阿部ブログ

日々思うこと

米国大統領選挙におけるIT利用

2012年07月03日 | 日記

米国大統領選挙戦史上初めてとなるケネディ、ニクソン両候補によるテレビでの公開討論が放映され、これ以降テレビ、ラヂオを中心としたメディアが選挙の重きを成した。それまではボランティアなどによる戸別訪問が中心であった。

ケネディが43歳の若さで大統領に当選したあとの大統領選挙はテレビやラジオを介した全米でのマス・マーケティング的な様々なキャンペーンがメインとなった。但し、選挙広告のメッセージは、多様な人種で構成される米国にあっては、中流白人層やマイノリティ、低所得者層などの人口構成ごとに的を絞った為、メッセージ内容が画一的であり有権者への訴求力に欠け投票率も低迷していた。

その後、選挙戦に勝利する為には、やはり有権者一人一人に訴求できる手法が必要である事が再認識され、インターネットやPC、携帯電話などのパーソナルな情報機器の普及により有権者個々人に訴求可能な環境が整うと共和・民主両陣営は支持票の確保と浮動票の効果的な取り込みのために有権者のデータを収集・蓄積する、ある種の選挙用CRMシステムの整備導入が行なわれた。この有権者のデータベース化とこれの戦略的活用については、共和党が民主党に先んじた。共和党は1990年代中頃から有権者データベースの構築に着手し、現在約1億6800万人分のデータを蓄積していると言われる。

このVaultと呼ばれる有権者データベースの整備と戦略的活用を推し進めたのは、ブッシュ大統領上級顧問を務めたカール・ローブ(Karl Rove)である。今まで彼が手がけた選挙は上下両院、地方選挙など40は優に超えると言われる。ブッシュの大統領選挙や中間選挙ではローブはその能力を遺憾なく発揮した。このカール・ローブが回顧録で語る選挙に勝つ為の8原則を掲載する。

(1)候補者の政治哲学や基本理念を反映させたグランド・デザインを前面に押し出す。
(2)有権者が今何を考えているのか、それに対し候補者のスタンスはどうなのか、その長所短所を掌握し、有権者が共鳴できそうなテーマを力強く、間断なく訴え続ける。
(3)選挙区のこれまでの投票動向や各党候補の獲得票パターンを徹底的に調べ上げる。
(4)潜在的支持者像を想定する。そのためには有権者の生活実態、例えば、選挙区の年齢層、乗っている車の種類、読んでいる新聞や雑誌、みるテレビ局、教会に行っているか否か、などを調べ上げる。
(5)対立候補に対する批判の限界をきちんとわきまえ、キャンペーン・スタッフに徹底させる。
(6)選挙には勝つための戦略的プランが不可欠であり、このプランを軸にした規律と統制を陣営内に確立させる。
(7)コンピューター・マニアだろうと、漫画オタクだろうと、来るものは拒まず、可能な限りありとあらゆる分野からのアイデアや知恵を収集、使えるものは使うこと。
(8)運動員は、候補者に関する知識と情報を完全掌握し、自信をもって候補者を売り込むこと。票を持ってきてくれるボランティアこそ「神様」であることを常日頃から心得ておくこと。

民主党は、2000年の大統領選挙戦敗北を受けて、遅ればせながら全国有権者データベース(DataMart)と呼ばれるシステムの構築を開始し、約300万ドルの資金を投じて2002年に完成させた。民主党で全米の有権者データベース化を主導したのは、政治コンサルタントのローリー・モスコウィッツ(Laurie Moskowitz)である。

モスコウィッツは、今後の大統領選挙戦で勝敗の鍵となるのは、如何にニッチ・マーケットへのキャンペーンを展開し有権者へ訴求するかがポイントであると主張している。例えば「ニューヨーク州のユダヤ系有権者の中産階級」、「カリフォルニア州のゲイの有権者層」、「バージニア州の未婚女性有権者層」、「フロリダ州のヒスパニック系の有権者層」など、きめ細かに仕訳・分類された多数の有権者グループ群に対し、それぞれの有権者層に訴求するカスタムメイドのアプローチ、キャンペーンを展開する事で組織票を動かすのと同様の効果を発揮すると主張している。

共和/民主両党の有権者データベースには、有権者登録情報と連邦政府が実施する最新の国勢調査の記録を基礎情報として、個々の有権者の人種、性別、住所、電話番号、誕生日、職業、家族構成、世帯収入、投票頻度や各党が保持している支持者・献金者のリストからの情報、選挙ボランティアなどの活動記録から得た個別情報、例えば購読している新聞や雑誌、所属している団体名称などや電子メールアドレスなどが登録されている。特に電子メールアドレスは、候補者が直接に有権者へのメッセージを伝達できる有力な手段であるため、電子メールアドレスの入手と特定は、非常に重要視される。

2004年の共和党ブッシュ対民主党ケリーの大統領選挙においては、既知の通りカール・ローブ氏が選挙全体を仕切ったブッシュ陣営であった。この大統領選挙で共和党は、600万人に上る電子メールアドレスを収集し、有利に選挙戦を展開したものとされる。


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