阿部ブログ

日々思うこと

地球深度探査船「ちきゅう」の成果

2010年11月09日 | 日記
独立行政法人 海洋研究開発機構が所有する地球深度探査船「ちきゅう」が素晴らしい成果を挙げた。

1990年代後半から海底下に生命圏が存在する事がわかり始めていたが、建造5年目の定期検査後の沖縄沖航海でそれを実証する事が出来た。特に地球表層以外の海底生物圏の方がその生命量が莫大である事が観測されたことの意義は大きい。
海洋にいる生物量は魚介類・プランクトンは全海洋生物量の約1%以下で、その殆どは海中にいる微生物、及び海底の底に生息する微生物群で99%を占める。但し、海底下の微生物群は生命存在可能条件の境界領域におり生存ギリギリの状態にある。この微生物群は海洋表面のプランクトンなどの死骸などを食糧としており、海洋表面での光合成生産のおこぼれにあずかる形で何とか生命活動を維持している。この影響で3000年から1万年に1回細胞分裂するぐらいの低成長で生存。

海底下の生物圏は、ギリギリ生きている生物だけではない。熱水噴出孔の直下にはピチピチの生命圏があり、極限環境微生物にとってはパラダイスである。また、熱水噴出孔から噴出する熱水には様々な生物のDNAや脂質が含まれており、これは熱水が海底地下から上がってくる過程で、途中の生物群を巻き込みながら噴出していると推測されている。即ち、海底下にはもう一つの海があるといえる。これは1993年に予測されていたが、今回これを実証したのだ。

今回の航海は沖縄沖北西150沖の伊平屋北フィールドと呼ばれるエリアで、1995年依頼、潜行調査が行なわれてきたエリアで調査が進んでいる所。この伊平屋北フィールドは世界でも最も調査研究が進んでいる深海熱水エリアとされ、特に二酸化炭素とメタンの濃度が極端に高い事で知られる。
この海底熱水は蒸気として噴出しているが、塩分の濃い熱水の所在が不明であり、調査と研究が行なわれてきたが、ここにきて塩分濃度が濃い為、海底熱水層の下部に沈滞・滞留している事がわかってきた。

今回の航海では伊平屋北フィールドで8箇所の掘削を行なった。その結果、海底下に巨大な熱水層が存在する事が判明。特に3箇所では人工的に熱水を噴出させる事ができ、ビデオ撮影にも成功している。これは世界初の快挙である。
更には、深海における熱水の掘削は、殆どサンプルが採取できない失敗と挫折の歴史であるが、今回は50%以上の回収率を達成した。世界でも比類のない採取率であり、これは偏に“ちきゅう”の掘削能力と日本技術者チームの能力によるもので、現在、世界最高のチームといえる。

また今回の掘削では、海底下で現在の生成されている黒鉱の採取に成功した。黒鉱は秋田の小坂鉱山などで産出するが、これと同じものが海底で現在進行中の黒鉱鉱床があり、今後この構造などの解明に役立つと考えられる。この黒鉱は亜鉛や鉛などの金属類を豊富に含み、かつ希少金属も含有する鉱物で、国内における貴重な資源として注目を浴びており、今後の調査が期待される。

明日、いよいよNHK 『クローズアップ現代』 でトリウムがメインテーマで報道されます。

2010年11月09日 | 日記
いよいよ明日、NHKの『クローズアップ現代』でレアアース採取後に廃棄されているトリウムを原子燃料として利用する動きが海外で顕著であると言う内容で報道がなされる。
鈴木ディレクター、映像さん、音声さん、お疲れ様でした。敬意を表します。

さて、トリウムの利用についての研究開発についてはヨーロッパ諸国で進んでいる。
ノルウェーのハルデン試験炉(この試験炉は日本の電力会社も照射試験で利用している)で来年2011年にトリウムとプルトニュウムの混合燃料に照射試験を行なう。またEUでも超ウラン元素研究所がトリウム燃料の照射を行ないトリウムとプルトニュウムの振舞いを研究している。そもそもドイツでは統一前の西ドイツ時代からトリウムを燃料として利用している歴史があり、受入れ易い土壌がある。米国エネルギー省でもロシア、イスラエル、韓国と原子力研究イニシアティブを立上げ、現行の加圧水型原子炉でのトリウム燃焼用集合体の開発を行なっている。

レアアース大国・中国においては更に積極的に利用しようとしており、現在、世界最大のレアアース鉱山・包頭では、カナダと共同でトリウムの燃料集合体を開発しており、ほぼ実用の目途が立った模様。また上海郊外の泰山原子力発電所では2012年にトリウムによる発電を開始し、早ければ2014年までにトリウム燃料専用炉を稼動させる計画が粛々と進行している

我が国日本においてはどうか。スマートグリッドに後ろ向きであるのと同様にトリウムについても電力業界は否定的である。そもそも1950年代後半に国内の希土類企業からトリウムの国家管理構想案が出されたが、当時は受入れられなかった。また1980年代にもトリウムが注目を集めたが、冷戦が最高潮に達している時期で平和利用よりも軍事が優先され、その後忘れ去られた経緯がある。

尖閣諸島での事件をきっかけにレアアースが広く国民一般に知られるようになったが、このレアアースがトリウムと言う放射性物質を随伴する事までは理解されておらず、日本企業はこのトリウム問題があるために中国以外でのレアアース調達が出来ずにいる事は広く衆知されねばならない。

この度の件で鉱物資源業界はトリウム問題を避けて通れない事を察知したが、原子力業界は破綻しかけているウラン=プルトニュウム路線から抜出そうとしていない。トリウムも原子燃料として利用する柔軟なエネルギー・ポートフォリオの構築が必要だ。