自選
「盗作」五首
038:空耳
そら豆の殻一せいに鳴る夕母につながるわれのソネット(寺山修司)から盗作。
幾億のカスタネットの藍と紅うすき朝に空耳の見ゆ
(紅=べに)(朝=あした)
046:じゃんけん
山木蓮うたい出せその手をうえに結んだら春ひらいたら風(おとくにすぎな)
じゃんけんの相手は誰ぞ天空に向かいて辛夷いっせいに咲く
(誰=たれ)
048:来世
斎藤茂吉に「黒貝のむきみの上にしたたれる檸檬の汁は古詩にか似たる」という美味しそうな歌がある。
ひとつひとつは来世に似たり白めきて湯にほどけゆく鮭のはららご
093:全部
「真実を語れ、か。どの、真実をだね?」
(風の谷のナウシカ 最終巻)
全部取つてぜんぶぜんぶと振る手さて、どこの全部をとつてやらうか
098:腕
父として幼き者は見上げ居りねがわくは金色の獅子とうつれよ
佐々木幸綱
抱かれし金色の腕の面影もおぼろとなるや 我四十三
(金色=こんじき)
今年は「文語」「枕詞」の二つを課題にしました。
それと関係があるのか、自分でもわかりませんが、よく言えば本歌取り、はっきり言って盗作の歌もいくつか出来ました。
その中から、五首。
013:元気
ときどき「やだ」って言いたくなる。
「大丈夫?元気出しなよ」叩きくる箇所は誰でもいつも右肩
073:弁
南太平洋のとある島でも、『BENTOO』で通じるという。
〈弁当〉がグローバル語であることの理由を示す史書ひもときし
075:微
クオーツは、時に神経に障る。
死にかけて微かに震う秒針の〈5〉を越えることなきを見つめる
090:恐怖
ズブロッカを、二年間放り込んだままだった。
酒瓶は製氷庫の中とろみゆく(恐怖ならもう、わたしの産毛)
099:イコール
調べてみると、ブルマの歴史もなかなか壮絶なものがある。
同型の紅白帽をイコールでむすべよ〈前に、 習え〉
文語はちょっと苦手なワンコ脳なのですが、詞書のおかげかすっとこころに入ってくる歌が多くて…5首に絞るのに苦労しました。
で…必殺<>「」()かっこつけた歌シリーズで。
私は「099:イコール」かなり苦戦したのですがとっても素敵!
ここには入らなかったものの
039:怠
最近、ネジ式の機械を見ない。
その中のあたたかさゆえオルゴール怠けるごとく弛みゆき、暗
も大好き。
嫌がられてもぎゅっとハグです。
おたがい歌にはかっこつけても、実生活ではかっこつけずに自然体でいきましょう~☆
でも題詠blogで告知されていないせいか、書き込み時点では参加者が少ないですね(^_^;)。
では五首選を。
018:京
『平安京エイリアン』って覚えてます?
風止まり襟をはだける危うさよ平安京はテロ多き京
039:怠
最近、ネジ式の機械を見ない。
その中のあたたかさゆえオルゴール怠けるごとく弛みゆき、暗
054:戯
実は、まだ使ったことがない。
戯れに繰るTwitter顔の無き励ましが背に降りつもりゆく
058:脳
ちょうど、真ん中あたりで作っている感触がある。
春がすみ右脳左脳の間にあると言われしものが歌をつくりき
073:弁
南太平洋のとある島でも、『BENTOO』で通じるという。
〈弁当〉がグローバル語であることの理由を示す史書ひもときし
ロックバンドの生録セッションではありませんが、百首一通りに目を通して「これはいい!」と思った歌を、直感で取ってみました。
「京」の歌は「平安京」と詠んでいるのに「テロ多き京」の結句で、なぜか幕末の新撰組が居た時代の京都が思い浮かびます。
「戯」のTwitterを織り込んだところは、ネット短歌の世界も含んだネットでの人のつながりといったことを、上手く詠んでいらっしゃるなぁと思いました。
今回、文語体にこだわられたようで、口語体にどっぷり浸かっている私には少し難解な歌もありましたが(この短歌における文語体と口語体の関係って、アメリカのヒップホップにおける西海岸と東海岸のようなもの?)、ワンコ山田さんと同じく枕詞が短歌の読みの敷居を低くしてくれる効果がありました。
眠るべき夜をふかぶかと眠るべく 烈 この語こそ静かに響け
幾億のカスタネットの藍と紅うすき朝に空耳の見ゆ
(紅=べに)(朝=あした)
春がすみ右脳左脳の間にあると言われしものが歌をつくりき
のったりと雲の相撲を眺めいる草に背中の汗吸わせつつ
たくさんの言の葉の中から、心に留まったお歌を集めました。
今回も並びを入れ替えて、私の世界を創り出してしまっています。
詞書も拝見しながら読ませていただきました(相乗効果ありですね)
お歌の中に「我」という語が詠み込まれてあってもなくても、百首
読み終えてみると、たしかにそこには「我」の存在感がありました。
厳しいイメージの「我」から、のったりとした「我」へ。
さくら♪色のほんわか仕上げをしてみました。
いかがでしょうか。
015:ガール
恥ずかしさに消えたくなるときって、最近無いな。
ガールイズクレイジーおまえにさらけだすその薄笑みを恥とこそ知れ
020:まぐれ
女子は複数になると、笑ってから話す。
うすわらいする女学生飛ぶ鳥に小石まぐれで当てたるごとく
030:秤
体重計には表情があった。
そそくさと去る者ありてみぎひだり秤の針は揺れ続けおり
049:袋
ナイロン製のエコバッグは、手触りが嫌いだ。
みどりなす袋より出る長葱の頭をよぎり飛ぶつばくらめ
077:対
未だに、親指が攣りそうになる。
掌のなかに対話の新しさたとえば音に出来ぬ気持ちの
タイトルは無理やり付けました。
一首目、ガールイズクレイジー、さらけだす、薄笑みと、若者の不安定さをよくあらわしていると思います。
二首目、若い女性はおそろしい。その万能感ゆえでしょうか。
三首目、映像が見えました。せつない余韻。
四首目、葱から燕へのカメラワークがいいと思いました。
五首目、メールだからこその良さを詠んだものは逆に新鮮かなと。
今年も貴重な機会をいただいてありがとうございます。
飛び入りで参加させてくださいませ。
■ めざめたらまっくら。
午前二時ペットのごとく我にまた爪たてるもの(死ぬまでひとり)
この作品好きです。だんとつ好きです。まっくら。沈黙のなかの死ぬまでひとり。
■ 常夜灯の光って、どうしてあんなに白いんだろう。
夜十時バスはときどき人を吐く春一番のかけらのごとく
■ 一人にしてくれ。
争いの終わりて帰る道なれば接尾語のごと月は従う
「春一番のかけら」ステキです。静かな風景を想像するので、すこし詞書が饒舌に感じられます。
月が従う作品と、かけらの作は、幻想的な雰囲気を持ちながら、光景が思い浮かぶステキな作品だと思いました。
■ 小さい方が勝つ、気がする。
のったりと雲の相撲を眺めいる草に背中の汗吸わせつつ
■ 紙は膨らみ、元に戻らない。
公園に日照雨は振りてあとがきの長き歌集を胸に抱える
こちらはなんとはないのですが、そのなんとはなさが丁寧に描かれているために、とても立体的に感じられた作です。
詞書とは、また、難しいものですね。うーん。
新田瑛さんの選ばれた作品などは詞書が面白く効いている感じがします。
ただ、個人的にはなくても充分かな。と思うものもあるような気がしますです。えへへ。
詞書のポジションとか、必要性や、効果について、考えさせられました。
最近、ろくな短歌も書いてないし、ぱっと現われた者がすみません。お邪魔しましたm(__)m
ワンコ山田 様
「カッコつけたお歌」の選、そういった視点があったか!とちょっと悔しい想いです。
僕自身、「こんなに使ってたのか」と改めて驚いています。
あまり多用しすぎると、ありがたみが薄れる、というか、瞬間芸のみに頼る芸人のようになってしまいそうです。
いかに効果的に使うか、が腕の見せ所ですね。
Hugは大歓迎ですが、驚いてつい叫んでしまっても許してください。あまり慣れていないもんで。
桶田沙美 様
お題を決めての一発勝負、という意味では、確かに題詠への選は、セッションに似ているかもしれません。卓見です。
文語と口語の関係は、「アメリカのヒップホップにおける西海岸と東海岸」というよりは、むしろジャズの電化以前と以後の関係に似ているのではないか、というのが中村の(偏見に満ちた)考察です。
あと、平安京も末期においてはけっこうテロが多かったらしいです。根拠物件を示せ、と言われると困りますけど。
さくら♪ 様
今回も、拙歌で素敵な世界を作っていただき、ありがとうございます。
「短歌は〈我〉の文学」とは、よく言われることですが、僕自身に限って言えば、僕そのものという意味での〈我〉は、極力込めないで歌っているつもりです。
それでも、どうしても自分というものが滲んできてしまう。
だから、おもしろいんですけれどもね。
新田瑛 様
『をんなの園』って……タイトルで、仰け反ってしまいました。
だけど、選んでいただいた五首を改めて読んでみると、
「そりゃ『をんなの園』だよなあ」
と、なぜか納得しました。
僕自身の理想の一つとして、男にも女にも、幼児にも後期高齢者にも、象にも海亀にもなって歌いたい、という願望があります。
そういった意味でも、このような視点での選は嬉しかったです。
花夢 様
おっしゃるとおり、文語とともに詞書の難しさについては、百首を通して痛感しました。
近代短歌以前のように一首の背景を説明するために使用するか。
岡井隆を始めとする先達のように、歌そのものとの相乗効果を狙うか。
どちらも、難しい。あまりにも難しかったです。
それが分っただけでも、チャレンジした甲斐がありました。
花夢さんも、また題詠100首に帰ってきてくださいね。
「自由詠」ももちろん好きだけれど、やはり、ちょっと寂しいです。わがままですが。
詞書と歌がいい具合に響いていると思った歌を選びました。
074:あとがき
紙は膨らみ、元に戻らない。
公園に日照雨は振りてあとがきの長き歌集を胸に抱える
087:麗
川底に耳を押し当てると、カラコロという音が聞こえる。
光とは麗らかな檻 水流に晒せし傷をオイカワは突く
090:恐怖
ズブロッカを、二年間放り込んだままだった。
酒瓶は製氷庫の中とろみゆく(恐怖ならもう、わたしの産毛)
091:旅
あの花の蘂は、弾丸に似ている。
意に染まぬ旅もあるらん花散らし只直ぐに立つナガミヒナゲシ
093:全部
「真実を語れ、か。どの、真実をだね?」
(風の谷のナウシカ 最終巻)
全部取つてぜんぶぜんぶと振る手さて、どこの全部をとつてやらうか
あとがきの歌。
読むたびに、膨らんじゃった本の映像が浮かんできます。
本が膨らんだとは書いていないのにね。私の妄想みたいなものなのでしょう。
その妄想の映像がこの歌と響いて、いいかんじがします。
あらー、なんかうまく表現できませんねー。
麗の歌。
川底に耳をつけるという状況にドキドキします。
そして、その状況で聞こえるカラコロという音。
夢の中にいるみたいで美しくかつ少しこわいです。
歌は状況はよくわからないですが、痛そうです。
恐怖の歌
下句が、好きです。
旅の歌
すぎなさんのあの連作を思い出しました。
全部の歌
ナウシカ読み返したくなりました。
遅くなってすみません。
これからぼちぼち、連作や評論読ませてもらいますね。
自分では、おっかなびっくりの企画(文語&詞書)だったんですが、こうしてコメントもいただけると、やはり嬉しいです。
『題詠2011』ももうすぐ始まりますね。
また、自分なりのペースで走っていきましょう。
評論や連作(拙いものですが)のご感想も、お待ちしておりますね。
今年も、よろしくお願いします。