PART1はこちら。
若いころの写真でわかるように、寅夫さんは美男で、妻のフサコさんは愛敬のかたまりだ。似合いの夫婦。病のためにふたりは介護施設に入所する。しかし、安穏な施設での暮らしのなかで、ふたりに笑顔はほとんどない。山に帰りたくて帰りたくて仕方がないのだ。ふたりの桃源郷に。
この映画にも、忘れられないシーンがある。
裏山にきのこを採りに行った寅夫さんが遅くなっても帰ってこない。フサコさんはうろたえ、山に向かって絶叫する。
「おとーさーんっ!」
答えがない。何度も呼ぶと、ようやく小さい声が返ってくる。安堵するフサコさん。このやりとりは、寅夫さんが亡くなり、フサコさんの認知症がすすんでからもういちどくりかえされる。ここで泣かない人は人間じゃありません。
そうなの。朝イチでフォーラム東根にとびこんだわたしは、これから研究会があるというのに号泣状態。
特に、三女の夫である安政さんにはノックアウトされた。親を早くに亡くし、ほとんど親孝行ができなかったと悔やむ彼は、自営の寿司屋をたたみ、山のふもとに妻とふたりで越してくる。そして、寅夫さんが働けなくなった畑が荒れないように農業にいそしむのだ。うれしそうに。楽しそうに。三女の夫婦が、おそろしいことに寅夫さんとフサコさんの夫婦にどんどん似てくるのね。
フサコさんが亡くなり、山に建てた墓に夫婦は入る。鼻水を流して悲しむ三女の姿はまさしく母親のものだ。桃源郷は、かくて引き継がれていく。
圭ちゃん、確かに人生にはつらいことがいっぱいある。でもやっぱり寄り添いあって生きるのは素敵なことだ。楽しいことが、これからいっぱい待っているよ。くたびれた中年男にも、そう思わせてくれるすばらしい作品でした。
お客さんが平日なのにいっぱい。おかげで上映延長とか。ぜひぜひ!
柳沢きみおのマンガを相米慎二が映画化した「翔んだカップル」に、こんなシーンがあった。勇介(鶴見辰吾)と山葉圭(薬師丸ひろ子)の高校生カップルが歩いていると、道の向こうで老夫婦が仲睦まじく散歩している。圭ちゃんは感激して
「寄り添いあって生きるのって、素敵なことよね」
と勇介に語りかける。圭ちゃんは、これから彼女の人生には楽しいこと、うれしいことがたくさん待っていると確信しているようだった。当時、すでにひねくれていたわたしのような観客(と相米)はしかし、こう心の中でつっこんでいた。
「圭ちゃん、世の中にはつらいことの方がいっぱいあるよ」と。
「ふたりの桃源郷」は、山口放送がNNNドキュメントの枠で、25年間にもわたってひと組の夫婦を追ったドキュメンタリーだ。
田中寅夫さんは、戦争から帰ると故郷が焼け野原だったことで、妻のフサコさんとともに山口県の山奥に入植する。ひたすらに“食”を求めて。しかし三人の娘のために高度成長期の大阪に“下山”する。個人タクシーで娘たちを育て上げた田中夫妻は、還暦をすぎたころ、ひとつの決断をする。山に帰ろう、と。
電気も水道もない場所。川から水を運び、薪でお風呂をたて、食材はほぼ自給自足。夜は廃バスに置いたベッドの上で眠る……厳しい自然のなかで(ラストの空撮で理解できるが、まさしく油断していると森に呑み込まれそうな土地なのだ)、ふたりはとても楽しそうだ。寄り添いあって生きる、まさしくふたりにとっての桃源郷。
しかし、ご想像のとおりふたりの身には「老い」「病気」がしのび寄る。都会に暮らす娘たちは両親に山を下りるように何度も懇願するが(家族旅行のシーンがすばらしい)、ふたりは聞き入れない。それはなぜなのか。以下次号。
2016年10月号「監査終了!」はこちら。
なじみのない言葉でしょうが、このiDeCoとは個人型確定拠出年金の“愛称”だそうです。所管の厚生労働省が、おそらくは広告代理店あたりにつけさせたのでしょう。絶対に定着しないと思います。
個人型確定拠出年金、というのもどうもわかりにくい。乱暴に結論付ければ、一種の私的な年金のことです。存在自体はずいぶん前からありましたが、これまでは加入できる人が限られていました(自営業者など)。それが、来年の1月から60才までのほぼ全員が加入できることになったのです。わたしたち公務員も含めて。
どんなものかというと
・公的年金に上乗せして給付される。
・加入年齢は60才未満。
・給付は60才から(加入期間が10年にみたない場合はもっと遅くなる)。
・公務員の掛金の上限は月額12000円(将来的には年額144000円の範囲でコントロール)。
・銀行、証券会社、生命保険会社などについて、自分で積み立てる金融機関を選択する。
・運用のリスクは、すべて加入者に帰属。
……説明会を共済組合が開催したのですが、6月に改正法が公布されたのに、肝心の事務手続きについて厚生労働省からの指示が遅れぎみで、「ここからはまだ何とも言えませんが……」的な説明が多く、かわいそうなくらいでした。
さて、わかりやすくするためにメリットとデメリットをあげて比較してみましょう。
【メリット】
・掛金が全額所得控除される
これはでかいですよ。いま年末調整をやっていてお分かりのように、あれだけさまざまな生命保険をかけても控除は最大で12万。でもこちらは掛けた分が全額ですから。
・運用益も非課税で再投資
これは似たような制度であるNISA(少額投資非課税制度)にも導入されています。
・受け取るときに税制優遇措置がある。
実はこれについて公務員はあまり関係のない話ですので、セールストークを鵜呑みにしない方がいいかも。
【デメリット】
・元本割れのリスクがある商品も存在する。
これは当然ですね。責任はすべて自分で負う。やるやらないも自分の選択。
・中途での引き出しに制限がある。
基本的に60才になるまで引き出せません。だからこそ優遇されているのだし、金融機関が目の色を変えているのです。
・口座管理手数料がかかる(山形県は給与引き去りの予定はありません)。
金融によって差はあるけれども月額500円ぐらい。だからこそ金融機関が目の色を……
税金の減少を承知で国がこの制度を推進しているのは、公的年金がおそらく(きっと)これから減少していく分を自分でなんとかしてほしい、という弱気と、マーケットという名の賭場に、国民の目を少しでも向けさせて株価を引き上げたいという山っ気のためでしょう。だから急いだんです。
すでに県庁には金融が入ってセールス合戦開始とか。いずれ、わたしたちの職場にもやってくる。自己責任だから職場は関係ないようですが、でも加入するときに職場から証明をとる必要はあるんです(職種によって掛金が違うから)。まことに老婆心ながら、慎重にね。
画像は「ジャック・リーチャーNever Go Back」主演:トム・クルーズ
財形だの年金だのとはいっさい無縁のアウトローをトムが演じるシリーズ。クレジットカードまでもたないので飛行機に乗るのも苦労しています。わりとストイックな放浪者……あ、これって寅さんじゃん!アメリカの寅さんはマドンナの選択がうまいんだ。毎回よくぞこんなにいい女を。さすが、アウトローやの。どこでナシつけてくるもんだか。
2016年12月期末勤勉手当号「差額の支給日を推理する。」につづく。
ボーン三部作(だから彼が出ない「ボーン・レガシー」はわたしのなかではなかったことになっています)にはひたすら熱狂した。スパイ映画の、そしてアクション映画のレベルを確実にワンランク引き上げたはずだ。
で、待ちに待った続編が、監督ポール・グリーングラス、主演マット・デイモンの黄金コンビで登場。うれしいよー。
ところが、どうもいまひとつ弾まない。
美点は多いのよ。ボーンに個人的な怨恨もある暗殺者(バンサン・カッセル)とのチェイスは、衛星によってCIA本部で徹底的に分析され、じりじりとボーンを追いつめていく緊張感がある。CIAがまるで神のような存在だと誤解させてくれる(思えばこのシリーズは、そうでもねーじゃん、ってことのくり返し)。
前作の最後で心の平穏をとり戻したかに見えたボーンが、トラウマをかかえてベアナックルの賭け試合に出ることで自分を痛めつけているあたりも、説得力ありあり。ITのヒーロー(まるっきりスティーブ・ジョブズかザッカーバーグ)のプレゼンが微妙なのも計算されている。
でも、シリーズの美点をなぜか継承していないのがつらい。
・ヨーロッパの狭い道を常識はずれのスピードで(しかも地図をチェックしながら)走る→今回はラスベガスのだだっ広い道路をSWATの護送車で爆走するが、広いだけに緊張感がない。
・身の回りにある安っぽい小物を利用して敵をせん滅する(2作目のウォッカの使い方が白眉)→今回は最新のガジェットを利用するので工夫が感じられない。
・シリーズのファンみんなが大好きで、ボーン以外の唯一のレギュラーだったニッキー(ジュリア・スタイルズ)を退場させるなんて!
もはや照明次第では悪鬼のような形相となったトミー・リー・ジョーンズと、小娘部下の腹の探り合いや、メインの登場人物のなかでボーンが誰よりもセリフが少ないあたりはうれしいので、続編ができたらまたつきあいます。なかったことにはしないけれども……。
組織に属さないまま、彼なりの正義で事件を解決に導く(?)ジャック・リーチャーをトム・クルーズが演じた「アウトロー」の続編。二作目にして定型がっちり。
1.職業不定、住所不定。どこからともなくあらわれて事件にまきこまれる、というか自分で飛びこんで行く(股旅もの、そして西部劇のバリエーション)。
2.組織を嫌いながらも、歴戦の英雄であることは有名なので、軍の関係者に無条件に信頼(あるいは警戒)される。
3.クレジットカードを持たない主義なため、飛行機に乗るにも苦労する(今回は小娘がちょっぱったカードを使用。どこが正義の味方だ)。移動手段はもっぱらヒッチハイク。
4.携帯電話も持たないので、むしろその使用法に工夫がある(ラストでの使い方はおみごと)。
5.やたらにいい女が出てくるのに(前作はロザムンド・パイク、今作はコビー・スマルダーズ)、リーチャーと“そういうこと”にはならない。
……わたし、気づきましたよ。この放浪者(Drifter)は要するに寅さんなのだと。むかしはやんちゃしてたのに、今は妙にストイック。熱情の行く先を見つけられずにいる孤独な中年。
特に今回は“娘”が登場するので父性愛が前面に出てくる。車寅次郎が満男にそそいだ愛情に負けずに、リーチャーは自分を犠牲にしても少女を守ろうとする。まあ、最後にあの手を使うんだなと途中でまるわかりでしたが(笑)。
にしてもトムは女の趣味いいよねえ。近年に製作した映画に限っても、「ローグ・ネーション」のレベッカ・ファーガソン、「ゴースト・プロトコル」のポーラ・パットン、「M:i:Ⅲ」のミシェル・モナハン、そして「ラストサムライ」の小雪(笑)。今回のコビー・スマルダーズはそのなかでもトップクラス。リーチャーとの関係は軍人同士らしく乾いた感じ。下着姿になっても、セクシーというより男前だ。
演出は「ラストサムライ」でもトムと組んだエドワード・ズウィック。展開にコクがあって前作よりはるかに面白いです。お決まりのトムのフリーフォールが今回はないのかと思ったら……(笑)
第四十四回「築城」はこちら。
前回の視聴率は15.3%と例によって予想よりも下回った。というかイッテQ!がびっくりするような数字を叩きだしていることが影響したか。イモトがまたなんかやりましたか。
後ろからはこの秋の好調ドラマがひたひたと。「逃げるは恥だが役に立つ」(なんて魅力的なタイトルだろう)では秀忠が踊っている(らしい)し、「校閲ガール」では舞城王太郎みたいな役で菅田将輝が光り輝いている(らしい)。さすがに見ていないのでなんも言えませんが。
さて「完封」。おそらくは三谷幸喜がいちばん描きたくなかった回。合戦は始まるまでが面白いという主張は幸村がはっきり
「策とはそういうものだ」
と言っちゃってますもんね。敵方に通じているのは誰かをいぶり出すあたりの展開は喜々として書いているのがわかります。でもやはり真田幸村の戦功を一度はっきりとぶち上げておかないと、多くの大河ファンが怒る(笑)。実質的なデビュー戦だということも、幸村は最後に(言わなきゃいいのに)ポロッと述懐。いい人です。
これがなかったらしかし今回は虐殺に近いから後味は悪くなったかも。その大勝利を呼び寄せたのが父親の遺訓
「兵を塊だと思うな」
だったのはうまい。幸村はこの勝利によって息子と本当の意味でわかりあえたし、その合わせ鏡のように家康は無能な秀忠にいらついている。
やっぱり、こんな回があってくれないとわたしもしんどいな。主人公が歴史の前面に出て来たのはなぜなのか、たまにはくっきりと縁取りしてほしいっす。
きりちゃんも再登場したし、淀君のトリックスターぶりもうれしい。勝利の回なので視聴率は今度こそ16%台復帰と読みました。だってこれからはまたしても腹黒い話の連続でしょう?いちばん喜んでいるのは三谷幸喜でしょうけれども(笑)。
第四十六回「砲弾」につづく。
Bruce Springsteen - Hungry Heart [with Mumford and Sons]
おや、こんな南部の奥まで日本人のお姉ちゃんが取材かい。俺たちに何が訊きたいんだ?ほー、トランプが大統領になってどう思うかってか。そりゃうれしいさ。もちろん投票したよ。むかしから共和党に投票はしてたけど、今回は気合いが違ったな。あいつなら俺たちのことをわかってくれるよ。
ああわかってる、わかってるって。おれら貧乏白人のことをあの金持ちがほんとにわかってるのかってことだろ?おい姉ちゃんよ、それこそわかってねぇなあ。そんなことは関係ないんだ。あいつは少なくとも俺たちのことをわかったふりだけでもしたぞ。
それにくらべてなんだいあの高慢ちきな女はよ。なんでもわかってます、亭主の不倫も我慢したって顔が気に入らねーや。俺たちが腹が立ってるのはよ、民主党も共和党も関係ないんだ。誰も俺たちのことを本気で考えてなかったってことだよ。
黄色い猿の前で言うのもなんだけど、あ、すまねーな、もう酔ってるんだ。お前らのトヨタやホンダと、いつも中華鍋を背負ってる奴らのせいでどれだけアメリカ人の雇用が無くなってるか、ってことだよ。
TPP?笑わせるよなあ。それって要するにオレンジをいくらでも買うから自動車の関税はなくせってことだろ。なめてんじゃねーよ。トランプはそんなこと絶対に許さない。投票して正解。そう思ってた奴らがこんなにいたのがうれしいや。
どうだ姉ちゃん、あんたたちはサケとかいう色もついてないのを飲んでスシをつまむんだろ?ここにはそんな気にきいたもんはないけどよ、いっしょに飲もうぜ。
え?おい姉ちゃん、おれたちをなめてもらっちゃ困る。トランプが大統領になって、おれたち貧乏白人がかえってしんどい思いをするのがわからないのかって?
知らないはずないだろ。
それでもよ、あの変な髪型のジジイに入れた方が気持ちよかったんだ。うースカッとしたぜ。姉ちゃん、ほんとに飲まないのか?スプリングスティーン?…………まあ嫌いじゃないけどよ、あいつの民主党狂いにも困ったもんだよな……まあ、嫌いじゃないよ、ボスのことはよ……
「チルドレン」の16年ぶりの続編。棚に並ぶまで出ていたことも知りませんでした。家裁の調査官である陣内、武藤、全盲の名探偵である永瀬と恋人の優子(ふたりは結婚してました!)など、みんな健在。少年犯罪を扱うので、話はどうしても感傷的になる。そこをひっくりかえすために陣内という特異なキャラ(延々と続くへらずグチ、行動が放埓なのか計算ずくなのかわからない)が必要だったんだなと今なら理解できる。
前作がドラマ化されたときのキャストは陣内→大森南朋、武藤→坂口憲二、永瀬→加瀬亮だったんだけど、今作は誰でくるかなあ。ドラマ化するのにこんなにぴったりな原作はないぞ。読者の予想をことごとく裏切る展開が気持ちいいですし。