はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

題詠100首2008 投稿歌

2008年11月01日 05時16分41秒 | 題詠100首2008
001:おはよう
 ハンドルに錆またひとつ浮きあがり霜は蠢く海よ、おはよう
002:次
 (おはなしの次を聴かせて)目を伏せてきみの乳房に額をうめる
003:理由
 冬のゆく理由も知らで唐突に石碑へなだれ落つ梅しだれ
004:塩
 死に体の走者肩からくずれおち臙脂のシャツに塩の濃く浮く
005:放
 高鳶に放てよ飛礫なまぬるき風に応えて松籟は鳴る
006:ドラマ
 ヴィシソワーズ作る手順でろうろうと進行していくドラマスペシャル
007:壁
 窓越しに見るぼくを見ず猫きみはナイフエッジの壁を伝って
008:守
 柔らかく小さな人はやわらかく大きなひとに「守、マモ」と言う
009:会話
 目の前のわたしではなく右脇のシュガーポッドと会話している
010:蝶
 西風はこの尽日も吹きあれて河口を埋めつくす蝶、蝶、蝶
011:除
 外灯はようやくともりシチューから除かれるべき月桂樹の葉
012:ダイヤ
 知床の鮭に食われろ五十八の面しか持たぬダイヤモンドよ
013:優
 優れたる耳朶もつ人よ黒髪を端切れに包む様ぞやさしき
014:泉
 18 til i die 沈むひめますも分子に崩れ泉より噴く
015:アジア
 グルタミンソーダ無辺の風に乗り産着に積もる われはアジアン
 (産着=うぶぎ)
016:%
 (%)いっぱいだねときみの指す星ふたつ背負うてんとう虫よ
017:頭
 頭だけ出したじゅごんは子に告げる「ここから宇宙が始まるのよ」
018:集
 菜の花は曇天のもと集められええじゃないかとええじゃないかと
019:豆腐
 肉厚き沖縄豆腐めろめろと炒まる脇で缶、汗をかく
020:鳩
 ひとつとせ 柊黐の実はあかく鳩ふくだみて地を歩きおり
 (柊黐=ひいらぎもち)
021:サッカー
 ふたつとせ 降り積もれ雪くさはらのサッカーボールの黒はしぶとく
022:低
 みっつとせ 蜜は壺より溢れ出し低きところへ(暗き裂け目へ)
023:用紙
 よっつとせ 斧琴菊を染めだされ青焼きコピー用紙は湿る
 (斧琴菊=よきこときく)
024:岸
 いつつとせ 何処へゆくか岸の辺にうちあげられた足あと狭く
025:あられ
 むっつとせ 群草へふる珠のごと懐中汁粉にあられ沈めり
026:基
 ななつとせ 凪ぎわたる田に浮かび居る基岩の齢いくつぞ
 (基岩=もといいわ)(齢=よわい)
027:消毒
 やっつとせ やわらかなりし実よきみの液は消毒されてしまった
028:供
 ここのつとせ ココアに乳を垂らしつつきのうのお供え物をつまもう
029:杖
 遠ざかる音色よ杖と鉄柵の連弾がゆく とおでとおとお
030:湯気
 靴底の泥かき落とす子どもらを掬うがごとき如月の湯気
031:忍
 快楽を忍ぶがごとく柴犬は主のもとに踞りおり
032:ルージュ
 宮御輿ははの手によりしいちゃんはルージュをひかれおんなに変わる
033:すいか
 色青きすいかころころ陽を浴びて湾岸道路に転がりており
034:岡
 アンテナはゴレンジャーのごとうれしげに岡の上にてポーズ決めたり
035:過去
 ふくらみは果てなくみえて一瞬の過去もろともに波がくずれる
036:船
 嵐かぜアメリカ大陸ほどの船ならば酔わぬか揺れはしないか
037:V
 くちびるを噛む震わせるわたくしにVの音色を届けんがため
038:有
 かげろうは五百億尺上空のコロナで焼け死ぬ権利を有す
039:王子
 咳声と「み」の書き文字にまだ少し王子が残ってると指摘され
040:粘
 虎色のダストは粘り冬よりもまつげ一本分重いキス
041:存在
 幕おりるベティが存在しなくなる袖の台本はまるく反る
042:鱗
 ゆびさきに鱗が生えてくるほどの視線を浴びて繭はやぶれる
043:宝くじ
 宝くじ売り場の中で宝くじ売る人のごと地蔵微笑む
044:鈴
 鈴がふる浜がみるみる光りだす波に半分さらわれてゆく
045:楽譜
 偶数の頁を除いた楽譜もてげに滾々とつむぐ「ボレロ」よ
046:設
 【川越麻紀】「預金課」(笑顔)第3の口座はかくて設けられたり
047:ひまわり
 半ばから折れ崩れたるひまわりの頭をざくと蹴って転がす
048:凧
 引き波に凧たこ沈め繰り糸が大陸棚のかたち教える
049:礼
 さて君に礼を言おうか積もらせぬ水とつもらす砂の境で
050:確率
 きみがぼくにわらう確率≒ネアンデルタールの受精率
 (≒=ほぼ等しい)
051:熊
 杉葉より放たれし雪まじまじと嗅ぐ子熊いてそは牡羊座
052:考
 「考えは箸先に出る」酢醤油に肉饅頭をひたす牡牛座
 (饅頭=まんとう)
053:キヨスク
 キヨスクの雑誌もろとも春嵐のしぶきに染められてゆく双子座
054:笛
 ブイのごと泳帽白き女教師のさげたる笛を奪えよ蟹座
055:乾燥
 風に立つ母なる人の赤髪の乾燥過程を見上げし獅子座
056:悩
 白いとこしかふんじゃだめ《止まれ》からどちらに飛ぶか悩む乙女座
057:パジャマ
 刻々と緋のパジャマは湿りゆく暗きによこたわる天秤座
058:帽
 瑠璃色の濡れ羽を(道路にちらばっていたの)帽子に刺した蠍座
059:ごはん
 「  べつに?いいんじゃないの」生冷めのごはんをよそう手つきよ射手座
060:郎
 身の内に郎を育む友の脇うつむき歩くA型山羊座
061:@
 頭内の@を震わせてぶなの鼓動を聴く水瓶座
062:浅
 浜香のみどりは浅く腹這いて砂の温みを吸い上ぐ魚座
 (浜香=はまごう)
063:スリッパ
 スリッパじゃ踵さむいね中庭で教わるポラリスの見つけ方
064:可憐
 うなじから老いの始まりいる人の可憐にひかる手指の皺の
065:眩
 校庭にはつなつの陽は突き刺さる眩しく陰る楠木の葉
066:ひとりごと
 ハンドルの温みもひいて染みわたる夜霧にひとりごと言うミラージュ
067:葱
 生煮えの葱の滑りよほふほふと左奥歯に浅蜊弾ける
068:踊
 いつまでもあなたを抱いていたいから踊りつづける 歌よ終わるな
069:呼吸
 目を閉じて深く呼吸をするきみの胸がおおきくひろく膨らむ
070:籍
 ほんとうの名前を書こうホチキスで閉じこめられた籍を抜くため
071:メール
 メールでははずかしいからきみの目のゆらぎの前で言葉を紡ぐ
072:緑
 画用紙に全部の緑敷きつめて布バケツからこぼれる日ざし
073:寄
 生垣に車輪を寄せて摘むさつき さつきよ散れよ後部座席に
074:銀行
 銀行のスゥイングドアに照らされて短く光るレモンスカッシュ
075:量
 スカートの裾をバンドにたくしあげ両手で汲む量だけ海は減る
076:ジャンプ
 てのひらに一瞬感じる背の熱さ大きく脚を開いてジャンプ!
077:横
 飲むほどに冴える想い出鈍る舌横に寝かされてゆく空き瓶
078:合図
 フィルターの縁からお湯を注ぎ入れきみに合図を送る(朝だよ)
079:児
 嬰児よ 母の臼歯はいま鯵の眼球部分をすりつぶしている
080:Lサイズ
 整理するたびに少なくなってゆくLサイズだけ仕舞う引き出し
081:嵐
 キッチンは嵐の中で暮れなずみ青いボウルにたゆたうトマト
082:研
 一晩の研究成果を胸に秘め昨日の顔できみに手をふる
083:名古屋
 さすらうには名古屋の路は広すぎて中央分離帯に雑草
084:球
 あんたなんかあんたなんかとにらみつけ胸にめがけて珠を放った
 (放った=ほうった)
085:うがい
 天井にうがいの度に気付く染み今朝は私を責めてるような
086:恵
 きっぱりと潮風は吹きはつなつの恵みの煮られゆくラタトゥイユ
087:天使
 今ここに天使が座っていたよってまるまるふとる畑のキャベツ
088:錯
 ありふれた言葉がひとつ消えるたび錯乱してゆくキンポウゲの香
089:減
 ゴールへと近づくごとに減っていく(ううん、ビールは今はいらない)
090:メダル
 ふるぼけた写真とともにしまわれた金のメダルに甘噛みの跡
091:渇
 唇を重ねてちょっと傷つけるだけで渇きは癒やされるから
092:生い立ち
 生い立ちに加えるべきか今受けた吐息も叫びもない平手打ち
093:周
 草原の中よこむきに眠りおる猫の周りを羽虫はめぐる
 (草原=くさはら)
094:沈黙
 茶を啜る僕らのあいだかたかたとゼンマイ仕掛けの沈黙が行く
095:しっぽ
 夏木立しっぽでぶらさがる猿をもいで小籠に収める娘
096:複
 複雑な軌跡を描き蜜色の果実はやっと異臭を放つ
097:訴
 かき揚げのような数値を眺めつつ甲状腺医は訴えを聴く
098:地下
 土中の命と水を貪って下仁田葱は地下へと伸びる
 (土中=つちなか)
099:勇
 このドアはどうせ並んでくぐれない降車ブザーよ勇ましく鳴れ
100:おやすみ
 音という音を吸いこみ夕凪がそろそろ終わる海よ、おやすみ

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