フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

1月25日(木) 曇り

2007-01-26 12:09:11 | Weblog
  午後から大学へ。研究室で卒論を3本読む。1本読み終わるたびに、息抜きに生協文学部店に行く。文庫本ばかり4冊購入。

  岸田秀『古希の雑考』(文春文庫)
  盛田隆二『金曜日にきみは行かない』(角川文庫)
  あさのあつこ『バッテリー』(角川文庫)
  ジョージ・オーウェル『動物農場』(角川文庫)

  岸田秀さん、もう70歳を越えたのか(単行本が出たのは2003年)。アルバイトでかかわっていたある研究所のインタビュー調査で、経堂にある岸田さんのご自宅にうかがったのは25年ほど前、私が大学院生の博士課程に在籍していた頃のことである。岸田秀×伊丹十三『哺育器の中の大人 精神分析講義』(1978年)を読んで、岸田さんのファンになっていた私は大いにはりきってインタビューに臨んだのだが、意に反して凡庸な内容のインタビューになってしまった。後日、テープ起こしをして編集したインタビュー原稿を岸田さんに送って目を通していただいたところ、赤ペンでびっしり加筆・修正された原稿が返ってきた。そこには岸田さんが言ったことではなく、言わんとしたことが書かれていた。私はインタビューでそれを的確に引き出せなかった自分の力不足を恥じた。もしいまお目にかかることができたなら、もう少しましなインタビューができるはずと思うが、伊丹十三さんの自殺についてどう思うかという質問(それが一番うかがってみたいことである)をできるかどうか、これについては自信がない。
  夜、二文の基礎演習のコンパ。明治通りの「わっしょい」という居酒屋で、カラオケルームのような完全な個室(和室)だったので、周囲の喧噪がシャットアウトされ、普通の声で話ができるのがよかった。コンパの終わりに花束をちょうだいした。花束贈呈の前に、幹事のNさんが「先生、目をつぶっていて下さい」と言ったが、あいにくコンパ会場にみんなで来る途中、前を歩いていた学生が花束を手にしていたので、これを後でいただけるのだなとすでにわかっていたわけで、驚いたふりをするのも大変である。二文の基礎演習は毎年担当しているが、クラス全体のまとまりのよさ、仲のよさでは、今回のクラスは最上位に位置するだろう。ここで形成したネットワークは、来年度、それぞれが異なる演習のメンバーになっても、きっと機能し続けていくだろう。私はクラス担任ではなくなるが、基礎演習で教えた学生については卒業までアフターケアをするつもりであるから、何かあったら(何もなくてもかまわないが)、研究室のドアをノックしてほしい。
  帰りの電車の中、私はできるだけ毅然とした雰囲気を漂わせるように心掛けた。いまの時期、中年男が花束をもって電車に乗っていると、定年を待たずにリストラされたサラリーマンのように見えるからだ。私は決して打ちひしがれてはいません、これからの人生に前向きに取り組んでいくつもりです、そういう雰囲気を漂わせるべく、背筋を伸ばして、窓の外を眺めていた。