はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

一日一首

2012年09月26日 18時50分57秒 | 日詠短歌

2012/8/27(月)
   そうか、あの花をさるすべりと呼ぶのか。

 頭髪をあみだに包む深蒼の巾一まいに照り尽くす陽は


8/28(火)
   もう何日、雨を見ていないだろう。

 日没の街のにおいを巻き込んで個人発電風車の渦は


8/29(水)
   銚子で秋刀魚の水揚げが始まったそうな。

 ガラス屑ひとつ鉄路に投げ込めばえのころ草が陽を受けていた


8/30(木)
   「題詠100首」8回目の完走。塵も積もれば、

 薄れゆく暑さのなかを蒼咲きの桔梗は月へ刃向かうように


8/31(金)
   ランドセルって、どこの国から来たんだろう?

 肉厚の花を傾げて駈けあがるパイナップルヒル 風は海から


9/1(土)
   秋祭りの山車がにぎやかに通りぬけていった。

 灰かぶり姫の被るはなんの灰九月最初の朝の雨ふり


9/2(日)
   降ったり止んだりふったりやんだり。

 紫陽花の花のかばねの醜さよあつまる水を収めきれない


一日一首

2012年09月19日 18時29分17秒 | 日詠短歌

2012/8/20(月)
   朝晩は少し涼しく、と思ったのは錯覚だった。

 夕凪に黒の日傘を巻きながら影ひとつぶん先の娘へ


8/21(火)
   《キリン 秋味》(アルコール分6%)が、スーパーに並んでいた。

 林から原へと虫の音は移り今宵三日の月のするどさ


8/22(水)
   秋虫のすだきが、空き地に。昼の猛暑はなんなのだ。

 あかねさす明滅灯に先は濡れ夏の余熱を放つクレーン


8/23(木)
   扇風機の羽根は、一日に何回転しているんだろう?

 蝙蝠傘を低くひろげて日没を待つあいだによ夢の切れぎれ
 (蝙蝠傘=こうもり)


8/24(金)
   過程と結果はワンセットじゃない。それらは別のものだ。
   結果を出せない努力に意味はない? 愚かしい詭弁だよ。
   過程と成果はそれぞれ独立したものだ。
   時には選ぶこと自体が、答えになる事もある。
     (『Fate Prototype』)

 それはまあ《義》って付き合いにくくってけれど根刮ぎ刈られた蔦は


8/25(土)
   たいていの人は、いじめられた経験を持っている。
   いじめた経験も、実はけっこう忘れられない。

 ひと筆に詠むつぶやきよ電源を入れてたやすく糸はつながる


8/26(日)
   気付けば、稲穂が頭を垂れはじめている。

 実りにもくきやかすぎる大気にもまだなお蝉にしがみつく夏


一日一首

2012年09月11日 18時48分42秒 | 日詠短歌

8/13(月)
   野菜の牛馬が、門の内に頭を向ける。
   そんな家を、何件も見た。

 縁石へ「蜥蜴」の文字を描く少女流れる雨に足をひたして


8/14(火)
   正直、冷製パスタを侮っていた。

 空仰ぎにわかの雨を受けとめる口腔内のすこやかな赤


8/15(水)
   家族親戚と会食。
   祖母とも久々に会えた。

 一本に立つ山百合の大きさをこわごわ覗くスカートの青


8/16(木)
   お盆でも来庁者の数は変わらない。いや、だからこそ、か?

 送り火の燻りの香をゆうらりと巡らせてゆく東の風は
 (燻り=くすぶり)


8/17(金)
   掃除のおばさんからおみやげ。
   郡上踊りに行ってきたと。

 清流の袖をしぼるも忘れては濡れるにまかせ踊るかがり火


8/18(土)
   久々のビアガーデン。
   大学時代の友人と。

 何回も脱ぎ替えられるシャツだからジョッキの露に触れたところで


8/19(日)
   有りありて吾は思はざりき暁の月しづかにて父のこと祖父のこと
     (『山谷集』 土屋文明)

 証裏には臓器提供意思表示5時半にもう陽は沈んでた



「Robin's Blue」について

2012年09月09日 18時32分30秒 | 日詠短歌

下の一連は、『第五十五回 短歌研究新人賞』に応募した作品です。
例によって一次予選堕ちだったので、供養のため、こちらに乗せました。

特定の小説や音楽に触発されて、連作を作ることが多いんですが、今回もそうでした。
下敷きになったのは、ビジュアルノベル『魔法使いの夜』(TYPE-MOON)。

数年前にも、同会社制作のゲームをモチーフにしたことがありました。
どうも自分は、この会社の作品と相性が良いらしい。
―――と言っても、コンピュータゲームは、他にほとんどやったことが無いんですが。

これもいつものことですが、その作品の世界をなぞっているわけではなく、それを核にした心象世界を(勝手に)作り上げ、描写する、といった方法を試みています。

ただ、見るからに構成が甘いですね。
もう少し、固有結界を明確に固めてから、作れば良かった。
機会があれば、再挑戦してみたいテーマです。

よろしければ、ご感想などお聞かせ下さい。



Robin's Blue

2012年09月09日 18時25分36秒 | 日詠短歌

     Robin's Blue



春寒の湖のあお鳥はなぜ翼を閉じたまま死ぬのだろう

宝石をひとつ落とせば岸辺まで波紋が届くはずの霞の

弦楽器鍵盤楽器打楽器の前身たちが織りなす色は

鏡などここに無いのに霧のなか翠の瞳がそこここに浮く

水に掌を地に足を着き天を見る空いた喉から零れ出るもの

寒さとは指の感じることであり水に犯されてゆく草原

これは花 あの冬の日の屋根裏で嘴を翼に埋めつつ見た

白磁器の錬金術に穿たれて紅を濃くしてゆく茶の雫

名前とは呪いのひとつ スプーンで Diddle Diddle 皿を砕いて

傷がまた経験となりわたくしは月を射落とす矢を蓄える

射られるのならばそれでもかまわない空と水とが私を染める

浪々とけものが草を食んでいる笑みとは人の特権ではない

遠吠えは敵意の故か全身にまとわりついた月の油の

疾走を始める獣わだかまる茨の下にこそ道はある

走るはしる奔る光は影であれ空間であれ貫く蛟

少女の羽根が舞い散るところまで落ちて動かなくなる所まで

鳥たちは腹を裂かれる自らが飛べなくなった償いとして

流木は打ち上げられてまた退いて共に引きずられる羽根の陰

揚がるには泥の岸しか目につかず羽根を休めるには木が見えず

牙はただ牙としてのみ使うだけ希望というは呼ばれたとたん

死ぬるにも対価を払う今の世か小指ひとつを彼に差し出す

魔女たちが跋扈するほど夜は無く淡さに沈む街の峰々

古来魔女はけものと共に住むからに亡骸ばかりそばに置くきみ

失ってゆけるのならばそれもまたあなたの山は街に囲まれ

首輪すら受け入れてなお君たちは星と陽のみを光と呼ぶか

かつてこの果てなる郷に「惑星は瞬かない」と言う人がいた

刮目せよ我は無色の力なり同心円に星を包もう

辺境の中心という矛盾すら叶えられることこそ魔法

削ぐものは数あまたあり削がれぬと抗するものも たとえばひかり

交わりはもうすぐそこに横たわる鳥と獣はいま、蒼のなか


一日一首

2012年09月05日 18時22分51秒 | 日詠短歌

2012/8/6(月)
   跳躍の選手高飛ぶつかのまを炎天の影いきなりさみし
     (『空には本』 寺山修司)

 ランナーをくるむがごとく紫のゆらめきがあり、また通り雨


8/7(火)
   娘のような年の子でも、けっこう話題は見つかるものだ。

 貨物車の架車きしみつつ機動車の背を越す勢いぞ、夏薊


8/8(水)
   大家さんが、繁茂する蔦を根こそぎ刈り取ってくれた。
   無くなったら無くなったで、ちょっと……と言うのは贅沢。

 ベースボールキャップの鍔を南西にぐいと向け直せば銀の海


8/9(木)
   オリンピックは、なぜ真夏にやるのだろう。

 蝉しぐれ葛のごとく四肢へ巻きつけば捻れてそこここにバグ
 (葛=かずら)


8/10(金)
   食欲もそこそこ、眠りもそこそこなのだが。

 歩一歩ごとのめまいはさなきだに震えひろがる夜の夏のなか


8/11(土)
   日本のインテリは「荒野」「曠野」などの言葉を好んで使い、
   これを口にする時、涙を流して喜ぶ癖があるが、
   現実の「荒野」とは、まず第一に大変カユい所である。
          (『日本の川を旅する』 野田知佑 新潮文庫)

 ページ繰る歌集に縷々と挿まれてゆく蝉時雨 羽虫 木漏れ日


8/12(日)
   「人生において大事なことは、勝利ではなく、競うことである。
    人生に必須なのは、勝つことではなく、悔いなく戦ったということだ」
    (ピエール・ド・クーベルタン男爵)
   参加することに意義がある、と言ったのではなく。

 払暁の六畳の辺にござを敷き膝抱くあれは船ではないか



一日一首

2012年08月29日 19時45分48秒 | 日詠短歌

2012/7/30(月)
   扇風機の風を浴び続けると、良くないそうだが。

 野菜庫の取っ手を押せばアボカドに眠れる種子は遊星に似て


7/31(火)
   エレベーターやエスカレーターを使ったほうがいい人ほど、使わない不思議。

 両頬をはさむ十指のつめたさに汗が一粒膨らんで 月


8/1(水)
   葉月。柵に蔦の葉が繁る。

 落陽の泉に放る王冠よコロナビールを口呑みにして


8/2(木)
   風鈴や蝉の声は、西洋人には騒音に聞こえるのだとか。

 鉄鈴も押せない風か溶けかけのチョコレイトひとつ口に押し込む


8/3(金)
   冷たいものばかりだと胃が疲れる。分かってはいるが。

 曇りはもう落ちないだろう苦瓜の腑削ぎおとす銀の大匙
 (腑=わた)


8/4(土)
   Ah 上を見上げれば届きそうな夢ばかり
   ガラスの天井があるとも知らず
           (「ガラスの天井」 辻 仁成)

 原のなか頁を跳ばす風がある受けつづけてもう感じなくなる


8/5(日)
   こんなに雲があるのに、太陽を避けて流れるのは何故だろう。

 積雲の縁をますますくきやかに取り込む蒼い、青い天蓋



一日一首

2012年08月22日 18時31分22秒 | 日詠短歌

2012/7/23(月)
   ガス入りミネラルウォーターを買う。
   ビールだと、飲み過ぎてしまう。

 西の陽にマンション群は曝されてきらめき刻むこの魔法陣


7/24(火)
   露と落ち露と消えにし我が身かな浪速のことは夢のまた夢
    (秀吉)

 夢であれ現世であれ桜海老のみが醸せる舌のにがみは


7/25(水)
   湿度高し。薄い水の中を歩いているような。

 ざあざあと呼吸のたびに溜まりゆくものを固めるすべを教えて


7/26(木)
   この季節、朝、窓の外にカナブンっぽい虫が死んでいる。

 流水の常に身近にあることの橋はいつでも燃やせることの


7/27(金)
   食欲はあるが、うなぎはちょっときつい。

 菜園のトマトのすきま縫いながら首筋だけを焼いて西風


7/28(土)
   蝉の声を今年初めて聞いた、なんてはずはないのだが。

 蜻蛉とんぼ、ここにとまれや麦藁帽子のうえに留まれやまぐわいのまま
 (麦藁帽子=むぎわら)


7/29(日)
   炎天下真ん中の棚左下 (中村)

 それはまあ道も撓っているけれどとにかくここは水音がする
 (撓って=しなって)



一日一首

2012年08月17日 20時40分26秒 | 日詠短歌

2012/7/16(月)
   久しぶりに見た富士にはまだ雪があった。

 「戦ぐ」との文字のきつさに田はゆれて丹沢山塊くらぐらと風


7/17(火)
   強風、蒼天。太陽が痛い。

 遮ってしまえばそりゃあ刻まれる光は常に物体として


7/18(水)
   梅雨明けの爽快さは、むろん、無い。

 いずれは脛から腰へ満ちてくる廃油か、ならばここなのだろう


7/19(木)
   予想より涼しかった、のは体調のせいもあるか。

 夕立に朽ち木を抱いて沼の辺の浜昼顔はたわむことなく


7/20(金)
   鼻風邪程度にとどめたい。

 濡らされて夏は風邪のオトシブミ噛み千切られる葉脈ほそく
  (風邪=ふうじゃ)


7/21(土)
   白玉かなにぞと人の問ひし時露とこたへて消えなましものを
     (伊勢物語 第六段)

 肌寒の今日は文月ふみのつき波紋に消してミルクは鉢に


7/22(日)
   長袖が恋しいのも、今日までらしい。

 花の色はひかりの度に名を増やし〈自由〉なんだね〈選ぶ〉ってことは



一日一首

2012年08月16日 18時33分09秒 | 日詠短歌

2012/7/9(月)
   新システム稼働初日。新しいものは、たいてい評判が悪い。

 峰々のうねりは今も背筋を振るうあの日も金色だった


7/10(火)
   嫌悪の一原因は、羨ましさにある。と断言するのは行き過ぎだが。

 ながすぎる夕日を巻いて銀輪の群れせまり来る青信号は


7/11(水)
   朝、赤くないアカトンボがたくさん飛んでいた。

 青銅の鏡の部屋にとじこめる光線・少女・羽音・分針


7/12(木)
   風音ばかりが耳につく日だった。

 きみだけのきみだけによるきみの待つ女王陛下 風の群がり


7/13(金)
   紺色のうねりが のみつくす日が来ても
   水平線に 君は没するなかれ
   我らは山岳の峰々となり 未来から吹く風に頭をあげよ
        (「紺色のうねりが」(『コクリコ坂から』より)

 このままがいいというならそれもよし鰆をほぐす箸先の濡れ


7/14(土)
   結婚すると綺麗になる。ことも、あるようだ。

 浜風に掘りおこされてミトンには右と左があるということ


7/15(日)
   最近気付いたのだが。
   どうやら俺は、《書く》ことが好きらしい。

 べつになにを知りたいっていうわけでなくエンターキーを打つしあわせに