阿部ブログ

日々思うこと

地中海プロジェクト

2010年11月25日 | 日記
ドイツの企業(Munich Re(保険)、RWE(電力)、E.ON(電力)、シーメンス(電機))を中心とする12社と、2003年に地中海横断代価エネルギー機構(TREC)が創設したDesertec財団が、サハラ砂漠に太陽熱発電所を建設し、その電力をアフリカからEU域内まで長距離送電線網を経由して、グリーン電力をEUに輸出するプロジェクト計画を発表した。Desertecは、Desert(砂漠)とTechnology(技術)の造語である。

完成時にはEUの電力需要15%を供給できるという予測がされている。このDesertecプロジェクトは、2004年から2006年にかけてドイツ航空宇宙センターらが地中海域における太陽光熱発電の潜在能力の研究が土台となっている。

EU域内では、加盟26カ国の全電力網を連係した広域電力網が構築され、域内の電力の融通が行われている。更にこのEUの広域電力網は、北アフリカの電力網と連係しており、環地中海電力網(The Mediterranean Ring)と呼ばれる、超広域電力網が出来上がっているが、アフリカからEU域内までの3000kmにおよぶ直流での高圧送電網の建設と、送電ロスの最小化と言う難問が立ちはだかっている。

また世界最大のダム建設を検討中のコンゴなど、中央アフリカの水力によるクリーン電力をEUに輸出する計画も構想されている。このような太陽光や、風力そして水力の豊富な遠隔地で、人口密度の低い地域においてグリーン電力を大量に発電し、電力需要地へ長距離の直流高電圧で低損失送電する計画は、今後も世界各地で検討されると考えられる。

日本においても、東アジア共同体構想が具体的に進展すると、ロシア、中国、朝鮮半島、台湾などと国境を越えた電力網の建設が必要とされる時代が到来するのではないか。

リチウム関連企業

2010年11月25日 | 日記
(1)SQM(Sociedad Quimica y Minera de Chile S.A.)
SQM社は、炭酸リチウム(Lithium carbonate)の生産能力は40,000㌧で世界最大で、シェア31%を誇る。2005年に水酸化リチウムの生産を6,000㌧/年の規模で開始し、2007年にはリチウム関連製品28,600トンを生産。2008年には42,000トンまで生産能力を高める計画。
SQM社の主要製品は肥料でリチウムではない。同社は肥料の世界シェア49%を占め、この他ヨウ素の生産の世界シェア33%を誇る。

(2)Chemetall Foote
Chemetall Foote社(本社:フランクフルト)は、1923年のMetallgesellschftによるリチウム生産が端緒となり、2004年にRockwwodグループ(米国)に買収され参加企業の1社となった。現在は同グループの Chemetall Group の Lithium Division(従業員2,829名)。リチウム部門は、炭酸リチウム、水酸化リチウム、金属リチウム等を生産しており、金属リチウムでは世界シェア50%を占め、炭酸リチウムでも30%のシェアを握る。
2007年の同社はアントファガスタ(Antofagasta)のアタカマ湖に23,000トンの生産施設と、米国ネバダのシルバーピーク(ラスベガス北方350km)に生産施設を持つ。同社の2008年のリチウム生産は、炭酸リチウム2,700㌧、水酸化リチウム4,000㌧規模で、生産される炭酸リチウムは米国、ドイツ、台湾の同社工場の原料として輸出されており、2008年~2009年には現在の生産能力を約20%増強する計画で、2020年には炭酸リチウム50,000㌧、水酸化リチウム15,000㌧に生産を拡大させる予定。

(3)FMC Lithium(USA 100%)
FMC社はノースカロライナに本社を置き、主として肥料、農薬、産業用化成品製造のメーカーで、ソーダ灰の生産では世界最大。
1986年にLithCoを買収しリチウム生産事業をスタートさせた。当初はスポジュメン(リチア輝石)からのリチウム生産だったが、アルゼンチン北部Sala de Hombre Muerto塩湖において、FMC社の子会社 Empresa Minera de Altiplano S.A が1998年から生産を行っている。生産能力は、炭酸リチウム12,000トン、塩酸リチウム5,500トン。2003年に塩酸リチウムの生産能力を7,250トンに増強している。2007年の炭酸リチウムの生産量は8,500トン程度にとどまっている。
Salar de Hombre Muerto鉱山は、アルゼンチンのCatmarca州北西部、Salta州との州境付近の標高4000mに位置するHombre de Muerto塩湖にあり、この塩湖から高濃度のリチウムを含むブラインを4台の大型ポンプでポンプアップし、吸着・蒸発させてリチウム塩を回収している。Empresa Minera de Altiplano S.AはSalta州に塩化リチウム精製プラントがある。

(4)Admiralty Resource
Admiralty Resource社は、Sala del Rincon (Salta Province)において冠水からリチウムを生産する施設を2008年より稼動させ、生産能力は炭酸リチウム10,000トン、水酸化リチウム4,000トン、塩酸リチウム3,000とされている。

(5)Talison Minerals(オーストラリア)
Talison Minerals社のGreenbushes鉱山は、リチウム鉱物(リシア輝石精鉱)の世界シェア60%を生産し、中国で精製される炭酸リチウム原料の2/3を供給している。2007年に親会社が Sons of Gwalia社からResource Capital Fund社に替わった。同社はパース南東250kmのGreenbushesに世界最大のタンタル鉱床、及びスポジュメン(リチア輝石)鉱床を所有する。スポジュメンの資源量は3,550㌧(Li2O : 3.31%)。

(6)Tantalum Mining(カナダ)
ベルニック湖(Bermic Lake,Manitoba)のリシア輝石鉱山で1986年から生産開始。

(7)Avalon Venture(カナダ)
オンタリオ州のKenora鉱山で葉長石鉱物から湿式抽出法でリチウムイオン電池向けリチウム回収技術を開発するベンチャー企業。

(8)GlobeStar Mining(カナダ)
同社は、ケベック州のMoblan近郊のペグマタイト(巨晶花崗岩)鉱床の試掘をしており、セラミック、ガラス向けのリシア輝石やその他の鉱物生産のフィージビリティ・スタディ(F/S)を実施中。

(9)Nordic Mining ASA(フィンランド)
同社は、国内の炭酸リチウム生産企業Keliber Oy社を買収し、2010年に炭酸リチウム6,000トンの生産を目指して、フィンランド西部のLantta市近郊でスポジュメン鉱床の開発Keliber Oyプロジェクトを進行中で、これが完成するとヨーロッパで最初の自社鉱山による炭酸リチウム生産施設となる。この鉱床はフィンランド地質調査所が計5,500mのボーリングを実施し、Measured 170万㌧(リチウム純分)、Indicated,Inferred 併せて295万㌧の埋蔵量が確認されている。
Keliber Oyプロジェクトでは年間4,000㌧の炭酸リチウムを、粉砕→磁選→摩鉱→浮選の後、湿式加圧浸出方式で生産し、副産物としてタンタルも生産する。

(10)中国企業
中国でのリチウム鉱石生産は1950年代半ばのKokotay鉱山からロシアへの精鉱輸出が最初で、その後1970年代後半までに20のリチウム化合物工場が操業するに至り、1980年代より塩湖の冠水探査を展開し、1990年代、青海省Qinghaiで塩化リチウムの生産を開始。
中国はオーストラリアに次いでリチア輝石から炭酸リチウムを生産する。また中国にとっての最大のリチウム資源はやはり冠水で、最近高いマンガンを含有する冠水からのリチウム抽出技術を完成させ、本格的な生産に入っている。

・Xinjuang Nonferrous Metals社(Mingyaum Jiangsu Province)は、国内産のリシア輝石とチリとオーストラリアから輸入した鉱石から炭酸リチウムを生産している。

・Tibet Lithium New Technology Development社は、2005年に西チベットのZabayu Salt Lake で5,000トンの炭酸リチウム生産を開始している。現在の生産能力は20,000トンに増強されていると推測されている。

・CITIC Guoan Lithium Science Technology社は、2007年 Taijinaier Salt Lake (Qinghai Province)において中国最大となる炭酸リチウム向上を稼動させた。

・Qinghai Salt Lake Industry Groupは、2008年にChahar Salt Lake(Qinghai Province)において、10,000トンの炭酸リチウム生産施設を建設し生産を開始。

・Sterling Groupは、中国最大のリチウム埋蔵量を誇る四川省の Jianjika鉱床の開発を計画。予定では当初生産47,300tpy精鉱量となる。


資源開発とトリウム原子力によるインフラ構築

2010年11月25日 | 日記
新興の発展途上にある国にとって鉱物資源の開発とその輸出が重要な外貨獲得手段である場合が多いが、最近は電力不足がネックとなり、その鉱業生産に支障をきたすようになっている。このような電力不足は南米や、アフリカ諸国などでも共通の課題となっており経済発展の足枷になっている。この点、中国の資源開発は、電力や交通インフラの整備を併せで鉱山開発の権益の確保を行っており、アフリカにおける近年の中国政府・企業のアフリカにおけるプレゼンスは圧倒的である。2008年~2009年の中国のアフリカ投融資額は約200億ドル(約2兆円)を超える。

中国の資源獲得の典型は、ガボン共和国における開発で、5億6000万トンの埋蔵量を誇る今世紀最大の鉄鉱石鉱山を開発し、年間3000トンを中国に輸出するために560kmの鉄道と50Mwの水力発電所3基を建設し、かつ大型鉄鉱石輸送船が接岸可能な港の建設も併せて行っている。このガボンの鉄鉱石鉱山の権益は、鉄鉱石最大手のバァーレ社との一騎打ちで中国機械設備進出口総公司が獲得したもので、最大のポイントは鉄道建設と発電所建設などインフラ整備にあった。

中国の事例からも明確なように新興の発展途上国においてインフラ整備のコアはなんと言っても「電力」である。これは第5章のBOPビジネスに関する調査結果でも明らかとなっており、これから飛躍的な発展を遂げようとする新興諸国にとっては「電力」インフラの整備こそが、もっとも重要で最初に必要なものであることは、昨今の南米における電力不足による資源開発の遅滞・減産で明らかである。気候変動や資源争奪など世界的な状況を勘案すると、新しい視点での電力インフラの構築が求められる。

上記を踏まえ提言としては、現在レアアース採取後、廃棄されているトリウムを燃料とする「トリウム溶融塩原子炉」による途上国での電力インフラ構築を提言したい。
トリウムは、上述の通りレアアースとともに産出する。特に重要なレアアース鉱物である(トリウムを含む)モナザイトは、海岸などの砂鉱床として存在し、チタンの原料になるルチル、イルメナイト及びジルコニウムの原料となるジルコンなど重鉱物漂砂として一緒に採取される。あまり知られていないが、トリウムは、ウランに次ぐ第2の原子燃料であり、ウランのように資源が偏在せず、資源量もウランの3倍から4倍は存在するとされ、資源枯渇も当面は心配ない。このトリウム溶融塩原子炉は、黒鉛減速の熱中性子炉でありフッ化物溶融塩(LiF-BeF2)にトリウムのフッ化物を溶解させた液体燃料が炉心黒鉛の間を流れつつ核分裂し、燃料自ら750度の高温となり、この熱を炉外の中間熱交換器で冷却材塩に渡し水蒸気発電を行う。

トリウム溶融塩を燃料とする小型原子炉

このトリウム溶融塩原子炉は、液体核燃料を使用するため、従来の固体核燃料による原子炉とは構造・特性が明らかに異なる。これはチャーチルが海軍大臣在任中にイギリス海軍の燃料を石炭から石油燃料に転換する施策を実行したが、それに匹敵するパラダイムシフトとも言える。即ち、固体核燃料から液体核燃料への転換である。ただし原子力開発の初期から液体核燃料を利用することの合理性については注目されていた。このトリウム溶融塩原子炉は、以下のような従来の原子炉にない特徴を持つ。

① 炉心構造が単純で小型化でき、燃料の出し入れも容易で連続運転が可能
② 固体核燃料と違い燃料体製造、輸送、解体が一切不要
③ 反応度自己制御性が高く運転が容易で、余剰反応度も最小であるため安全性が高い
④ チャイナシンドローム(炉心溶融再臨界事故)が起こらない唯一の原子炉
⑤ 取扱困難で危険なプルトニュウムや超ウラン元素を消滅させる最良の原子炉
⑥ 燃料サイクルコストは軽水炉の1/3で、燃料体製造と再処理工場が不要

トリウム溶融塩原子炉は、プルトニュウムや超ウラン元素が生成されず、逆にプルトニュウムを火種として一緒に燃やし消滅させることができるため、軽水炉と違い極めて高い核不拡散性を有する。(但し、液体核燃料原子炉であるため、日本製鋼所が圧倒的な競争力を有する圧力容器が残念な事に不要となる。)

前述のとおりレアアースと一緒に産出するトリウムの資源権益を確保することは、取りも直さずレアアース資源の確保と同義である。このトリウムを燃料とする溶融塩原子炉をメイン・ジェネレーターとしたスマートなローカルグリッドの構築により、新興国に安定的かつ大容量の電力を供給し、レアメタル・レアアースなど希少資源の鉱山開発やベースメタルの生産を行う資源ビジネス、および途上国が必要とする交通・通信インフラを構築するビジネスを日本企業の総力を挙げて早急に検討し、実行するべきである。