礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

明治中期の印刷所「滊關社」と島田用定

2022-11-17 02:07:26 | コラムと名言

◎明治中期の印刷所「滊關社」と島田用定

 数日前、神保町の古書店街を歩いていたところ、某書店の店頭に、『神保町が好きだ!』という冊子の第16号(2022・11・13)が何冊か置かれていて、「ご自由にお持ちください」とあった。
 一冊いただいて、さっそく車中で読んでみた。巻頭には、「神保町・辞書と辞典のものがたり」という文章があって(執筆は、野上暁氏)、その中に、次のような記述があった。

 一八八三(明治一六)年二月、西山義行訳の参考書『ウヰルソン氏第一リードル独案内』を刊行する。五月には教科書『ミル氏代議政体』を発行。いずれも好調だったことから、翌一八八四(明治一七)年三月に『英和袖珍字彙』を出版する。四社同盟版ではあるが、これが三省堂として最初の英語辞書出版となる。
 一方で亀井は、大学生相手の店頭での必要性から、ドイツ語をはじめとして語学習得に務〔ママ〕めていた妻・萬喜子の提案を受け、外国語学校の学生だった田中達三郎(後・医学博士)に依頼して、一八八六年頃から独自の英和辞典の編集に着手していた。
 ところが同時期に大倉書店(一八七四[明治七]年創業)が、著名な英学者に委嘱して英語辞典の編集を進めているとの情報が入る。そこで亀井は、完成間近の原稿を廃棄して、後の三省堂の辞事典編集の要となる齋藤精輔〈セイスケ〉をスタッフに招いて再スタートする。
 先行する大倉書店と、発行日をめぐって競争になり、三省堂が独自に製作鋳造した七号活字を、印刷所が同じだったことから大倉書店の辞書にも使ったことでトラブルになる。亀井は大倉書店に発行延期を直談判〈ジカダンパン〉するが、出版社としての力もありページ数の少ない大倉書店の『附音挿図和訳英字彙』が先に出版されることになる。
 そして八か月遅れた一八八八(明治二一)年九月に『ウヱブスター氏新刊大辞書 和訳字彙』を刊行する。これが三省堂初の単独辞書出版となり、大成功を収めて「辞書の三省堂」の礎となるのだ。〈二~三ページ〉

 創業のころの三省堂について述べている部分である。亀井とあるのは、三省堂の創業者・亀井忠一(かめい・ただかず、一八五六~一九三六)のこと。ちなみに、三省堂の創業は、一八八一年(明治一四)であるという。
 さて、右のところを読んでいて、下線を引いた「印刷所が同じだった」という部分が気になった。この「印刷所」というのは、どこの何というところなのか。
 近年は、国立国会図書館のデジタルコレクションという便利なものがある。これで、『附音挿図 和訳英字彙』や『ウヱブスター氏新刊大辞書 和訳字彙』を閲覧し、その奥付を確認してみた。『和訳英字彙』(明治二一年一月刊)の奥付には、
 印行所 東京京橋区瀧山町七番地/滊 關 社 
とあり、『和訳英字彙』(明治二一年九月刊)の奥付には、
 印刷人 東京京橋区瀧山町七番地滊關社/島田用定/東京府士族
とあった。
 そこで、この「滊關社」という印刷所、あるいは島田用定という人物について調べてみた。今のところ、何も手がかりも見出せていない。博雅のご教示を乞う。

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