阿部ブログ

日々思うこと

シナイ半島におけるエジプトとイスラエルの合同作戦~シンベトのシナイ半島専任部隊~

2014年08月30日 | 雑感

エジプト軍は、イスラエル軍のプロテクティブ・エッジ(Operation Protective Edge)作戦と協調・同期して、シナイ半島における対ハマス相当作戦を実施した。エジプト軍にはイスラエルの対諜報機関シンベトのシナイ半島専任部隊が直接支援を実施した。イスラエルは、ハマスに対して二正面作戦を展開したのだ。
イスラエル軍のガザ侵攻~プロテクティブ・エッジ(Operation Protective Edge)」作戦の結果~

エジプトでは昨年7月にクーデターでモルシー政権が崩壊。暫定政権から今年6月にようやくシーシー政権が発足。シーシー政権は、発足当初からムスリム同胞団の大量摘発に着手している。暫定政府は、2013年10月9日にムスリム同胞団に対し解散命令を発出。12月25日にはムスリム同胞団をテロ組織に指定。

シナイ半島の情勢が不穏になったのは、2011年2月のムバラク政権崩壊後。シナイ半島を活動の拠点したイスラーム・ジハード主義者による天然ガス輸出用パイプラインの破壊、治安部隊襲撃で部隊員25名が殺害されるなど武装組織によるテロ事案が相次いだため、エジプト軍は同年8月にシナイ半島北部で掃討作戦「Operation Eagle」を展開。実はシナイ半島での軍事行動は、エジプト=イスラエル間で締結されたキャンプ・デービッド合意によって規制されているが、エジプト政府は、イスラエルの承認を得た上で掃討作戦を実施し、シナイ半島北部の国境地帯の秩序回復を企図したが、完全に目的を完遂したとは言いがたい状況が続いている。この状況は現在も進行中だが、2013年7月のエジプト政変以降は、イスラーム・ジハード主義者によるテロ活動はエジプト国内で行われるようになっている。政変後は、続けざまに内務大臣暗殺未遂(9月5日)、スエズ運河西岸の軍施設爆破(10月19日)、カイロ市内で警察幹部暗殺(11月17日)、エジプト北部のマンスーラ警察本部爆破(12月24日)が生起している。これらテロについては、シナイ半島を拠点とするイスラーム・ジハード主義勢力のアンサール・ベイト・アル・マクディスが犯行声明を出している。

シナイ半島を拠点とするイスラーム・ジハード主義勢力の実態は明確ではないが、15組織が存在するといわれている。最大勢力は、مجلس شورى المجاهدين في العراق‎ (イラクのサラフィー・ジハード主義組織)で、ムジャーヒディーン評議会やムハンマド・ジャマル・ネットワークなどが主だった軍事勢力。エジプト政変後にテロ活動を激化させたアンサール・ベイト・アル・マクディスは700~1000人程度でサラフィー・ジハード主義組織に次ぐ勢力と考えられている。

シナイ半島を拠点として跋扈するイスラーム・ジハード主義勢力やハマスの無力化は、エジプトとイスラエルに共通した問題。冒頭で述べた通り、エジプト軍は、イスラエル軍のプロテクティブ・エッジ作戦発動と同時に対ハマス掃討作戦を実施。シナイとガザを結ぶトンネルを破壊する軍事作戦を実施。これはメディアでは報道されなかった。この軍事作戦はガザへの軍事補給を遮断するのが目的。イスラエルもエジプト軍の作戦に直協しシンベトのシナイ半島専任の部隊を展開し、エジプト軍と共同作戦を実施。これは前代未聞。この作戦で、エジプト軍は、シナイ半島のエルアリシュ南にあるアンサール・ベイト・アル・マクディスの作戦本部を無力化している。この作戦本部には、カラシニコフなどの大量の小銃・弾薬、手榴弾、無線通信装置と地下にはロケット製造工場があったし、ハマス特殊部隊の制服など装備の備蓄があったようだ。

シンベトがシナイ半島専任部隊を設立したのは、従来のガザからの攻撃抑止だけではダメだとの判断による。何故ならば、ハマスは軍事要員をガザでリクルートし、訓練はシナイ半島を利用している実況証拠が得られたから。しかしこのような状況は2000年代初期から現出しており、エジプトはイスラエルよりも早くシナイ半島の脅威に気付いて対応していたが、イスラエルの対応は完全に後手。イスラエル諜報機関の劣化を象徴する出来事だ。

シナイ半島におけるイスラーム・ジハード主義勢力やハマスの伸張の背景にはベドウィンの世俗化、所謂「金儲け」がある。ベドウィンは以前から麻薬密輸・武器密輸、非合法移民搾取等に従事していたが、サウジや湾岸諸国からの豊富な資金援助を得ているイスラーム・ジハード主義勢力のシナイ流入で、一気にベドウィンのイスラム化と海外ネットワークの拡大が加速した。このネットワーク拡大がテロ活動の拡大につながっている。

まあ、イスラエル諜報機関は、エジプトが指摘したシナイ半島の状況判断に真摯に向き合い対応するべきだったのだろうが、今のイスラエルは米国の援助基礎とするテロ国家となっている。第二次世界大戦時にソビエトに行われた武器援助のように何時かは援助が途絶する事を考えてアラブ&パレスチナとの融和を模索するのが長期的戦略としては正しい方向だが、戦争はビジネスなのでそうのようにはならない。