阿部ブログ

日々思うこと

米国の医療改革とオープン・ガバメント

2010年11月03日 | 日記
2009年2月の米国再投資法(American Recovery and Reinvestment Act:ARRA)のHITEC法(ARRA第13章「経済的および臨床的健全性のための医療ITに関する法律(Health Information Technology for Economic and Clinical Health Act)」)により医療ITに総額190億ドルが配分され、更に2010年3月にはオバマ大統領の最大の公約である医療制度改革法案が下院を通過した事により米国の医療分野の改革は、現在重要な転機を迎えている。特に増税によるコスト負担に対する国民の懸念も払拭されておらず、解決すべき課題は山積しているが、医療の質的向上など様々なメリットをもたらす医療のIT化が、米国の医療改革において最重要であることには変わりない。

この医療ITは、スマートグリッドほど世間の注目を集めてはいないが、着実に進展しつつある事は、オバマ政権のOpen Government政策による情報公開で明らかである。このOpen Governmentとは、透明でオープンな政府を実現するための政策で、連邦各省庁が保有するデータのうち、重要度が高いものを省庁ホームページや政府ポータルサイト「Data.gov」などで公開することで、イノベーティブなアプリ開発を促す政策である。

これにより国民満足度の高い行政サービスの実現につながると期待されているが、このOpen Government政策を推進する省庁の中で最も政府データを有効利用したアプリ開発が進んでいるのは、医療改革の本丸である保険福祉省(HHS)である。同省の最高情報責任者(CIO)は、医療IT企業の起業経験のあるTodd Park氏。同氏のリーダーシップによりHHSのOpen Governmentは大きく進み、多彩なアプリが開発されている。

例えば喘息患者の吸入器にGPSを搭載し発作が発生した位置情報に関するデータを収集するアプリ「Asthmapolic」や、救急病院や、公的保険を受け入れる医療施設などの情報を提供するスマートフォン向けアプリ「iTriage」、画像で解りやすく薬効情報を提供する薬剤アプリ「Pillbox」などがある。これらアプリについては欠点も指摘されているが、議論はオープンな場でなされ必要な修正を施されつつある。HHSによれば、このような医療アプリの開発団体を2011年6月までに100以上にする目標を掲げている。

電子カルテさえ導入が進まない日本の医療行政においては、学ぶべきものが多い政策であり注目されて然るべきである。このような米国におけるイノベーティブな取組を取り入れる事により、日々の医療実務に携わる医療プロバイダが医療ITへの理解を深め、我が国の医療品質が更に向上する事を期待したい。