阿部ブログ

日々思うこと

早稲田大学ファイナンス研究センター訪問 ~アルゴリズム取引について~

2013年06月19日 | 雑感
日本橋には、メリルリンチやバンク・オブ・アメリカなど入居する「コレド日本橋(COREDO)」がある。元々COREDOの前身は、東急百貨店で、2004年に複合商業施設として新規オープン。
                   
この「コレド日本橋」5階に、早稲田大学のファイナンス研究センターがある。
             
昨日、このセンターを訪問して様々お話をお聞きする事が出来た。訪問目的とは、少々そぐわないものの、アルゴリズム取引の話が特に興味深かった。

アルゴリズム取引とは、予め定められたアルゴリズムに従ってコンピュータにより瞬時に売買する金融商品の取引形態で、今やマイクロ秒(1マイクロ秒は1秒の100万分の1)での取引が行われていると言うから驚きだ。話によると、2010年に東京証券取引所(東証)の売買システムがメインベンダーである富士通によりリニューアルされ、今までは取引を目視する必要から3秒取引を原則としていたが、リニューアル後は、1ミリ秒でトランザクションを高速に処理出来るようになった。今や東証でも高頻度取引(high frequency trading: HFT)や統計的裁定取引(statistical arbitrage)などのアルゴリズム取引が、欧米程ではないものの多用されつつあるとの事。

アルゴリズム取引のシェアは、米国の株式市場で約60%~70%、欧州の株式市場で50%程度。主要な為替市場では、既に40%から70%に達している。きちんとした統計データは存在しないようで、推計に過ぎないが、既に半分以上の取引はアルゴリズムによって自動で行われているも言う。東証でのアルゴリズム取引の規模は、2010年のコロケーション(co-location)から推測すると、全注文件数の約1/4を占めると推測されている。
コロケーションとは、東証の売買システムとの低遅延性を重視する投資家に提供されるサービスで、投資家のサーバーを東証のプライマリサイト内に設置することで、東証の売買システムおよび相場報道システムとの距離を極小化し、相場情報の取得と注文の送信にそれぞれ片道10マイクロ秒以下に短縮することが出来る。マイクロ秒単位で競争相手に先んずる事が重要。

投資家は、注文を発注してから市場に注文が届くまでの時間、市場価格、出来高、指値板といった情報が投資家に到着するまでの時間を極限まで短縮したい。こうした時間は注文の遅延(latency)と呼ばている。しかし海外市場に発注する場合、物理的な距離が厳然とあるため最速のネットワークを経由しても数10~数100ミリ秒の遅延が発生する。高速ネットワークサービスで有名な「エクスポネンシャルeファイナンス社」のネットワークを利用しても、東京→ニューヨーク間は246ミリ秒の遅延、ロンドン→ニューヨーク間では68ミリ秒の遅延となる。

ネットワークの更なる高速化は、相当に難しいようだが、各国でブレークスルーを目指して技術開発が進められている。最近、注目されているリアルタイム処理技術として、複合イベント処理(complex event processing)がある。複合イベント処理は、ネットワークを介して市場から到来するデータを、いちいちハードディスクに格納することなく、大容量のメモリに展開して処理するオンメモリ・データベース技術で、アルゴリズム取引に必要なイベント検知とリアルタイム処理により、今までの執行時間を飛躍的に短縮させることが可能だ。
このアルゴリズム取引には、先進的な技術が応用されており、マーケット・マイクロストラクチャー、金融工学の価格付け理論や確率制御理論を応用した最適執行戦略(optimal execution strategy)理論、計量経済学を適用した大規模解析技術、テキスト・マイニング技術、人工知能、それと前述の売買処理自体を高速化する複合イベント技術などの情報技術など多岐にわたる。

アルゴリズム取引は、とても興味深い分野だと思う。宇野淳先生、貴重なお話、誠に有り難うございました。