36℃の経年優化

日々一歩一歩自然体で成長し、経年優化を実現するための奮闘ブログ

善を為すもその益を見ざるは草裡の東瓜のごとし

2015-08-22 16:13:30 | 読書


 世の中には読み継がれている古典と呼ばれる本がいくつかあります。
長く時代を越えて規範とされるもの、また人間の本質を捉えたものなど、
流行や価値観の多少の変化に左右されない書物のことです。

 例えば

 孔子の「論語」や孫子の「兵法」といった中国古典
 ローマ皇帝カエサルやほぼ同時代のイエス・キリストの言葉(聖書)
 日本の「徒然草」や「葉隠」「武士道」

といった書物にはやはり現代にも当てはまる人間の真理が描かれており、
だからこそ数百年~数千年にわたり読まれ続けているのでしょう。
最近の本ではドラッカーの「マネジメント」は著されてからまだ40年ですが、
古典化していると言ってもよいかもしれませんね。
 

 さて、そういった各種の古典の一つに「菜根譚(さいこんたん)」があります。
これは中国の明の時代にあちこちで言い伝えられてきた
人間としてあるべき生き方を一冊にまとめたものと言われています。
野草や植物の根といった質素な食事は
噛みしめれば噛みしめるほど真の味がわかるようになる、
この本の言葉も同じであるという意味でタイトルがつけられたのだとか。
(間違っていたらすみません)



 Ozakiは数年前に父親の本棚で「菜根譚」にまつわる本を見つけ、
それ以来、時折取り上げられている言葉を読み返しています。
何度読んでも、なるほどな、と新たな発見があるという意味で
読み継がれるだけのことはある書物だなぁと毎回感心します。



 今後もたびたび「菜根譚」から言葉を紹介するかもしれませんが、
今回は直近一番印象的だった言葉を皆さんにもシェアします。
その言葉とはタイトルにもありますが

 「善を為してその益を見ざるも、
  草裡の東瓜の如く、自ずから応に暗に長ずべし。
  悪を為してその損を見ざるも、
  庭前の春雪の如く、当に必ず潜に消ゆべし。」

というもの。
現代風に訳せば

 善い行いをして、すぐその利益が見えていなくとも、
 草むらの中で育つ瓜のように、
 成果は着々と大きくなっている。
 悪い行いをして、すぐその損失が見えていなくとも、
 庭に積もる春の雪のように
 手にしたと思ったものはすぐに消えてしまうのだ。

となりますでしょうか。



 仕事でもスポーツでも趣味の世界でも、
なかなかよい成果が目に見えない地道な業務、トレーニングは
誰もがやりたくないと思ってしまいますよね。



 会議の資料準備や、出張のダンドリ、
 野球の素振りや、サッカーの走り込み、
 ピアノの運指練習や、家庭菜園の土づくり

などなど、人にあまり評価されず、
わかりやすい結果が出るまでに時間がかかるステップは多々あります。
ただ、こうした行動がなければ仕事でもスポーツでも趣味でも、
見た目に派手な、かっこいい、もしくは楽しさを感じられる
成果は決して得られません。



 草むらで人知れず成長し、徐々に大きくなる瓜のように
こういった準備作業の価値というのは目に見えないようで、
実は「果実」に直結するものであると言えるのではないでしょうか?



 最近購入した本の中に

 「野村克也の『菜根譚』」(野村克也、宝島社)

というものがあるのですが、この本の中でも取り上げられています。
南海ホークスで活躍し、ヤクルトや楽天の監督としても大きな成果を残した
野村監督が独自の視点で(主として野球の観点で)「菜根譚」の
主要なフレーズを解説していくという書籍です。



 この本によれば、野村さんと落合さん(元中日監督)が話をしていた際、
最近のプロ野球若手選手はほとんど素振りをしなくなったという点で
見解が一致したとのこと。
バッティング練習と言えば、ピッチングマシンを使って
繰り返しボールを打つ、そういった選手が増えてきているのだそうです。

 素振りよりも実際のボールを打つという点で、やる側は面白いでしょう。
しかしながら、野村さんも落合さんも自分に合った理想的なスイングは
ボールを打ちながらではなく、何もないところでバットを振る
素振りでなければ固められないのではないかと考えているようです。



 ボールも打たず、同じ場所で素振りを続けるのは非常に地味ですが、
そうやって繰り返し地道な練習を行うことでスイングの基礎が固まり、
最終的にはさまざまなボールに対する対応力が増すのだとか。
一見遠回りで成果が出るまで時間がかかるようにも思いますが、
草むらに隠れて成長する瓜と同じではないだろうか、
と野村さんは本の中で解説されています。



 プロ野球に限らず、我々の仕事においても

 「なんだか地味でやる気が起こらないな」

と思ってしまうことでも、一生懸命やり続けることで、
実は見えないところで、自分自身の成長につながっている、
そんなことがあるのかもしれません。

反復と継続は違う

2015-08-15 15:24:45 | 意識を整える

 少し前に読了した稲盛和夫さんの「生き方」という本から
一つコラムを生み出したのでご紹介したいと思います。

 先週まで二回にわたって世界銀行のキム総裁と
マイクロソフトのビル・ゲイツ氏との会話を紹介しましたが、
今回もその流れを汲む話になりました。



 稲盛さんは同書の中で

 「反復と継続は違う」

ということを主張されています。
一見二つの単語は似た意味を持つように思います。
しかしながら稲盛さんによれば

 反復とは同じことを繰り返すこと
 継続とは昨日よりも少しでもよくなるよう努力を続けること

といった意味合いであるとのこと。
Ozakiなりに言い換えてみるならば、

 反復は同じ場所での足踏み
 継続は一歩一歩前に足を踏み出して歩くこと

そういった違いがあるということでしょうか。

 
 稲盛さんは何事も少しでも工夫しながらやらなければ、
という考え方を中心に主張されていましたが、
Ozakiはそれぞれ必要な段階があるのではないかと考えます。
反復というのは、何事においても基礎を学ぶ時には極めて重要な行動です。

 自転車の運転を覚える時
 何かのスポーツの基本動作を体に染み込ませる時
 英単語を覚える時

これらは単純な反復なしには身に付きません。
まだ基礎ができていない時期にはただただ同じ動作を繰り返し、
出来るようになるまで反復しなければならないでしょうし、
たとえできるようになったとしても、その動作が無意識のうちにできる、
そういうレベルになるまでは反復練習が最も有効なのではないでしょうか?



 Ozakiは来年の目標にしようと思っている将棋の勉強を最近はじめました。
今、羽生名人監修の初心者向け解説書に従って、
「矢倉囲い」という防御の形を組む手順を毎日反復練習しています。
将棋の場合相手が毎回違った攻め方をしてきますので
なかなかお手本通りに囲いを完成できません。
しかしながら、二週間ほど毎日やっていると、手順の中で重要なポイントや
相手が攻めてきた場所を守りながら目的の形に運ぶコツが
ようやくわかってきたところです。

 このように、なにかを始めたばかりの頃は、
とにかく毎日同じことを繰り返さなければ、何が良くて何が悪いのか、
それすら、よく理解できません。
そのため、Ozakiは勉強でもスポーツでも、仕事でもとにかくはじめは
なにも考えずに反復練習をしてきた経緯があります。
(ちなみに社会人になりたての時は会社にかかってくる電話を取る練習として、
なにもないところで左手で受話器をとる真似をし、挨拶と部署名を口で言う、
「シャドウ電話受け」を一日20回くらい、一週間以上続けました。
そうでもしないと、緊張でまともに挨拶すら発声できなかったからです)



 趣味であれ仕事であれ、右も左もわからないうちは
とにかく基本通りを反復しなければ、工夫の仕方すらわからないはず。
そのため、Ozakiは特に何かを始めたばかりの時には反復が重要だと考えます。



 その一方で、ある程度基本的な動作、その分野の基礎知識が
身についてきた後は稲盛さんおっしゃるように毎日工夫をしながら、
少しでも改善できるところがないか、考えながら取り組むことが
上達や成長のカギになるのではないでしょうか。

 自転車の運転が無意識のうちにできるようになって初めて
より安全に、かつスピーディーに移動する方法を考えてみる

 スポーツの基本動作が体に染み込んで初めて
戦略や戦術を学び、より高いレベルでプレーできるよう目指す

 英単語の綴りや発音をしっかり記憶して初めて
多様な人々と英語での会話を楽しむための話術を身に着ける

 といった具合に、基礎ができてからは毎日新しい行動をおこし、
今までよりも少しでも違う結果を目指したチャレンジができるはず。
反復によって基礎ができていれば、たとえ挑戦の結果失敗したとしても、
それは自分自身が工夫した成果ですので、別の挑戦につながります。



 逆に基礎が十分にできており、ほとんど無意識で趣味や仕事が
できるようになっているにも関わらず、まったく同じ動作を繰り返すのでは
そこから先、何かが生まれることはないのではないでしょうか?

 
 反復と継続、似て非なる行動を使い分け、
小さくても継続的に改善を続けることが、
我々の将来を大きく左右するのではないか。
Ozakiはそう考えています。

「イノベーションとは新しいものを創ることではない(その2)」

2015-08-08 02:58:21 | 意識を整える
 

 前回のコラムで世界銀行のキム総裁がマイクロソフト創業者の
ビル・ゲイツ氏と話をした際に

 「イノベーションとは全く新しい技術を生み出すことではなく、
 既にある仕組みをより良くする、より普及させる、
 そういう継続的なプロセスのことである」

という話になったということを紹介しました。



 windowsという全世界に爆発的に広がった新しい技術の開発者が
こう語っている点にOzakiは驚きました。
もし、自分自身の過去の実績を強調するのであれば

 
 「自分のようにゼロから全く新しいものを創りだすことが
 真のイノベーションである」

という発言をしてもおかしくないと思いませんか?
しかしながら、ビル・ゲイツ氏はその正反対の発言をしています。
彼の発言を別の言葉で表現するとすれば、

 「0から1を生み出すよりも1を1.1にし、次に1.5にし、
 そしてその延長線上に1から2が生まれるように継続的に取り組む。
 こうした挑戦こそ革新的な技術を生み出す秘訣である」

といったところでしょうか。



 ビジネスにおいても、何か実績を上げようとした時に

 これまで誰もやってこなかった挑戦で結果を出す、
 全く新しいビジネスモデルを思いつく、
 自社の営業が届いていなかった地域で地盤を築く、

といった0⇒1の取り組みは目立ちますし、もし首尾よく運べば
大きく評価されるかもしれません。
うまくいった時のことだけ夢想すれば、ワクワクするのは事実ですし、
こうした場合によっては無謀とも言われかねない挑戦が
時に人類全体を大きく動かしてきたかもしれません。

 しかしながら、ほとんどすべてのケースにおいてそれらは
大穴を一か八か狙うギャンブルに近いのではないかとOzakiは感じます。

 これまで先人がやってこなかったのはなんらか困難があるからでしょうし、
 机上の新しいビジネスモデルだけでは意義は薄いでしょうし
 新規開拓営業の効率が悪いことは想像にかたくないでしょう。



 他方で、上司や先輩が取り組んできたことを少し自分なりに改善して
時代の流れや顧客の最新ニーズに対応していくことは相対的に地味です。
既にある仕事の進め方、営業トーク、商品開発をなぞるところから
スタートすることになるので、短期的に大きな変化は生まれないでしょう。



 それでも、ビル・ゲイツ氏の言葉を思い起こせば、
長期的には継続して改善を続けること、その取り組みそのものが
「イノベーション」の第一歩であると言えるのかもしれません。
目先の成果や評価だけを追い求めるのではなく、
今あるモノ・コトを少しでも自分なりに良くしてみよう、
少しでもあるべき姿に近づけられるようにしてみよう、
そういった日々の積み重ねが結実した瞬間こそ
より実態に基づいた革新的な成果が生まれるのではないか、
Ozakiはそう感じます。



 時として人間は功名を焦りがちですし、
何かをゼロから生み出したいという気持ちもわからなくはないのですが、
ビル・ゲイツ氏ですら
 
 「継続的な改善の先にイノベーションがある、
 イノベーションとは新しいものを創ることではない」

と言っていることを念頭に、焦らず地道に一歩一歩努力することが
やはり大切なのではないでしょうか。

イノベーションとは新しいものを創ることではない(その1)

2015-08-01 23:23:44 | 意識を整える

 世界銀行という組織があります。
第二次世界大戦中に設立が決定され、1946年からは先進国の復興と途上国の
開発を目的として各国の政府関係機関への貸付を行う国際機関です。 
日本も第二次世界大戦後のインフラ復興にあたって、
世界銀行から多額の借入(支援)を受けて
東海道新幹線や高速道路、各地の発電所等を建設した経緯があります。

 参考情報(日本が世界銀行からの貸出を受けた31プロジェクト)
http://worldbank.or.jp/31project/#.VFetDvmsWoM



 現在の世界銀行は大規模なインフラ開発支援への資金提供のみならず、
各国のシステム改革やエボラ出血熱対策までさまざまな分野に
非常に大きな額を貸し付ける役割を担っています。
もちろん失敗したプロジェクトやアイディアも多々ありますが、
それでもなお国際通貨基金(IMF)とともに世界経済において
非常に重要な組織であることは間違いありません。

 その世界銀行を現在率いているのはジム・ヨン・キム総裁。
先ごろそのキム総裁がOzakiの所属する組織本部を訪問し、
講演と質疑応答を行ったと聞きました。



 その際にキム総裁が語った内容の中に、総裁とマイクロソフト創業者、
ビル・ゲイツ氏のやりとりがあったとのこと。
(講演は日本での話なので、Ozakiは直接現場にはいませんでした)
ビル・ゲイツ氏は現在世界の感染症、特にポリオ撲滅に多額の寄付を
行っていますので、おそらくはその関係で面談されたのでしょう。

 Ozakiが興味を持ったキム総裁の発言は
(繰り返しになりますが元の発言は当然英語で、
さらにまた聞きなので発言そのものではありません)

「ビル・ゲイツはイノベーションというとたいていの人は
 全く新しい技術の誕生をイメージするだろうが、
 新しい技術を生み出すことよりも、既にある仕組みやモノを
 より良くしていく、そしてより普及させていく、
 そういった継続的なプロセスのほうがイノベーションとしてより重要だ、
 と言っていた。
 私自身も日本に根付いている『カイゼン』を世界銀行が支援する
 保健や教育の分野にも取り入れるべきであり、
 それがイノベーションにつながると感じている」

といったものだったそうです。



 ビル・ゲイツ氏と言えば、世界中のコンピュータを席巻した
ソフトウェアであるwindowsをゼロから生み出したIT業界の巨人です。
windowsそのものが「全く新しい技術」と言っても差し支えないはずですが、
その開発者であるビル・ゲイツ氏自らが



 「イノベーションとは新しいものを創ることではない」



と言っているのですから、これは非常に面白い発言ではないでしょうか。



(次回に続きます)