礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

ウィリアム・マーティンの漢文を読む

2015-05-20 04:57:59 | コラムと名言

◎ウィリアム・マーティンの漢文を読む

 塚本哲三著『漢文初歩学び方考へ方と解き方講義』(考へ方研究社、一九二五)の紹介を続けたい。
 今月一六日のコラムで紹介したように、この本においては、まず漢文の白文が提示され、それについての「考へ方」が説明され、そのあとに「解」がある。
 本日は、次の白文に挑戦してみたい。

【例三】瓦徳童年嬉戯以器煮水句股画地習以為常師長呵斥人
多笑其迂弗顧也及長才敏過人洞察牛氏気機之弊数年研究思
欲除之終能設法補其不足至今所用火輪機関仍瓦徳氏之模式
也(丁韙良)

 驚いたことに、丁韙良の文章である。丁韙良〈テイ・イリョウ〉とは、アメリカ人宣教師ウィリアム・アレクサンダー・パーソンズ・マーティン(William Alexander Parsons Martin, 1827-1916)の漢字名である。若くして中国(当時は清国)に渡ったマーティンは、中国語を習得し、ホイートンの『国際法原理』(一八三六)を漢訳した。その漢訳書『万国公法』(一八六四)は、日本にももたらされ、多大な影響を与えたとされる。
 例三の文章の出典は明らかでないが、あるいは、自然科学の概説書である『格物入門』(一八六八)あたりだろうか。塚本哲三は、この漢文が、西洋人が書いた漢文であることを知っていて、あえてこれを紹介しているのだと思う。
 なお、丁韙良の「韙」は、マーティンが自作した漢字であり、辞書には載っていない。
 さて、この「白文」に対して、塚本哲三は、「考へ方」において、次のように解説する。

 考へ方 瓦徳はワツト、牛氏は牛董【ニユートン】、ワツトの幼年時代の事と、ニユートンの蒸気機関に大改良を加へた事とを述べた文である。句股【コウコ】は三角定規をいふ、直角三角形を支那では一に〈イツニ〉句股形ともいふ。そして図【略】のやうに直角旁の短辺を句といひ、長辺を股といひ、直角に対する辺を弦といふのである。気機は蒸気機関、火輪機関は蒸気機関車即ち汽車の機関をいふ。模式【モシキ】は模範方式、即ちカタ、様式の意。

 あいかわらず、行き届いた注釈であるが、牛氏をニュートンと解したのは誤りである。これは、ニューコメンとしなくてはならない。「解」の紹介は、次回。

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コメント (1)
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