阿部ブログ

日々思うこと

通信トラヒック理論について

2012年07月10日 | 日記

情報通信ネットワークシステムは今後益々増大かつ大変動を伴うデータトラヒックを効率的に収容する一方で、高い通信品質をエンドユーザに提供しなければならない。そのためにはデータトラヒックの測定技術、確率統計の理論を基にしたネットワークシステムの性能解析手法、さらにはネットワーク性能の予測技術をより一層高度化・高精度化することが欠かせない。

特に、測定時系列データの統計解析・確率分布推定手法、通信トラヒック理論で取り扱い可能なクラスへのマッピングと性能予測は今後も重要な研究分野であり、この方面に対して応用確率論・応用数学・情報理論に代表される数理工学的観点からのキャッチアップと理論の積極的な応用が必要不可欠である。

近年ではクラウドコンピューティングに代表される大規模なデータセンターの設計や高効率な運用が求められており、そのような大規模システムのマネージメントには非常に多くの構成要素における確率的変動の影響を考慮したシステム設計や性能解析が欠かせない。
そのためには従来のマルコフ連鎖や中心極限定理等の基礎的確率論に加え、大偏差理論や極値理論のような多くの確率的変動を取り扱う確率論を積極的に応用して知見を獲得していくことが重要である。

クラウドコンピューティング自体は世界規模で研究開発が進められているが、通信トラヒック理論や応用確率論を駆使したシステム設計法や構成論については米国が先んじて研究を展開しているのみで、その他の国々ではほとんど研究が行われていない。
そのため、この方面での研究を国内でも積極的に展開し、クラウドコンピューティングやデータセンターの設計・運用に対する基礎的知見の獲得と実システム開発への応用を目指す必要があると思われる。

※付記:
通信トラヒック理論・待ち行列理論の基礎研究は欧州ならびに米国が世界を牽引している。
基礎理論を応用した研究は米国が強く、欧州、日本がそれに続く状況である。近年の性能評価研究ではマルコフ連鎖をベースにした研究のみならず、中心極限定理等の確率論を基にした研究が展開されてきており、この動きは特に米国で顕著である。

日本は大学を中心に基礎理論とその応用に関する研究が行われているが、最近はモンテカルロ型シミュレーションによる評価研究が多く、また新しい理論展開もそれほど活発化していない。韓国も日本と同様の状況下にある。中国はこの研究分野の歴史が浅いため、現時点では発展途上にあるが、世界で活躍している中国出身の研究者と中国国内の研究者の共同研究が年々活発化してきており、中国研究者の存在感は今後益々増してくるものと予想される。

待ち行列理論やマルコフ連鎖を基にした性能評価研究が活発なアジアの国として台湾も挙げられる。中国も台湾も米国等外国で学位を取得した研究者が帰国してレベルの高い研究成果を発信している。