静 夜 思

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欧州を攪乱する小国ハンガリーのふるまい  背景には旧帝国領土喪失で傷ついた民族主義の利用

2024-05-07 07:27:14 | 時評
▼【毎日】<ハンガリー・闘士の「変節」>オルバン政権、隣国住民に投票権 民族主義利用、支持固め 【ブダペストで三木幸治】
 かねがね私は、なぜハンガリー政権はEU/NATOに属しながらロシアに色目を使う独自の外交政策を続けるのか、理由を知りたく思っていたが、その答えがこの記事で見つかった。

 ひとことで言うと、EU加盟後も国際経済の変動に振り回される小国の苦悩でくすぶり続ける国民の不満を巧みに吸い上げ、EUとロシアの間で泳ぎ回る。この芸当をポピュリスト政治家・オルバン氏が
 この20年にわたりこなしている、ということのようで、そのバックにはハンガリーの民族主義がある。以下、この辺りを三木記者が解説している。
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 2011年、ハンガリー議会選挙で3分の2の議席を獲得したオルバン氏は憲法改正を断行した。新しい憲法にはこう書き込まれた。「ハンガリー政府は国境を越えてハンガリー系住民の運命に責任を持たなければならない」。 そしてオルバン氏は一定の基準を満たしたハンガリー系住民に市民権と選挙権を与える法律を制定した。他国のハンガリー系住民はハンガリー政府に税金を支払っていないにもかかわらず、国内の人々に近い権利を得られるようになった。隣国の中でも特にオルバン政権の政策に喝采を送ったのが、EUに未加盟で、1人あたりの国民総所得(GNI)が最も低いウクライナのハンガリー系住民だ。「オルバン氏は、西欧への信頼を失った国民の民族主義を刺激し、政権の求心力を維持しようと考えた」。
 もう一つは、他国のハンガリー系住民を自らの「票田」にすることだった。選挙権を得た隣国居住のハンガリー系住民はオルバン氏を「救世主」とあがめており、18年の総選挙ではハンガリー系住民の96%がオルバン氏率いる与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」に投票した。

 ウクライナ領内のザカルパチア州は現在、人口約120万人。約14万人のハンガリー系住民は国境沿いに集中する。同州は元々ハンガリー領だったが、第一次大戦後にチェコスロバキア領になった。
39年にハンガリーが奪い返したものの、第二次大戦後に旧ソ連が占領。最終的にソ連の一部であるウクライナに組み込まれたという複雑な歴史を持つ。
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記事には第一次大戦後の領土分割(1920年)前の旧ハンガリー帝国と現ハンガリーの領土対比図が添えられているが、ここに転写添付できないのが残念。ざっくり言うと、今のスロヴァキア共和国全部、
ルーマニアの西半分、セルヴィア&クロアチア北部、そして旧ソ連により組みこまれた<ウクライナ領内のザカルパチア州>はかつてのハンガリー帝国の領土であり、今の約3倍の広さである。
 お手元にヨーロッパの地図があれば、想像していただきたい。第一次大戦が欧州及びロシアを大きく変えた出来事であり、それが100年後の今もなお傷跡を残していることを思い起こさせる。
(アジアに第一次大戦は遠い出来事であり、大変動をもたらしたのは第二次大戦だ。この違いがあり、我々は欧州&中東での争いの背景に横たわる歴史に思いが及びにくいのを覚えておこう)。


 この他国領内に残る自民族を取り込もうとする動き、これはまさにプーチンのロシアがウクライナのクリミア半島や東部4州で行ってきた浸透策そのものである。オルバン首相はプーチンの戦略を研究したのだろう。おりしも中国の習近平がハンガリーを訪問中。これはロシアの自民族取り込みへの間接的支援であり、欧米のウクライナ支援への対抗意思の表明になる。
 この姿をみるにつけ、民族感情を利用する政治がどれほど危険で国民を争いに巻き込む劇薬であるかがわかる。日本の混迷する現状をみると、民族主義にはこれまで以上に注意せねば危ないと思う
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