阿部ブログ

日々思うこと

船舶の環境規制と原子力商船の可能性

2010年11月02日 | 日記
国際海運業は、世界の二酸化炭素総排出量の4%を占めるとされ、現在、国際海事機関(IMO)による海運分野の有害物質排出規制の策定が進められている。IMOによれは、新規の造船について設計・建造段階において一定条件下で、1トンの貨物を1マイル運ぶのに排出すると見積もられるCO2をグラム数としてインデックス化し、船舶性能を差別化する「エネルギー効率設計指標(EEDI:Energy Efficiency Design Index)」を策定し、既存船についてもEEOIを自己モニタリングしつつ、CO2排出削減のためにもっとも効率的な運航方法(減速、海流・気象を考慮した最適ルート選定、適切なメンテナンス等)をとるように、①計画、②実施、③モニタリング、④評価及び改善というサイクルを継続して管理することを促す「船舶エネルギー効率マネージメントプラン(SEEMP: Ship Energy Efficiency Management Plan)」を策定する、などの検討が進んでいる。

これらの詳細な作業計画は、今年9月に開催されるIMO第61回海洋環境保護委員会(MEPC61)において本格的に審議される。このような環境規制強化を背景としてエコシップが注目されている。三井造船はCO2排出量を現状より25%削減する手法を検証済みで、最終的には30%の削減を目指すとし、IHIマリンユナイテッドが6月にコンセプトを発表した20フィートコンテナ1万3000搭載コンテナ船も三井造船同様30%の削減を実現させると言う。これらエコシップは既存船に比べて燃費も30%削減できる事から、船主にとってのコスト削減メリットは大きい。

このような中、中国遠洋運輸総公司(COSCO)が原子力商船の可能性について中国の原子力メーカーと検討中であると、昨年12月にロイドリスが報じている。原子力船については、軍用に限られるとは言え、累計400隻近い艦船が建造され、現在でもその殆どは潜水艦ではあるが150隻が就航し220基の船舶用原子炉が稼動している。特に米海軍は83隻(潜水艦72、空母10、調査船1)の原子力船を運用中で、これら艦船は1億3000万海里の安全航行実績を有し、原子炉稼働年数5700年を達成している。これは商用原子力発電を超える安全性を証明している。

東京大学・湯原特任教授によれば日本や米国のグループによりバレル100ドルの場合の原子力商船の経済性が検討・試算され、北米‐極東航路を32ノット、7日半で航行するケースで従来のディーゼル船の方が、年間40億円程度余計にかかると算定している。バレル200ドルともなるとディーゼル船でのコンテナ1個当りの費用は原子力船の2倍となり、原子力船が圧倒的な競争力が持つとしている。今後、海運業への更なる環境規制強化や原油価格の高騰などが予想されるなか原子力商船の可能性を探る取組が世界的に注目される可能性がある。

かつての原子力船「むつ」は現在、独立行政法人 海洋研究開発機構の海洋研究調査船「みらい」として海洋開発調査に従事しているが、この「むつ」の貴重な運行データと技術を継承し、我が国においても原子力商船の開発に着手するべきである。

(1)IMOの環境規制 http://www.mlit.go.jp/common/000110962.pdf 
(2)ロイドリスト記事 http://www.lloydslist.com/ll/news/ 
(3)湯原教授より『原子力商船の実現可能性について』海運2010.4

最新の画像もっと見る