資についてはそれぞれのCIOがデータを月次で評価し、更新する義務を負っている。
(4)IT DashboardにおけるIT予算の評価軸は、コスト、スケジュール、CIOによる評価の3本柱である。(総合評価はそれぞれ1/3ずつのウェイト)
(5)CIO は5つの評価要素(リスク管理、要件管理、請負業者の監督、過去の業績、人的資本)について自己の最良の判断に基づき評価する。
(6)CIO 評価は各評価項目のリスクについて5段階で評価する。評価は、投資が続いている限り月1回の頻度で更新される。
既にIT Dashboardを活用した予算の見直しなどの実例がある。また、今後XMLでの提供や、ユーザーからのフィードバック機能の強化などを図る予定である。