「五首選会参加(見本を兼ねて)」
自選
ですます じゃない五首
023:必
「必ず」の書き順ひとつ知らないで生きてこられたあなたとならば
043:輝
後出しが座右の銘の人生に今日もしずかな冬の輝跡を
059:貝
砂浜にからす貝がら敷きつめて夏が夕日になるまで待てば
071:籠
たとえば夏のわたしが好きなのは籠で魚を飼っている人
089:喪
てのひらで背すじをすっとなであげて赤い喪服をまとう子どもが
今年のテーマは「ですます」調。丁寧語で短歌を作ってみよう、という試みでした。
が。
見直してみると、四分の一以上が、丁寧じゃありませんでした。
でもですね、よく読むと「ですます」の匂いが、どの歌にも漂って……こないか。
なので、(開き直って)丁寧語でない歌の中から、五首選んでみました。
相変わらず、意味の取れない歌が並んでいます。
これらを作ったとき、自分は何を考えていたのだろう―――?
読む人の心持ちによって、言葉はまったく違った姿を見せる。
そんな当たり前のことを、改めて思い出させてもらえました。
正直、軽い気持ちで作った歌ばかりです。
それに、物語を―――
―――「これからも語り継いでいかなければならない、本当の物語」を、重ねてくださったことに、身の引き締まる思いです。
ありがとうございました。
これからも、気軽にお越しくださいね。
公転を止めればいいと思うんですスーパーマンがやってたように
網の目にたわむれてくる蔓草はやがて闇をも絡めとります
夜明けです隣で膝を抱えてる昨日がだんだん薄くなります
大丈夫 それぞれの座に帰るため互いに抱いているのですから
これからの10年のため 先達の宝のために歌いましょうまた
「転」
スーパーマンなら、公転を止めるだけでなく季節を戻してください。
大切に守りたい人達がいたのです。どうか、どうか、あの日の前に。
「たわむれ」
波にさらわれた後の土地にも、新しい生命の息吹が見られます。
たくましく、優しい生命の輝きが、たとえ初めは弱々しくても、いつか
きっと闇を照らす光になりますように。
「隣」
停電が続いていた日々の中で、「夜明け」という言葉の持つ本当の
意味を実感しました。
「座」
2011年の私は、「大丈夫」「ダイジョウブ」と呪文のように繰り返し
声に出し、心で念じていました。無理やりにでも笑顔を作って、そう
言い続けることで、相手よりも自分を鼓舞していたのかもしれません。
「先」
苦くて辛い「if」をたくさん抱えながら、それでも、これからを生きて
いきます。何かの、誰かの力で生かされた私ですから。
ありがとうございます。
かしこ
珠弾 様へ
なんと言いますか、ツボ突きまくりな選で、感心するやら、笑うやら、ガッツポーズ作るやら、です。
沢村忠と風見志郎!
あのふにゃふにゃ歌の群から、これだけの物語を紡ぎ出すとは。脱帽。
ちなみに、「神社の杉」の歌は、塚本邦雄の
忍法夙流變移拔刀霞斬り 眼疾のはてにわが死はあらむ
が下敷きになっています。
歌格に天地の開きがあるけれど。
冥亭 様へ
挙げていただいた五首を見ると、確かにちょっとだけ寂しい感じがしますね。
歌の挙げ方並べ方によって、世界が全然違って見えるのも、短歌の面白いところです。
「短歌で桜にケンカ売る人はまず居ないので」
あー、確かにケンカ売ってるわ、こりゃ。
作ったときは、ほとんど何も考えてなかったんですけどね。「桜、ジャマ」みたいな感じで。
ソメイヨシノも好きだけど、最近は山桜の渋さも分かるようになってきました。
壬生キヨム 様へ
萌えキャラ。
なんか最近、その類の単語が、身近に集まってるような。ツンデレとか。
などという冗談(じょうだんですよ?)はともかく。
「どうしてこの言葉とこの言葉が同じ短歌の中にあるんだろう?」
という疑問は鋭くて、実は自分でもまったく分かりません。
その謎も、短歌の面白さ、ということでひとつ。
あと、地名短歌、多かったですか?……あ、多いわ。
ワンコ山田 様
きみにならいいか壊れて溶けるまで騙され騙され使われていて
いやです、と首をふりふりもだえれば解けなくなって溶けて無くなる
おお、期せずして贈答歌!
こういうことがあるから、短歌は止められませんね。いろいろ探すと、もっとありそうな?
今回は、自分のキャラ(てゆーか)と違う歌作りをしたので、やっぱりちょっとカッコつけてるのが多いですかね。
芝居のように、もう一人の自分を作り上げるのも、歌作りの醍醐味。
でも、結局は自分の一部でしかないんですけどね。
「領空権争奪」、しましたねえ。
まだ、決着がついていなかったような……ふっふっふ。
004:果
日が射せばそれだけでもう春ですね因果っていう言葉、好きです
023:必
「必ず」の書き順ひとつ知らないで生きてこられたあなたとならば
028:脂
世の中を指の輪越しに見ましょうよ油脂せっけんのあぶくで出来た
042:稲
いつまでが早苗でいつから稲でしょう田んぼの上はどこも空だけ
075:溶
いやです、と首をふりふりもだえれば解けなくなって溶けて無くなる
「果」の歌、「因果」ってちょっと怖いめの言葉に「日」「春」「好き」の甘めの言葉を絡ませて、季節の移ろいに因果を感じたのかしら。
「必」の歌、大丈夫、その人とならおおらかに暮らしていけること間違いなし。
「脂」の歌、普通、指の輪っかに作った石鹸の膜はふぅと吹いてシャボン玉を飛ばすのでしょうが、そこを中村さんは(その膜越しに)「世の中を見ましょう」って!
なかなかの厭世感?
いや、もしかしたら「虹いろににじむすてき世界」が見えるのかも。
「稲」の歌、空と言えば私と「領空権争奪」をしたのを覚えてる?
田んぼの上は「空だけ」……雲ひとつない空も稲光が走る空も、アメリカ軍のジェット機が飛ぶ空も全部空……でも、「空だけ」。
中村さんとお散歩したら、今まで自分が見落としていたことをいくつも教えてもらえそう~って感じる歌。
「溶」の歌、奇しくも私が「きみにならいいか壊れて溶けるまで騙され騙され使われていて」ってOKを出してしまったのに、中村さんは「いやです」って身もだえたのね。
そして、サンボの虎のバターじゃないけど首をふりふりしているうちに溶けちゃうんだ。(嘘)
私は首を「ぶんぶん」振ってたんだけど、なんとなく自分の歌と妙に絡んで不思議な感じがしたので選びました。(妙に気にかかるって感覚)
以上、ワンコでした∩^ω^∩
素敵な100首をありがとうございました。
5首選にはじめて参加させていただきます。
「そうですね、そうですか」
004:果
日が射せばそれだけでもう春ですね因果っていう言葉、好きです
011:揃
前髪を揃えることで体温を失えるなら安いものでしょ
024:玩
さすがに今は自前のものを玩ぶことのほかにも役立ってます
032:詰
ふふ別にかまいませんよ詰問のようにキャベツの葉を選り分けて
097:尾
冬ごもりするシマリスのもふもふの尾っぽは布団になるんですって
ちょっといじわるな年上のおにいさん。
という萌えキャラに言われたいという設定?で選びました。
というのは、じょうだんで(?
好きな短歌を5首選んで、並べてみたら、そんな設定が思い浮かんでしまいました。
中村さんの短歌は、どうしてこの言葉とこの言葉が同じ短歌の中にあるんだろう? って思う短歌が多かったです。奥の深いところまでもぐってゆきたいと思いました~
番外編として、神奈川地名短歌を揃えてみたかったです(笑)
「ほんのすこし、さびしい」
018:希 最後まで小箱に残るべきでした「希ナ望ミ」という咎人は
020:劇 とりわけ逢魔が刻の冬の場は無言劇から始まるのです
035:むしろ 涼しみを第一目とするのなら桜はむしろじゃまな花です
042:稲 いつまでが早苗でいつから稲でしょう田んぼの上はどこも空だけ
089:喪 てのひらで背すじをすっとなであげて赤い喪服をまとう子どもが
短歌で桜にケンカ売る人はまず居ないので、これはいただき。
田んぼの上が空だけ。うわ~発見だなぁ、しかも俳句風味も効いていて。
自選もされていた「赤い喪服」は、目の前にはっきり立ち現れて見事。
先生、本日は私自身のことで参りました。折り入ってご相談があります。そう言って私は話を切り出した。
一線から身を退いて三年。次世代育成の任を承った私でありますが、わが闘争心は衰えることなくむしろ現役時よりも増していること。この昂りを鎮めるにはふたたび白いマットのジャングルに身を投じるしかないであろうことを。
「日が射せばそれだけでもう春ですね因果っていう言葉、好きです」
たしかに先生のおっしゃる通り、闘う男として生まれた私の死に場所はリングしかありません。左膝に抱えた爆弾が破裂するに至ってもそれは因果応報というものでしょう。
「ずぶぬれが似合いましたね小田原に巨きな象がいたころのこと」
ああ、懐かしい。血の小田原決戦ですね。思えばあの頃は[グローブイエイダ]の全盛期でした。金本のアニキを筆頭にそうそうたるメンバーがおりましたからね。かくいう私も鉄砲玉なんて呼ばれて意気がっちゃあ問題を起こして、家井田先生には本当にご心配をお掛けしました。
フフッ……あ、いやあ、こんな殊勝な言葉を口にするようになるなんて……もしあの頃の自分が現在の私を見たらどんな顔をすることやら…。
先生、こんな私に目を掛けて下さって本当にありがとうございました。
深々と頭を下げる男
家井田は目をとじてロッキングチェアにもたれたまま弟子の話を聞いているのかいないのか
……先生?
「話なら聞こえてますよまばたきを深く続けていただけだもの」
一刻半後、家井田邸を辞した男はかえりみち師が別れ際に言ったことばの意味を推し量る。
「直ぐに立つ神社の杉のかなしくて上段真空飛び膝蹴り」
中村さん今年もお邪魔いたします。上記五首が珠弾セレクション・ファイブです。
「ずぶぬれが似合いましたね」と「神社の杉のかなしくて」の二首が好きな歌です。
個人的な話になりますが、〈巨〉の歌で浮かんだのは川原泉「フロイト1/2」の一場面であり、〈蹴〉の歌で過ったのは「……仮面ライダーV3風見四郎は改造人間である。謎の組織デストロンに改造手術をうけたが、仮面ライダー1号2号により仮面ライダーV3として甦った…。」のナレーションでした。
“真空飛び膝蹴り”から想起されるは「キックの鬼」。
なれど「神社の杉のかなしくて」。
昭和五十年代前半のリアルヒーロー沢村忠と風見四郎のV3。
真空飛び膝蹴りとライダーキック。名こそ違えど。
技を繰り出す上段の。
「神社の杉のかなしくて」
決着(けり)をつけねばならぬ時の時。
鬼がリングで見る星は。