落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

沖縄の人が話さないこと

2017年03月05日 | lecture
公開講座「東京で考える沖縄・辺野古」 第5回 なぜレイプが繰り返されるのか?

諸事情あって少し前から沖縄の基地問題に関わる機会があり、現地も訪問しているのだが。
実際に行ってみていろいろと感じることがあり、もっと知見を深めたいという意識もあってこんな本も読んでみたりしてます。

タイトルはショッキングだけど、内容は普通に社会学の調査報告。
スピーカーの小野沢あかね氏は沖縄・旧コザ市でAサインバーと呼ばれた米兵相手の性風俗店に従事した人々に聞き取りをするフィールドワークをされていて、まあ結果ざっくりいえば、沖縄の米軍関係者による性暴力の背景にこうした官製性産業の存在があることは否定できないということらしい。はっきり名言はしませんけど。たぶん。

性暴力事件といえば、社会的にはどうしても加害者と被害者の個人的な問題にされやすいが、こと基地の周囲に関していえばそうではない(構造的暴力)。
そもそも軍隊が制度化された暴力装置であるからこそ、世界中どこでも軍隊のいるところ必ず性産業があり性搾取がうまれ、性暴力が発生する(関連記事)。なぜなら軍隊では「人を殺せる人間」を養成する。そこでは「暴力をふるうことができる人物」が理想である。しかも軍隊は地域社会とは結びつきがない。よしんば組織にはあっても、そこに属する兵士には任期があり、必然的に時期がくればよそへ移っていく。かつまた彼らには圧倒的経済力があり、性産業に従事する女性たちとの関係性は決して対等ではない。

コザ市で性産業が盛んになったのは、朝鮮戦争が始まって沖縄に基地建設ブームが起こったあとである。
地元住民を銃剣で脅迫し暴力で強制的に排除したうえで設置された基地の周囲に、米兵相手の歓楽街がつくられた。初めそこで働いていたのは困窮した戦争未亡人や戦災孤児、奄美諸島や本部・東村出身者が多かったという。本来は農業地帯だったこの地域の主幹産業はこうして性産業にとって替わられ、男性は基地雇用、女性は性産業か美容院・レストラン・ホテル・衣料品製造販売など米兵や彼らを相手に働く女性が主な顧客となる業種に就く比率が高くなった。地域経済そのものが基地に依存する構造に変わったわけである。
先述の通り、圧倒的経済力をもつ米兵を相手に商売するAサインバーは米軍の認可がなければ営業できない。そしてそのAサインバーの女性と客を顧客とする業種が地域経済の大半を占める。そこに均衡などありえない。そして権力がある側の存在意義の中心は暴力である。さてどうなるか。

一方で米軍統治時代の沖縄のローカル紙の紙面には、ほぼ毎月、米兵の沖縄女性への性暴力事件が掲載されていた。もともと性暴力事件は親告罪であり、暗数(実数と当局の把握している件数の差)が大きい。だから紙面に載るのは氷山の一角だとしても毎月って凄い数です。去年うるま市で起きた米軍属の強姦殺人事件の被告は「日本では報道力が弱いから逮捕は怖くなかった」と供述したというが、被害が露見することがないならなにをやってもよろしいという感覚に陥る人間がいてもおかしくない環境が、営々と醸成され続けているということもできるわけです。極端にいえば。

印象的だったのは、小野沢氏がインタビューした当事者(元ホステス・女給)が、一様にこうした性暴力や過酷な人身売買の実情については明言しなかったといった点。
毎月新聞沙汰になっていた強姦や殺人事件に彼女たちが一貫していっさい関わりがなかった、何の感興も抱いたことがないというのはおそらく真実ではない。またより厳しい条件で働いていたという地元住民相手の性風俗店の女性たちに対しても、何かしら思うところはあったはずである。
個人的には、そこに世間一般の大好きな“自己責任論”の無責任な罪深さを強く感じる。いまも頻発している米兵の性暴力の被害者の多くが、その事実を告発しないのと同じ原理だ。暴力に正当性なんかあるわけがないのに、100%加害者の責任であるはずなのに、なぜか世論は「そんな場所にいた被害者がいけない」「そんな人間に近づいた被害者が悪い」「どうせ殺されるようなことをしでかしたんだろう」といいたがる。事実がどうかなんて関係ない。とにかく加害者の責任や環境要因よりもまずいの一番に、取り返しのつかない傷を負った被害者やその遺族を貶めようとする、それがたとえ同業の人々であったとしても、被害者はただ運が悪かった・何か間違いを犯した、自分とは別な種類の人々=他人事としてかたづけようとする。
圧倒的な共感の欠如。

専門的で聞いてて若干しんどい部分もあったにせよ、沖縄にいって感じたことの裏付けにもなり、さらにもっとこの問題について知りたくなりました。
資料あたってもうちょっと勉強したいと思います。


関連レビュー:
『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』 矢部宏治著
『怒り』
『ハブと拳骨』
『ひめゆり』
『セックス・トラフィック』
『ハーフ・ザ・スカイ 彼女たちが世界の希望に変わるまで』 ニコラス・D・クリストフ/シェリル・ウーダン著

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